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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
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1-3 対異形人工亜人

 二人で並んで歩いていく。相変わらずあたりの雰囲気は変わらないまま。

 意気込んだはいいものの、なんとなくそれが空振りしたような感覚がしたヴァイスは暇潰しにと隣のノワールに声をかけた。


「そういえば、常々思ってることがあるんだけどさ……お前、戦闘に関係ないところで魔法使うのやめなよ」


 説教も兼ねたような話題。言われた本人は素知らぬ顔して首を傾げる。はぁ、と今日で何度目かも分からない溜息をヴァイスは吐いた。


 この異界は魔力で満ちている。自然も生き物も何もかも、その全てには魔力が含まれている。

 その中でも特定の種族は、己の魔力を魔法へと変換して行使することができる。「亜人ノ国」における最も人口の多い魔法使い及び魔女はもちろん、彼らを元として造り出された人工亜人もまた魔法を扱える種族の一つだった。


 魔法の種類は基本的に二つ。魔法を使える者ならば誰でも一様に扱うことができる生活魔法と、主に攻撃手段などで使われる属性魔法。

 属性魔法は人によってその種類も異なり、故に優劣の大きい魔法でもあった。属性の種類は多岐に渡る。

 火や水、風をはじめとしてその派生や独自の出自の属性などがある。


 ノワールはそのうち雷属性の魔法を、ヴァイスは氷属性の魔法を扱うことができる。先程ヴァイスの目の前で発生した雷も、その属性魔法によるものだ。

 属性魔法は魔力消費も大きく、考えなしに使えば魔力切れによる疲労感に襲われたり、場合によってはそれ以上の事態になることも少なくない。


 よって、属性魔法は使う場面をよく考えなければならない。決して派手な登場やその前座に使うような、見せ物用の能力などではないのだ。


 だからこそヴァイスは不用意に魔法を使うノワールに対して、叱るような言葉をかけた。もちろん、心配も含めてのこと。

 それを反故にするようなノワールの態度に、ヴァイスが苛立つのも無理はなかった。


「僕は心配して言ってやってるのに……反抗期かお前」


 先程見せた自身の子どもっぽさは棚に上げ、ヴァイスは自分より半歩先を行くノワールに言い放つ。

 言葉の終わりと同時に彼はその歩みを止め、ゆったりとした動きでヴァイスの方を振り返った。


「心配してくれてたんだ?」


 揶揄うような笑みを浮かべる。どこか喜色を含んだその声にヴァイスは眉を顰め、目を逸らしてから彼を避けるようにして歩き出した。


「前言撤回。金輪際、僕が君のことを心配することはないだろうね」


 色のないトーン。吐き捨てられたその言葉を聞き、ノワールは慌てたような様子でヴァイスを追いかける。


「冗談だって。嬉しいよ、ありがとう。これからは気を付けるから、どうか許しておくれ」


 ホットミルクのように甘く優しいその声が、ヴァイスの耳に入ってくる。

 それでもなお剥れたままのヴァイスは、歩行は止めないままに顔だけ横を向き、流し目でそのトパーズを捉えた。


「……次やったら、当分口聞かないから。気を付けてね」


 拗ねた子どもみたくそう言って、ぷいっとまた前を向いた。その後方で、ノワールは安堵を混ぜたような息を吐いた。


 それからは、たまに休憩を挟んだりして見回りを続けた。

 どうやらノワールの言っていた「異形の魔力が感知されていない」というのは本当のようで、嘘のように平和な時間が過ぎていた。

 話し相手が増え、いくらかマシになりはしたがそれでも暇で。同じところをぐるぐると回っている最中、唐突にヴァイスとノワールはピタリとその足を止めた。


「ヴァイス」

「分かってるよ、急かさないで」


 打って変わって真剣な口調で二人は短い言葉を交わす。ノワールに呼びかけられたヴァイスは、右手を控えめに前へと翳した。


 パキン、と冷ややかな音を響かせ、手のひらの中央から氷柱が出現した。

 その温度は意に介さず、ヴァイスは素手でそれを掴む。掴んだ場所からバキバキとヒビが入ったかと思えば、あっという間にそれは砕けた。

 封印でも解けたみたく現れたのは、漆黒のラインが細く入った純白の片手剣。鋒まで解放されたのを確認して、ヴァイスはそれを持ち上げた。


 自身の専用武器である無垢な色彩を帯びた白剣を、ヴァイスは一振りしてから構える。辺りは不気味な空気に包まれていた。


 ヴァイスとノワール、その二人の数メートル先の地点。新緑の生命を奪うようにしてそこは黒く染まった。

 次の瞬間、その黒点から物体が這い上がってくる。重力が逆さにでもなったように、ずるりとそれは全貌をあらわにした。

 その体格はヴァイスたちよりも二回りほど大きく、四肢の先の臙脂の鋭さがよく目立つ。四足歩行の未見の化け物。


 二人の目の前に現れたのは、紛れもなく異形そのものだった。


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