(10)天水(てんすい)
W杯120分を戦いぬき、引き分けた末にPK戦で敗退したチームを思い、お通夜のように打ちひしがれた隠れサポーターの崖下は、居間で放心状態に陥っていた。そのとき、彼の父親が襖を開け、スゥ~っと幽霊のように入ってきた。
「…どうかしたのか、登?」
父親はションボリと落胆した息子を見て、ひと言、声をかけた。
「なんだ、父さんか。いや、何でもないよ…」
「そうか…なら、いいんだが。早く寝ろよ」
「ああ…」
「そうそう、ベスト8、ダメだったそうじゃないか…」
父親の言葉が、まさに自分が落ち込んでいる原因だったから、崖下は心を見透かされたようで、驚いた。
「…よく知ってるな、父さん?」
「いや、なに…。俺の友人がサポーターで現地へ飛んでるんだ。さっき、電話が入ったのさ」
崖下は父親の人脈の広さに、またまた驚いた。
「そうなのか…」
「まあ、勝ち負けは時の運という。120分を引き分けたのなら実力は互角なんじゃないか。俺も親父に天水に心を動かすな・・とよく言われたものだ」
「天水…?」
「ああ、天水。天の水とは雨水だ。下界の者が降ってくれと望んだとて、どうなるもんでもなかろうが…」
「なるほどな…」
「どうにもならないことに、雑念を湧かすなっ! という戒めだ。分かるな…」
登は父親が言った意味がよく分からなかったが、なぜか得心が出来、小さく頷いた。
サッカーファンの皆さん、そういうことで、過ぎたことはサッパリと忘れ、今後のチームJAPANの活躍に期待しましょう。^^
完




