15-3
それから三人は三十分ほどかけてファタリアに再び戻った。
捜索を切り上げた際に、ノワールからとあるレストランを提示された。恐らくその場所で昼食を摂るつもりなのだろう。と考えたいが、あのノワールのことだ。先に一人でランチを済ませている可能性さえあった。
となるとすれば、つまり他の三人もその自身が提示したレストランで昼食を摂れ、ということになる。
それはヴァイス達の勝手な想像に過ぎなかったが、それでもノワールならそういうこともするだろうと言えるだけの自信があった。
「やぁ、おかえり」
案の定、彼は平らげられた皿の前で手を組みながらにこにことしていた。予想が的中したことに喜べばいいのか、的中させてしまうほどに彼の勝手さが四人の間で浸透していることに嘆いたらいいのか分からなかった。
ひとまずとヴァイスたちは席につく。ヴァイスはノワールの隣、そして正面にスティルと斜向かいにはディアン。
お馴染みの位置を取りながら、ディアンなんかは早速メニューに目を通していた。
「ニーファさんは送り届けたし、そのついでに依頼主にも任務完了の報告をしておいたから、昼食を済ませたらすぐに寮に帰ろう」
中身が半分まで減ったコップの縁を指でなぞりながら、ノワールはなんてことなしにそう言った。用意されていたおしぼりで手を拭きながら、ヴァイスはその言葉に驚く。
まさか本当にちゃんと彼女を送り届けていただなんて。
「ついで、って……。というより、わざわざ捜索に足を運んだのに何故先んじて任務完了の報告をしてしまうのですか。せめて、連絡を待ってからでも——」
「だって見つかったの? 行方不明者」
スティルの言葉を遮って、ノワールは悪びれもないようにただ日常の疑問をぶつけるみたく言い放つ。
ノワールは水をこくりと飲み干し、トンと音を立てて机に置いた。手を組み直して、スティルのことをまっすぐ見据える。
「三人でまた森に入った時、異形という脅威の魔力が消え去った後の状況でなら、君は分かったはずだけど」
その言葉にスティルは目を見開いた。分かりやすく驚愕を表しているが、ヴァイスにはノワールの言っていることの意味が理解できない。
異形の魔力が消え去った森。感知を妨げる魔力がなくなれば異形でないものの魔力を感じ取ることができる。
つまり行方不明者が本当に生存しているならば、その魔力に感知が働くはずなのだ。
だがスティルは捜索を開始する前もする後も、そういった旨はヴァイス達二人には伝えていない。——つまり、そういうことだ。
けれどノワールはこういった時だけ抽象的な物言いをするものだから、思考のまっすぐなヴァイスはその真実に辿り着くことができない。
ノワールも、それを理解してそういう態度を取っているのだろう。
彼は、ヴァイスに悲しい真実を見せるような真似は避けるような男だったから。
「……さぁ、早く注文済ませてね。時間は有意義に使うものだよ」
ヴァイスの理解が進まないままに、ノワールはそうやって会話を終わらせる。
そうして彼らの間には、約一名を除いて料理の注文から完食に至るまで複雑で微妙な空気が漂っていた。
石打ちの道路をてくてくと歩いていく。片手に先程レストランとは別の店で買った「旬の果物全部乗せハニートースト」を手に持ったヴァイスは、自らの隣を歩くノワールをちらりと見やる。
昼食を済ませた後、ヴァイスは予定していた通り甘いものを食べることにしたのだが、スティルとディアンはさっさと帰ってしまったのだ。
一緒に街を見て回ろう、と少しの間駄々を捏ねたのだが、特にスティルの方がどうにも浮かない表情をしていたのでそれ以上引き留めることはしなかった。
スティルの表情が曇ったのは、レストランでノワールの話を聞いてからだ。
だったらあのレストランでのやり取りの意味を聞き出せば、スティルがあんな表情をしていた意味が分かるのではないか。
ヴァイスはヴァイスなりに考えて、行動を起こそうとしていた。
「ノワール、さっきの言葉ってどういう意味?」
世間話でも始めるみたいにさりげなく聞き出す。こちらに向いたノワールは、少しだけ機嫌良さそうに微笑んでいた。
「さっき、って……お昼の時の?」
柔らかい声色で返された質問にこくりと頷く。するとノワールは視線を逸らして、返答の言葉を探るように瞼を細めた。
ぱちりと一つ瞬きをして、そうして彼はゆっくりと琥珀の瞳をヴァイスの方に戻す。真意を覆い隠すように目を閉じて、誤魔化すみたく微笑まれた。
「君は知らなくていいんだよ」
さほど歳は変わらないというのに、まるで子供を諭すみたくそう言われた。声のトーンは確かに落ち着いたものだったのに、有無を言わさぬ圧を感じる。
ヴァイスは、それ以上の追及をやめてしまった。
「……今日は帰ったらゆっくり休むといいよ」
ノワールが足を進めながら言う。怪我をしたことは伝えていないはずなのに、彼の言い回しは全てを見透かしているようなものだった。
ヴァイスは「うん」と小さく返事をする。トーストを一口食めば、さくっと音を立てながら甘さと酸味の混ざった切ない匂いが広がった。




