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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
35/61

14-3

 倍速にしたように森の景色がヴァイスの視界を過ぎていく。空気を介して伝わってくる魔力は大きさを失うどころか、ヴァイスが一歩また一歩と進む度にその存在を更に強く主張してきた。


 地面を強く蹴り、ほとんどジャンプするみたくまた一歩踏み出す。それを繰り返していれば、前方から黒く燻んだ実態を持つ熱風のようなものが迫ってきた。

 いや、熱風のようなものではない。それは実際に、波状に広がっていく炎だった。


「えっ!? ちょ、自然大破壊!?」


 突然の出来事に驚いて、ヴァイスは意味不明なワードを叫ぶ。

 両腕で防御姿勢を取り、更に自身を取り囲むように氷壁を作り出す。被害が及ぶことを想定していたヴァイスだったが、その炎はヴァイスに辿り着く前に突如として消え去った。

 ヴァイスは恐る恐る壁の端から顔を出し、前方を確認した。目を細めて注意深く確認する。

 数秒経っても先程のように炎の波が迫ってくることはなかった。


 一応は安全であると判断して魔法を解き、今度は少しスピードを落として駆け出す。

 先程ヴァイスを危険に晒したあの炎。その規模と、通常より低い彩度明度で構成された様から、元凶が誰なのかはすぐに分かった。

 この先にその元凶の人物がいることを確信して、ヴァイスは力強く足を進めていった。


 歩いていくうちに、少し開けた場所に出た。近くに川でもあるのか、僅かながらに川のせせらぎが聞こえてくる。

 ヴァイスはその場所の中央に、どこか見覚えのある肉塊が転がっているのを視認した。すぐ近くで見ていたわけではないが、その形状から先程ヴァイスが交戦した大型異形と同じものだということは分かる。節々が擦り切られたように傷ついていたり、全身に焼け痕がついていることから気付くのが遅れてしまった。


「ディアン! スティルー! どこー?」


 高い声を張り上げて呼びかける。木々の隙間を縫ってその声は森に響いていき、反響してきたそれを聞いて、まだ近くにいるならば必ず聞こえるはずだと予想立てた。


「おーいってば——」

「あ? ヴァイス? 何してんだこんなとこで」

「うわっ、そんなところにいたの」


 少し足を進めると、不意にディアンが大型異形の影から顔を覗かせた。ちょうどヴァイスに見えない位置にいたらしい。

 ヴァイスはびくりと驚きつつ、彼の方へと歩いていく。ディアンの隣には、探していたもう一人の人物であるスティルもいた。ヴァイスが来たタイミングと合わせて彼は顔を上げる。ふわりと弱々しく揺れるアホ毛とは真逆の、凛とした表情がよく見えた。

 僅かながら、それには困惑も混じっているようにも見える。


「お兄様、どうしてここに……」


 膝に手を添えながら、スティルはゆっくりと立ち上がる。ヒールの関係でいつもより目線が上になった彼から、疑念の視線が向けられた。


「……僕も、戦ったからね。この異形と」


 既に死骸と化して静かに禍々しく横たわる異形に手を添えながら、ヴァイスは緊急事態でも報告するみたくそう言った。スティルの目が見開かれ、アベンチュリンの瞳が大きく揺らぐ。何か言おうと開いた口を閉じ、そして深刻そうに顎に手を当てた。

 口元に手を持っていくのは、彼の普段からの癖だった。


「見ての通り、私達も異形と交戦していましたので……その影響で、お兄様の魔力が掻き消されてしまっていたのでしょうか」


 まるで自問するように仮説を吐いた。

 ヴァイスの意見も大方同じだ。実際に、ヴァイスが戦闘を終えて初めて他の魔力を感じたのだから。

 そう、その魔力とは例の森を波打って進んできた爆炎の魔法のもの。ヴァイスはゆっくりと、魔法の主を見やった。


「随分と大層な使い方をされたようで」

「……森が燃えないよう、加減はしたからいいだろ」


 大仰な口ぶりでヴァイスが言ってみせる。

 因みに手本は言わずもがなスティルだ。

 いつも彼がそうしているように後手を組んで、ディアンの方に一歩寄れば気まずそうに顔を逸らされた。

 なるほど、めちゃくちゃな魔法の使い方をしたことは自覚しているようだ。

 ヴァイスも人のことを言えない戦い方をしてはいたが、それは一旦棚に上げておく。


「それより、ですよ。お兄様達はニーファさんを送り届けに行ったのでしょう? そちらはどうなったんですか?」

「あぁ、それね……」


 いつかは来るだろうと予想していた質問が、ヴァイスとディアンのやり取りを遮って投げかけられた。ヴァイスは、自分達の身に起こった出来事をかいつまんで説明した。



 ヴァイスの話が終わった時、眼前の少年二人は各々異なる感情をその顔に浮かべていた。スティルは相も変わらず複雑そうな表情を、ディアンの方は分かりにくかったが、ヴァイスのことを心配しているのではないかと推察できる表情を。

 ただヴァイスを含め三人とも、発する言葉がまとまらないのかしばらく黙っていた。


「……お前、よく無事だったな」


 その沈黙を破ったのは、ディアンの簡単な一言だった。やはりヴァイスのことを心配していたらしい。

 そんなディアンに対して自慢するようなポーズをとってみせる。誇らしげな笑みを作って、ヴァイスはこう言った。


「いやぁ僕じゃなかったら死んでたね! まぁ僕も一回死んだけど」


 まるでゲームでの出来事みたく言ってのける。あっけらかんとした口調に対して、ディアン達は若干引き気味の表情を作っていた。


「洒落になりませんよ、お兄様……」


 彼らはヴァイスの体質のことを知っている。故にスティルの声には確かにヴァイスを嗜める意図は含まれていたが、それでも仕方のないことではあるとでも言うように、どこか諦めたような雰囲気を漂わせていた。

 目を逸らしながらどこか自責するように腕をさする彼を見て、ヴァイスは冗談を言った身で申し訳ない気持ちになる。

 自身の体質にヴァイス本人はもう慣れてしまってはいるが、恐らくスティルからすればそれも許容し難いものなのだろう。

 ヴァイスは、眉を下げながら作った微笑みをスティルに向けた。


「……まぁ、なんともないならそれでいい。とにかく今はさっさとノワール達と合流するべきだ」


 ヴァイスとスティルの間に生まれた重い空気を中和するみたく、ディアンが割って入ってくる。今すべきことを提示しながら、彼はその通りに歩き出していた。

 ヴァイスは失言を取っ払うように慌ててそれについて行き、スティルも足取りは重いながら二人を追いかけた。

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