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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
46/61

19-1 なんでもない

 ヴァイスは、あれからどうやってグレースの言葉に返事をしたのか覚えていない。抱いた不信感と違和感が強すぎたせいなのか、とどこか他人事に考えたが、理由を追求したところで思い出せはしなかった。


 そしていつの間にやら会話は終えられ、ヴァイスは研究所を発つことになった。


「グレース様、今日はありがとうございました」

「あぁ。何かあったらいつでも来ていいからな。なんなら、検査じゃなくてただ遊びにくるのでも大歓迎だぞ?立場上表に出ることが少ないと、お前たちに会う機会も中々訪れない。やはりそれは寂しいから」


「わ、分かりました! 分かりました、また来ますので!」


 帰り際にもグレースのマシンガントーク癖が発動しかけたため、慌てたヴァイスは語気を強めてそう言った。グレースもぽかんとした後にまたもや頭を抱えたが、「待ってるぞ」と羞恥の渦中でぽそりと伝えてくれる。

 反省をしながらもそう返してくるのだから、歓迎している旨は本意なのだろう。

 ヴァイスは勝手に解釈しつつ、「はい!」と元気に答える。それに釣られたのか、グレースもにこやかに笑ってくれた。


「なぁ、ヴァイス」


 ふと、最初にここへ来た扉から出ようとしたところ、グレースに引き留められる。何かと思って振り返る。案ずるような、悲しむようなその表情をした彼女は、どこか遠くを見るような視線をヴァイスに向けていた。


 まただ、と再度湧き上がる違和感を抑えながら「はい」と聞き返す。グレースは深刻そうに口篭って、少しした後にようやく続く言葉を吐いた。


「再生を酷使するのは、やめておけよ」


 酷く切なく、優しい声でそう言われた。それはまるで、研究者という肩書きを剥がして親が一心に子を心配するように。意外な忠告と不意の声色に、ヴァイスは一瞬戸惑った。


 元々、グレースに再生の使用を強く推奨されたことはない。そして、ここまで切実に願われたことも。

 だがそもそもヴァイスだって好きで再生を使うことはない。攻撃を受けた際に不可抗力で発動してしまうものではあるので、なんならその点で言えば場合によっては煩わしいものだ。加えて怪我をすることも痛いのも嫌ではあったので、使わないで済むならそうしたいところがヴァイスの本音。


 諸々の思考を絡めながら、ヴァイスはグレースの言葉に頷いた。良い返事をしながらも、どこか間の抜けた顔のヴァイスにグレースは薄く微笑む。最後に「またな」とだけ言って、彼女はヴァイスを見送った。



 足早に研究所を出て、そうして地面を駆けていく。今日予定されていた任務の現場へと向かうため。

 なんだかんだでかなりの時間を食ってしまったため、間に合うかどうかは定かではないが、元々の用事を塗り替えられたからと言ってスルーしていい訳でもないだろう。

 走りながら端末で任務概要に載っている場所を確認し、そしてヴァイスは徐々にスピードを速めていった。

 今日の任務は「郊外の廃墟に縄張りを作っている異形の討伐」だ。


『わざわざ行く必要あるの?』


 これは概要を聞いた当初のノワールの言葉。ドン引きものだ。

 まぁ確かに、廃墟、それも郊外となると異形が湧いたとて優先順位は普通なら高くはないだろう。

 だがそんな廃墟でも管理している人はいる。その管理人は、聞けば定期的に廃墟の様子を見にいっているらしい。その管理人に何かあっては遅いからと、組織はその廃墟周辺に立ち入り禁止令を出して、ヴァイスらNoDiWSに任務を発令したという経緯なのである。


 ヴァイスは目的地へと向かいながら、そうして昨日ノワール達と確認したことを思い出す。ついでのような形でノワールとスティルの、あの少しギスギスとした様子も思い出した。昼食の時以降不安に思ってはいたが、入浴後に翌日——つまり今日の任務について会議をした際には、すっかりいつも通りに戻っていたのだ。

 不思議に思い、スティルにこっそりと声をかけたら「あれは私にも非があったので」と言っていた。その後に「正隊員としての意識の低さは目に余りますがね」と、ノワールの態度に文句をこぼしてはいたが。


 それはさておき、何がどうなって非があるないの結論に至ったのかは知らないがともかく解決したのなら良かったと、ヴァイス本人は呑気に考えている。

 会議前には「次の任務に影響したらどうしよう」などと思っていたが、あれなら大丈夫だろう。脳裏で次々と思考を展開していれば、目的地である廃墟が見えてきた。


 廃墟周辺には、部外者が立ち入らないようにと結界魔法が展開されている。だがヴァイスは任務に就いた関係で結界の適応外となっているため、それをものともせず通り抜けることができる。体に違和感でも走るかと思っていたが、予測していたそれは全くなく、すり抜けるように結界内に入り込めた。

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