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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
5/61

2-1 約束

今回は若干スプラッタ的な描写がありますが、そこまでグロくないのでそんなに身構えなくても大丈夫だと思います。

二話は三分割にしていますが、それでもちょっと長いかもしれません。

「ノワール、二人で一気に仕留めるよ。援護して」

「仰せのままに」


 ヴァイスは隣にいるノワールに声をかけた。仰々しく礼をしたその彼を横目に、ヴァイスは前方へと駆ける。

 そのまま片手剣で斬りつければ、異形はダークレッドの爪で迎撃した。両者の力は然程差がなく拮抗する。お互い弾くようにして飛び退いた。


「グオオォォォォォ‼︎」


 ヴァイスが着地した瞬間、異形が吠えた。ハッとして顔を上げれば、空中に数多浮かぶ岩石が見えた。

 異形が魔法を行使したのだと気付いたヴァイスは、自身も魔法で迎え撃つべく左手を前に突き出す。


 だがヴァイスの魔法が放たれることはなかった。ヴァイスの方へと向かう岩石たち、その全てが轟音と共に消し炭にされたからだ。

 それがノワールの魔法によるものだと一瞬で理解したヴァイスは、敵が怯んでいる隙に距離を縮めた。


 勢いを殺さないまま、ヴァイスは異形に斬りつける。その攻撃は異形の巨体に確かなダメージを与えた。


「ガァァ……!!」


 呻き声をあげた異形は、痛みからか大きな動きで前腕を振る。

 ヴァイスは咄嗟に剣でその攻撃とも言える動きを凌いだが、体格の差が不利に働き反動で体勢を崩された。


「わ、ぁっ!」


 その瞬間を見逃すまいと、異形の鋭い眼光はヴァイスを捉える。

 ヴァイスは焦りを募らせた表情を見せ、受け入れるしかないであろう攻撃に備えガードするようにして剣を構えた。


「やっぱ小さいのって不利だよね」


 流れるような音と共に、目の前が鮮血に染まった。薄汚れた物体によって狭まった視界は、状況の理解を妨げる。

 その物体が全て地に落ちたのを見て、ようやくヴァイスは何が起こったのかを理解した。


 ノワールが取り出した彼自身の専用武器によって、異形が細切れにされたのだ。スプラッタ映画のごとく悲惨な残骸を目にし、ヴァイスはうげっと声をあげた。

 その後で、不快そうに返り血で汚れた部分を拭う。不意にスッと手が差し出された。


「ヴァイス、大丈夫?」


 にっこりと貼り付けられたような笑みを見て、ヴァイスはパチクリと目を瞬かせる。ほんの一瞬の間を置いて、ヴァイスはその手を取った。


「……うん、大丈夫。ありがとう」


 降り始めたばかりの雪みたいな調子でそう言えば、ノワールは安堵したように少しだけ笑みを深めた。


 他人から見たら、ノワールのその笑みは些か胡散臭さが拭いきれないように感じるだろう。

 けれどヴァイスは違う。彼らは幼い頃——それこそ目覚めた時から五年もの間ずっと、同じ時を過ごしている。だからヴァイスは、ノワールが元々こういう表情しか作ることができないのを知っていた。


 彼の顔を見る度に、ヴァイスはその性質を思い出す。

 もうとっくに慣れてしまったことではあるが、もう少し彩のある表情を見たいという気持ちがないわけでもなかった。


「僕の顔に何かついてる?」


 そんなことを考えているうちに、どうやらヴァイスはノワールの顔を見つめすぎてしまっていたらしい。にこやかな笑みを絶やさないままに、黒瑪瑙(くろめのう)の彼が首を傾げて聞いてきた。

 ヴァイスがふるふると無言で首を振れば、そっか、とだけ言われた。


 そうして何事もなかったかのように、ノワールは残骸処理を始めようとしていて。その大きいとも小さいとも言えない背中を見つめていたヴァイスは、ハッとあることを思い出した。


「お前、僕のこと小さいって言ったでしょ」


 しゃがんでいたノワールに近寄って、ヴァイスはそう言った。ピタリと作業の手を止めたノワールは、おかしそうに笑ってこちらを見る。


「えー、聞き逃してくれたと思ってたのに。残念」


 実際に残念とは思ってもいなそうな声色で言う。そんなノワールの態度を見て、ヴァイスは僅かに眉を寄せた。

 その不機嫌の仕草を感じ取ったらしいノワールは、緩慢な動きで手を振ってみせる。


「別に貶したかったわけじゃないからさ。ほら、小さいと力比べで負ける確率は上がるだろう? さっきの君がそうだったように、それでピンチに陥ることもあるんだから」


 これでもちゃんと心配してるよ、と目を合わせて言われた。


 ヴァイスは、その言葉でもう一度小さいと言われた気分だったが、ノワールの言うことももっともだった。それを含めての全てを理解しているからこそ、ヴァイスも強く返すことができない。

 むず痒さを感じながら、けれど意地を張りたかったヴァイスはこう言った。


「どっちにしろ、僕が怪我したところで大事になんかならないじゃん」


 拗ねた子どもみたくそう吐き捨てれば、ノワールは珍しく動揺の色をその瞳に浮かばせて。魚のように、何か言いたげに口を開閉した。

 少し息を吸って、それからノワールは声を発する。


「……僕にとっては大事さ」


 ノワールはそう言って、溶けた蜂蜜のような瞳を悲しげに光らせる。

 不本意ながらもそんな表情を作らせてしまった。反射的にそう思って、ヴァイスは心の隅にじわりと滲む仄暗い感情を抱えた。

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