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重い足取りで寮を出る。ヴァイスを包む陽光は、まるで激励しているかのような暖かみを含んでいた。自然までもが敵か、と八つ当たりのような考えを浮かべながら、足を進めていく。
人工亜人が検査を受ける場所は病院……ではなく、彼らが造られた研究所で行われる。研究所、と言ってもそこは人工亜人専用のものではない。元々国が建てた総合研究所から派生するような形で異形や人工亜人に関する研究所が作られたため、かなり大規模な施設なのだ。
ヴァイス達人工亜人に関連するものだと、異形対策開発局として大きく分けられ、そこからいくつかの部署に分けられている。人工亜人開発部、武器・戦闘服開発部、そして魔法薬開発部の三つ。
ただこれらも体裁上組織化されているだけであり、枠組みを気にせず研究に取り組むものもいるらしい。
だがヴァイスは研究所などに関しては詳しくないどころか興味もさほどなく、あまり多くを把握してはいなかった。「色々研究してるんだな〜」という、実に質素な感想しか持っていない。直接的に関わることは少なく、そもそもヴァイスは戦闘員であって研究員ではない。特に人工亜人の開発に関する研究は極秘というのもあって、詳しく知ろうとしたことすらない。
とは言っても、研究職に就いている者を除き、組織の隊員達は大半がヴァイスと同じように研究云々は興味を持っていない。だから、ヴァイス本人は研究への興味の薄さに負い目を感じることはなかった。
話を戻すが、定期検査やその他体の根本的な部分での不調を診てもらう際は、人工亜人開発部に訪れる必要がある。
つまり、組織とは関係のない者が勤める総合研究所に、足を運ばなければならないという訳だ。
「……何度来ても、肩身の狭い……」
全体的に色味の薄い大きな建物——総合研究所を前にして、ヴァイスはつぶやいた。大きな建物自体には寮で慣れているが、ここはそれとは訳が違う。あそこは文字通りマイホームであり、もはや自身の領域と言っても過言ではない。
それに比べて研究所のなんと堅苦しい雰囲気よ。息が詰まる思いになりながら、ヴァイスは数分彷徨わせていた足をようやく動かして中へと入った。
建物内は更に圧巻だ。受付だけでもそれがよく分かる。吹き抜けとなっているために天井へは高く、基本的に白い室内は光がよく反射していて眩しい。
そして忙しなく動く、研究所に勤める亜人達。魔法使いや魔女などの亜人ノ国の種族だけでなく、他国の種族も勤めるここは、閉鎖的な関係性を保つヴァイスからすればあまりに広すぎる世界だ。
この研究所は受付の方法もなんとも近未来的で、体内の魔力をスキャンして身分や所属を割り出せるようになっている。専用の機械に手をかざせば、それに仕組まれた魔法によって自身の魔力が解析される。
魔力を変換して使う魔法で、その大元である魔力を解析するなんてなんともおかしな話だ、と知った当初ヴァイスは思ったものだ。
そうして一分も経たないうちに解析が終わる。受付の人が見ているパソコンには、今頃ヴァイスの名前や人工亜人であることなどが表示されているだろう。そう思うと、自分の内側を覗かれたような気持ちになってむず痒くなる。別に受付が初めてという訳でもないのに、この感覚は拭えない。
居心地の悪さに押し潰されそうなヴァイスの心情とは真逆に、受付の人から快く迎え入れの言葉を贈られる。通行証を渡されて、小さく感謝の言葉を述べてからは、さっさと用事を済ませてしまおうと足早に目的地へと向かった。
ほとんど駆け足の状態で、建物内を迷うことなく進んでいく。
ヴァイスが目指している開発局は別棟にあるので、一回渡り廊下を通らなくてはいけない。そこへ行くと極端に人の往来が減る。異形に関する研究は、他の普遍的な研究とは交わりがさほどないからである。
同じ施設のもとにあるだけで、内容も何もかも大きく違う故にこの二つは実質的には別物なのだ。
生まれた場所がここなら、人工亜人が亜人関係に閉鎖的なのも頷ける。脳裏にチラつく外交的な身内のことは追い払いながらそう考える。
途中、すれ違った局員の人に挨拶をしながら、ヴァイスは渡り廊下を抜けた。
局の内側へ入ると、途端に安堵感が襲ってくる。生まれた場所だからか、それともここには同族——人工亜人が占める割合が比較的多いからか、研究所の他の場所よりは落ち着ける。邪魔にならないよう入り口を避けてから、一度ふぅと息をついた。
気を取り直して開発部の方へと足を進める。廊下を進んで突き当たりを右に曲がって、そうして更にまっすぐ歩いたところの突き当たり。そこには地下室へと続く階段があった。
トン、トンと一段ずつ降りていくたびに、自分のものではない寒気に背を撫でられる。魔法も使っていないのに寒いのは勘弁だな、と思いつつも、その自身の魔法よりはマシな寒さにヴァイスは身震い一つしない。
照明を絞った暗い廊下を進むと、その最奥に大きな扉がある。「人工亜人開発部」と、無機質なフォントで綴られた文字を貼っつけたその扉。右手を扉にかざせば、これまた無機質な音を立てて扉のロックが解除される。パズルのピースが一つずつ崩れていくように扉は開いていき、相変わらずすごい技術だと眺めながらそれが完全に開くのを待った。
一歩足を踏み入れれば、そこには神秘的とも言える室内の光景が広がった。この場所こそが、ヴァイスの誕生した場所だ。




