14-1 こういう体
忙しく流れていた時は嘘のように静まり返って、この場にしっかりと己の足で立っているのは大型異形のみとなった。爪に多量についたヴァイスの血を気にすることもなく、異形はあたりを見渡している。
もう息をしていない仲間を数秒見つめて、そうしてこの場から立ち去ろうとした。
その時、先程まで地面に伏せって死体と成り果てていたヴァイスが体を起こした。体の裂け目から血を滴らせながら、ゆっくりと立ち上がる。じゃり、じゃりりと不規則な音を響かせながら。
ヴァイスは異形と同じように、自分の足でその地に立っていた。
異形は目を見開き、信じられない出来事にでも遭遇したかのような顔をする。
それを見て、ヴァイスは思わずあははと笑った。
「仲間意識が強い、だけじゃなく……表情も、豊かなんだね。っ、ごめんね……僕、こういう体なんだ」
喋る度にヴァイスの口からは血液が溢れてくるが、それらは地面に落ちる前に消えていく。血の雫が一滴ずつ落ちる度、細氷が包み込むようにしてまるで最初からなかったようになっていく。
異形の爪を濡らしていた深緋も、地面に飛び散った鮮血も、同様に氷に攫われるようにして消えていった。
異形は自らを取り巻く異変に気付いて腕を思い切り振るが、その現象に攻撃性はなく、行動は無意味なものへと終わった。
ヴァイスの体は、つい先程までの状態が嘘のように元に戻っていた。
再生。それはヴァイスが持つ特異体質。いつからこんな体質だったか、などということをヴァイス自身は覚えていないし、知りもしない。
確か自覚したのは教育が始まってすぐの頃、紙で指を切ってしまった際にその傷が瞬時に治ったことからだった。
発覚した時はそれはもう身内間で大ごとに、ということは置いておいて。
この体質が研究者による人為的なものか、それとも成長段階で何らかの変異を起こしたのか。
どちらにせよヴァイスは幼い頃から、それこそ物心がついた時からこの特異体質と共に生きてきた。だからヴァイスは誰よりも分かっている。この程度では自分が完全に死に至ることはないということを。
この程度の怪我では、大事になどならないことを。
時が巻き戻ったかのように戦闘開始時点のまっさらな状態に戻ったヴァイスは、気怠げに地面へと落ちていた片手剣を拾い上げる。ブンっと一振りして剣に異常がないことを確認し、今も尚硬直状態のまま戻ってくることができない異形を見やった。
「そろそろ、終わりにしよっか」
峰を敵へと向けて、ヴァイスは無邪気に微笑んだ。
些細なことでも勝敗を決さんとする幼児のようなその笑顔は、それよりもずっと大きい異形の体を震え上がらせた。
「グルゥァァァァァ!!!!」
半狂乱のように叫んで異形はヴァイスに飛びかかる。無駄の多い大ぶりな動作、混乱からか周囲の状況も確認しないままの特攻。
先程まで見せていた知性はどこへ行ったのやら。
ヴァイス小さく溜息を吐いて、異形の攻撃をひらりと交わす。
体の小ささを生かして懐に入り、そして、そのまま。




