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生神贄伝  作者: キアラ
始動篇
2/36

第一章 生温い戦場

メインキャラ4人のうちの2人、暴君リンラとその相棒ヒバル視点、とある戦場の一幕。

 【蒼魔灯(ソウマトウ)】――それは医学、経済、行政、軍事、特殊能力の研究など多くの部門において最先端を勝ち取り、大陸の大半を支配下においていた超大国。

(ま、今は真っ二つに割れた挙句、その片割れの国と戦争してんだけどな)

 曇天の空に、岩があちこちに突き出ている荒野。互いの陣地の間を不規則に飛び交う弾丸や砲弾、そして軍人特有の気合いの入った咆哮。どこからどう見ても本物の戦場だが……正しく絵に描いたようなこんなチャンバラ、高揚感は愚か恐怖すら感じられない。

 今年で十七歳になる特待軍人の少女リンラは、幼少期から変わらないハネッ毛の金髪を片手で撫でつけた。ついでに前髪をピンで留め直すと、隠れ蓑にしていた岩にゆったりと寄りかかる。袖がダボついた紫紺の軍服と特注のブーツには、反り返った三本のレイピアで表されたRの文字――蒼魔灯の片割れ国である【リヴドシティ】のシンボルマークが刻印されていた。

『おいリラ、サボってねぇで前に出ろ。予定よりツイストが押されてる』

 左耳に装着した超小型通信機を通して、相棒が指示を出してくる。「ファーストがいんだろ」と気怠げに言い返すと、『そっちが押されてっから後方に影響が出てんだろうが』と苛立った声が返ってきた。リヴドシティは【アラウンド】という、五つの部隊で編成されている軍隊を所持しており、リンラはそこの主力部隊【ファースト】の指揮官を任されていた。

『開始早々にすっぽかしやがって……いい加減限界だって小隊長が泣いてんぞ』

「このレベルで泣くとか逆に泣けてくんだけど」

『じゃ泣きながらでも良いから行け』

「(ムカッ)……だったらエスコートしてくれよ、ヒバル中尉どの」

『ふざけんな自分でいけ』

 ブチッと乱暴に音を立てて通信が切られた。通信機と鼓膜が破壊されなかっただけましか。リンラはよっこらせと重い腰を上げると、腕を交差させて腰の()()()を引き抜く――途端、スイッチが切り替わったように表情が消えた。相棒が言ったように、この戦場に戦術・戦略家は必要でも案内役は要らない。敵味方が入り乱れても戦場そのものは拡大しないからだ。

 銃声や爆音に混じる軍人の掛け声を標に少し走れば、左右にジグザグに広がって蠢く自軍のアラウンドと、敵軍である【鬼士(きし)】の姿が見える。アラウンドの軍服が男女問わず学ランのような漆黒の詰め襟なのに対して、鬼士の軍服は紅蓮の鎧武者のような古風なものだった。

「ま、サボりすぎて減給されちゃたまんねぇしな」

 見飽きた光景を前にやれやれと吐き捨てると、リンラは右手に持つ小太刀を頭上に掲げた。


「ブラッドタイプ、アクティベート」


 彼女の周囲だけ微風が発生したかと思いきや、アラウンドと鬼士を隔てるようにして橙色の光が発生する――それは炎の壁だった。己の血液をエネルギーとして四属性の特殊能力を発動するスキルを、この世界では【ブラッドタイプ】と呼んでいる。

(この距離じゃ、ちっとばかし温度が落ちるか)

 そんな小さな懸念をよそに、鬼士たちは見慣れているはずのその炎に今日も律儀に驚いては、のろのろと後退してくる。リンラは鼻で嗤いながら地を蹴った。壊すな、停止させろ――こと戦いにおいては手加減が苦手なリンラに、先ほどヒバルと呼ばれた少年はそう助言していた。

 前傾姿勢を維持し鬼士の群れに滑り込むと、蛇のような柔軟性と素早さを以て鎧の隙間に刃を食わせていく。鎧ごと斬っても構わないのだが、制限をかけたほうが少しは手応えがあると考えての選択だった。

 ふざけてる? 何とでも言えばいい。

(こっちの動きについてこれないほうが悪ぃんだよ!)

 あっという間に動ける鬼士を半分まで減らし、残りを目力と威圧感だけで遠ざけた。今まで通りなら彼らはここらで一度身を引くはずなので、その間にファーストとツイストに攻め入っている残党を……と考えていたが、今日はもう少し粘るようだ。

 前方およそ百メートル。後退した歩兵たちと入れ替わるようにして、鬼士側の中隊が鉄砲を片手に現れた。さらにその後方には八両の戦車が横一列に並んでおり、前衛の味方が的にならないよう砲口はすべてアラウンド陣地の中央に狙いを定めている。彼らもリンラが参戦したことは知っているはずだが、焦って前へ出てきたようには見えない……となると、

(ああ、来たな)

 今まさしく、己の後ろに――リンラは待ってましたとばかりに口端を上げ、足元に炎の渦を発生させた。

「っ!」

 彼女の背中を狙っていた小柄な黒装束の少女が、盾と化した渦を前に踏み止まる。するとリンラは、躱されるのを読んだうえで一歩後ろに踏み込みながら小太刀を払い、その勢いのままに回し蹴りを繰り出した。少女は避けずに片腕で受け流し、曝け出されたリンラの肩を狙って細身の剣――()()()()を突き出す。咄嗟に前転で回避するリンラだが、


「ブラッドタイプ、アクティベート」


 抜き身から発せられたかまいたちが薄く服を裂いた。弾丸が掠めた程度では破けない、という謳い文句だった軍服がこうもあっさりと……嗚呼、戦いはこうでなくては。リンラは小太刀を逆手に持ち替えると、実に愉しそうに少女――アズハに斬りかかっていく。

 正面から小太刀を振り下ろせば相手はレイピアで受け止め、払い除けるのと同時に空を掬い上げるように手を動かした。途端に突風が発生し、リンラは宙へ巻き上げられそうになったが、小太刀を地面に刺して屈むことでどうにか耐えた。

 その隙を逃さずにアズハはレイピアを突き出してくるが、リンラは小太刀を支えにその場で勢いよく倒立して避け、そのまま踵落としを決めにかかる。地面に点々と炎を発生させればアズハの後退する動きが鈍り、踵は彼女が身につけている着物の肩を掠めていった。

「っ、ん?」

 リンラが小太刀を地面から引き抜いて踏み込むと、待機していた戦車がアズハを援護するように砲弾を放ち、合わせて鉄砲隊が発砲してきた。タイマンを邪魔しやがってと舌を打ちつつもリンラは振り返り、小太刀の柄と柄を合わせ双刃刀に変える。

 抜き身に炎を纏わせ刃渡りを伸ばすと、間近に迫った弾丸を斬り落とし、時折うまく弾き返しては鬼士の持つ鉄砲を破壊していった。それでも流れ弾の殆どは、彼女を通り越してアラウンドに襲いかかるが、一発とて命中することがないと知っているリンラは振り返らない。


『ブラッドタイプ、アクティベート』


 通信機から相棒の声が流れるのと同時に、分厚く反り返った巨大な氷の壁がアラウンドを護るように聳え立ち、弾丸と砲弾の雨を食い止める。けれども砲弾がめり込んだ部分からすぐさま亀裂が走り、氷の壁はガラガラと崩れ落ちてしまった。構築スピードも厚みも中々のものなのだが、意外に脆いのが難点だ。

 さらに上空の雲が怪しく点滅したかと思いきや雷鳴が轟き、ついで爆音が聞こえてくる。鬼士側のブラッドタイプ所持者によって、アラウンドの戦闘機―おそらくは遠隔操作式の無人機のみ―がやられたか。

「よそ見」

「あ、悪ぃ」

 リンラは双刃刀を小太刀に戻しつつ周囲に火花を散らすと、アズハが生み出した数多のかまいたちを橙色に染めた。そうして迫り来る熱風の刃を尽く躱すと、アズハに向けて大きく踏み込み小太刀を突き出す。アズハのほうもレイピアを突き出し迎え討とうとしたが、



 パンッ、パン!



 そのタイミングで、両陣地のちょうど境目に停戦信号が打ち上げられた――今日の戦はここまでだ。

(こういうブッチ感、マジで興醒めだわ)

内心で愚痴りつつもリンラは構えを解き、小太刀をしまった。お前もしまえよと顎をしゃくって促すと、アズハも渋々といった感じでレイピアを鞘に収める。敵陣地の近くにいるためか、その動作は普段よりも慎重だった。

 ()()()と違って腰まで伸びたストレートな黒髪と、右耳を飾る赤い紐状の耳栓。そこそこ派手に動き回っていたわりに彼岸花の散った漆黒の着物には乱れがなく、レイピアを除くすべての装備品に`鬼`という白い文字が縫い付けられている。

「……なに?」

 遠慮のない蒼い眼差しが不快なのか、少女は声を尖らせる。そして微風に靡く髪を手で押さえる振りをして、さり気なく右耳の耳栓に触れた。

「べつに、軽装なのか重装なのか(相変わらず)よく分からねぇ軍服だ(似合ってるな)と思って」

「…………」

 これは、確実に気づいていて口にしている――アズハは小さく嘆息すると、リンラに背を向けて歩き出した。他の鬼士や戦車も彼女に倣い、アラウンドの陣地から撤退していく。重々しく垂れこめていた暗雲も役目を終えたとばかりに散り散りになり、清々しい夕空が現れた。思い出したように強風が荒野を吹き抜ける。

「相変わらずクソみてぇに便利な力だな、祈祷(きとう)ってやつは」

 とは言え、ここまで大胆に天候を操作するには相当数の祈祷兵が必要らしいが。苛立ちと軽い労いの混じった感想を吐き捨て、殺気がないことを一通り確認してからリンラも自陣のほうに踵を返した。粗暴なわりにしゃんと伸びたその背中が遠ざかっていく様子を、アズハの紅い目が肩越しに見つめていた。


    ◇◇◇◇


「ゲッ、来やがった……ったく、ちゃんとシミュレーション通りに動いてほしいぜ」

「Eだからって調子に乗ってるんじゃない?」

「なーにが`特待軍人`だ、まだアカデミーも卒業してねぇ学生のくせに」

 Eとは、民の名前の頭に振られているランク名【東西南北(ステアード)】の一つだ。蒼魔灯時代から住民IDも兼ねて使用されていたため、リヴドシティに限らず、先ほど交戦した鬼士を動かしている敵国【死乃宮(しのみや)】の民も―読み方は違えど―同じランク制度を使用していた。

 (イースト)(ウェスト)(ひがし)西(にし)がいわゆるギフテッド、(サウス)(みなみ)がそこそこ才能のある人間、(ノウス)(きた)が平凡な人間という基準で割り当てられている。

「陰でコソコソ(にえ)と密会してるって噂、ホントなんじゃない?」

「おい声がデカいって! 焼き殺されるぞ……」

(焼き殺す価値もねーよカスが)

 簡易テントや倉庫の密集する駐屯地に戻ったリンラを待っていたのは、アラウンドからのあからさまな蔑みの眼差しだった。戦闘中は負傷者を除き、後方支援担当の軍人のみが集うそこに、停戦となった今はすべての部隊が集合している。負傷した軍人までもが味方に向けて不平不満を垂れ流すとは……本当に大したナカマだ。

「ファースト第二小隊長S・ハヤミ・ダスト少尉、報告します。隊員の半数が火傷や軽い裂傷を負い、現在ファイヴで治療を受けています。死者は出ていません。以上です」

「ツイスト砲兵部隊指揮官S・ジュリビア・レイド中佐、報告します」

 駐屯地の一番奥に設置されている広いテントが、アラウンドの司令部だ。閉ざされた入り口の両脇には護衛兵が控えており、中からは各部隊の指揮官の声が漏れ聞こえている。毎度お馴染みの戦果報告というやつだ……どうせ内容は前回と変わらないだろうに。

 リンラは護衛兵の制止を無視して布を捲り上げ、堅苦しく整列している同僚と上司の間に割って入った。彼女の辞書にノックやお伺いという単語がないと理解していても、彼らはいつだって嫌そうな顔で出迎える。特に今回、戦闘開始早々に放置されたファーストの小隊長――長めの深緑色の髪を項辺りで結った青年ハヤミは、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 大佐への報告は基本的に各部隊の指揮官―各第一部隊長―が行うが、その指揮官が負傷したり戦闘中にロストした場合は、第二部隊の小・中隊長が代わりに報告する決まりとなっていた。遅刻癖のあるリンラのせいで、ハヤミはこうして頻繁に報告係を任されている。

「貴方という人は……」

「失礼しますの一声くらいかけるべきですよ、エヴァフォード大尉」

 柔和ながら芯の通った青年の声と、随分と聞き慣れたやや低い少年の声。毎度呆れながらも険のない表情でリンラを迎えてくれるのは、今のところこの二人だけだった。

「……報告の続きを」

 青黒い髪をオールバックにしたアラウンドの司令官E・ジャック・バルブレイン大佐が、見た目通りの重厚な声で軍人たちの意識を引き戻した。幾重にも重なった「はっ」という応えの後、少年――W・ヒバル・エヴァフォードが口を開く。

「先ほどスリーブ航空部隊指揮官S・ラヴェミア・イーニャ大尉から通信がありました。無人戦闘機F2・3が敵陣上空で大破。大尉率いる有人機三機は多少被害を受けたものの無事に帰還、重傷者は無しとのことです。我が通信・偵察部隊フォードも怪我人は出ておりません。現在は単独で引き返してくる敵軍の有無を確認しております」

 彼は戦闘中に通信していたリンラの相棒であり、同い歳の従兄だった。肩につくほどに伸びた金髪を高い位置で一つに纏め、リンラと同じ紫紺の軍服を着ている彼もまた、特待軍人だ。

「……次。ファイヴ医療部隊指揮官、報告を」

「はい。我が医療部隊ファイヴからも負傷者は出ておりません。各小隊員は、先ほど報告に挙がったファーストの治療を行っています」

 両サイドだけ胸元まで伸ばした銀髪をもつ軍医、S・アオキ・リムナイト。リンラとヒバルの四つ上の先輩である彼の軍服の両袖には、白いラインが入っており、これはファイヴの隊員限定のデザインだった。

「報告は以上です」

「うむ……さて、ファースト歩兵部隊指揮官エヴァフォード大尉。報告中の途中入室は緊急事態でないかぎり控えるよう、何度も言っている。それ以前に時間を守るようにとも」

 ああ説教モードうぜぇ、と心の中では盛大に舌を出すリンラだが、

「申し分けありません。何分私の不手際で隊員たちが散り散りになってしまったばかりか、そこそこの重傷者も出ておりましたので、掻き集めるのに苦労しまして」

 大佐に報告をする姿は、どこをどう見ても立派な指揮官だった。

「重傷者だと?」

「はい。第二小隊員三十名のうち二十名は肩や足への裂傷、十名は軽度の打ち身。第三小隊員二十五名は無傷でしたが、残り五名が銃槍を負っていました」

「っ、銃槍ですか」

 報告に上がっていないと言うアオキを肩越しに一瞥し、リンラは続ける。

「第三小隊長から報告を受けて私が確認したところ、急所は外しておりましたが、弾が貫通せず体内に残った者が三名いました」

 アラウンドの隊員が携帯するピルケースの中には、銃槍に効く錠剤も入っている。しかしそれはあくまでも応急処置用で、弾が残ったまま完治させることはできない。

「なので、リムナイト中尉には至急、その三名の容態確認と治療をお願いしたい」

「分かりました」

 アオキは力強く頷くと、大佐に敬礼をしてからテントを出ていく。ハヤミを始めとする他の軍人は皆一様に視線を泳がせていたが、ヒバルだけは静かに口の端を上げてリンラを見ていた。気紛れで戦闘狂で協調性に欠ける野蛮人、しかし馬鹿でも非道でもない――それがE・リンラ・エヴァフォードという軍人だった。

「報告は以上です、大佐」

 得意げに敬礼をしたリンラはさっさと自分のテントに戻り、荷物や装備の詰まったボディバッグを引っ掴んで帰還用の軍用車に乗り込んだ。運転席に最も近い角の席に腰を下ろし、バッグから取り出した毛布に頭から包まって目を閉じる。疲れてないはずが疲れた。さっさと帰ってベッドに横に、いやどうせなら……。

「あいつの膝か肩か背中借りて寝てぇ」

「変態臭ぇぞ」

 ポイと放り投げられたボディバッグがリンラの腹にヒットし、「ぐぇっ」と潰れた声が漏れる。犯人であるヒバルは断りもなく隣に座ると、「俺の膝なら五千エンで貸してやるけど」などと言ってきた。ムカついたリンラは膝を蹴飛ばしてやった。応えた様子は微塵もなかったが。

「約束は明日だろ、我慢しろ。間違っても前みてぇにネズミだのハトだの使って呼び出すんじゃねぇぞ」

「何かあったの、って凄ぇ顔ですっ飛んできたよな。あれはウケた」

「お前そのうち刺されるぞ」

「ついさっき、そーなりかけたよ」

「……そっか」

 テンポの良かった会話がふいに行き詰まる。毛布から目元だけを覗かせれば、らしくもなくヒバルは俯いており、リンラは鼻で笑いながら毛布を腹の辺りまでずり下ろした。

「こんな戦争とも呼べねぇ戦争、いつまで続くんだろうな」

 気心の知れた相手と二人きりだからか、ヒバルは普段よりもストレートに弱音を吐く。これが本気の戦争だったらどちらかの国が潰れれば終わる話だ……だが今自分たちが行っている戦争は、違う。定期的に決められた戦場に赴き、決められた時間だけ戦う――そういう【暗黙の了解】が取り付けられた、授業のような名ばかりの戦だ。

 分裂して間もない頃こそ都市や一般人を巻き込んだ本気の殺し合いで多くの犠牲者を出したものの、弱体化したところを周辺国から一斉に攻め込まれる可能性や、経済が極端に傾くことを危惧した上層部によって、二年後には互いに大きな被害や犠牲者を出さないという制約が設けられた。これにより【犠牲を払わずに武器や軍人を生み、使い続ける軍事システム】が完成した。

 さらに分裂後の両国は、以前にも増して積極的に他国と関わりを持ち始めた。おかげで経済は軍事関連の貿易によって安定し、職がない人に向けて軍事施設への就職支援を行ったことで、浮浪者の数を爆発的に減らすことに成功した。

 また、長期間それなりの戦力を以て戦い続けることには「裏切れば分かるよな?」という周辺国への牽制の意も含まれていた。こうして並べ立てる分には平和で合理的な策だが、

「ま、そんな落ち込むなって。今はまだ`殺せ`なんて命令出されてねーし」

初めて戦場に立った十二歳の夏から、もう五年もあれこれ考え悩み続けている軍人がここに二人、いや()()いる。

「いざって時は逃げりゃいいしな」

「そりゃそうだけど……は?」

 `逃げる`とはどういう意味だとヒバルは顔を上げるも、リンラは「着いたら起こせよ」とだけ言うと再び毛布のなかに沈んでしまった。加えて他の軍人がぞろぞろと乗車してきたため、無理やり追求しようにもできなくなってしまう。

(変なとこで勿体ぶんなよ、脳ミソ単細胞のくせに)

 部下からの労いの言葉を適当に流しながら、ヒバルは心中で毒づいた。早く帰りたい以前に、明日になってほしかった。従妹が妙な掘り出し物を見つけた、あの新月の夜から十二年――永歴五〇二六年五月の帰り道のことである。

超大国【蒼魔灯(ソウマトウ)

かつて小さな島々や集落を除くほとんどの大陸を支配していた大国。もともとは`洋`と`和`の文化を築いていた二ヵ国―現在の二ヵ国とは別物―が融合した合衆国で、各国の突出した部門を活かして他の国を支配下においていたが、現在は【リヴドシティ】と【死乃宮】の二ヶ国に分裂して微温い冷戦状態にある。


アラウンド

リヴドシティが誇る軍隊。医療部隊の【ファイヴ】、通信・偵察部隊の【フォード】、航空部隊の【スリーブ】、砲兵部隊の【ツイスト】、最前線主力歩兵部隊の【ファースト】という五つの部隊から成り立っている。ファイヴとフォードが十人×四分隊の小隊、スリーブが四十人×の三小隊の中隊、ツイストが百人×四中隊の大隊、ファーストが三十人×三小隊の中隊。ファーストはスパイラルアカデミー軍事部の実戦訓練で高成績を修めた者から成る突撃兵の集まりである。


鬼士(きし)

死乃宮の軍隊の総称。

医学同様に大砲や機関銃の類の発展は遅れているが、特殊能力を用いた天候操作や地形変動、敵軍の移動経路の絞り込みといった超能力戦法でアラウンドと互角に戦っている。部隊編成は通信・偵察部隊の【肆】、祈祷部隊の【参】、装甲部隊の【弐】、主力歩兵部隊の【壱】。肆が十人×四分隊の小隊、参が四十人×三小隊の中隊、弐が百人×四中隊の大隊、壱が四十人×三小隊の中隊。弐の戦車部隊(第四中隊)は四両一八人・四両一八人・四両十八人の一個中隊(五十四人)+鉄砲歩兵四十六人より成り立っている。


ブラッドタイプ

世界共通の特殊能力。血液型、兼、属性表示方法。EW・東西の者は炎・氷・風・雷のいずれかの属性を血液内に備えており、訓練次第で攻撃に応用することが可能である。EW・東西は九割型、S・南では五分五分の確率で属性をもっているが、N・北で属性をもつ者はほぼいない。

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