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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
32/61

13-3

 ヴァイスはようやくと言ったように異形の方に向き直る。それと同時かそれより遅いか、壁を張る時に展開させていた異形の動きを拘束するための氷が砕かれた。バキッと冷たく硬いそれに似合う音を鳴らして、破片が地面に飛び散った。

 ヴァイスは静かに息を飲む。


 体の自由を取り戻した異形らは、遠慮もなしにヴァイスへと襲いかかってくる。目の前の標的に集中するたちなのか、周囲に張った氷壁を壊すわけでもなく一直線に。

 正直助かる。

 そう思いながらヴァイスは空中に氷の礫を顕現させる。踏み出すと共にそれらを異形に向けて放った。

 小型異形は素早い動きでそれを回避し、難なくヴァイスの元へと辿り着いた。振りかぶった爪を剣で受け止めて、そのまま弾いて蹴りを入れる。その隙に近距離まで詰め寄ってきたもう片方の小型異形が口を開いて、その鋭利な牙を覗かせる。

 チッと舌を打ちながら、飛びかかってくる小型異形と自身の間に数枚の氷壁を作り出した。異形の攻撃を受け止めた氷壁は、パキパキと音を立てながらヒビ割れていく。

 完全に割れてしまう前にヴァイスは後ろへと跳んで距離を取った。


 ヴァイスは思考を巡らせる。三対一。誰がどう見ても今のところ劣勢でしかないこの状況を、どう打開するのか。

 ノワールという支援役もいない今、先程の戦闘のように発動に集中がいる魔法は使えない。となればやはり小さい個体から一匹ずつ倒していくしかないわけで。

 ヴァイスは風の流れを断つかのように剣を一振りして、気合を入れ直した。


「カッコつけた以上、ちゃんと無傷で(・・・)帰らなきゃいけないんでね」


 ヴァイスはそう言って駆け出す。同じくこちらへと向かってくる異形に対し、今度はこちらから刃を振り下ろした。異形がそれを避けて着地したのを目視し、ヴァイスは口元に笑みを作る。


「ガアァァ!」


 凍った地面から針のように鋭い氷が突き出し、そのまま異形の体を貫いた。ビクビクと体を震わせて、鮮血を垂れ流す。

 放っておけば生き絶えるであろう。そう確信して残りの異形へと目を向けた。


「おまえたちが踏んでるその氷は全て僕の魔力で生成されたものだ。お望みならすぐに穴だらけにしてあげるよ」


 挑発するように言ってみせる。

 実際には先程発動させた魔法は、一定の範囲内に来ないと発動できないトラップ魔法だ。ヴァイスは剣で戦いながらの細かな魔力の制御は苦手なために、相当近くに来てもらわないといけない上、一度ヴァイスが足をつけた場所でないと発動もできない。

 つまり「すぐに穴だらけにする」という宣言はハッタリである。


 実に扱いにくいものではあるが、それでも使えるものはなんでも使って勝たなければいけないのだ。それくらいの気概がこの少年にはあった。


 そして仲間を一体失った異形サイドと言えば。


「ガルアァァァ……」


 当初よりも強く鋭い眼光をヴァイスに向けている。そんな奴らの様子にヴァイスは眉を顰めた。


「仲間意識? 亜人みたいな感情持ってるね」


 驚きながらも吐き捨てるようにそう言った。敵の様子から早めにカタをつけた方がいいかと考える。

 ただ異形はトラップを発動させた後のヴァイスの言葉を警戒してか、不用意にこちらには近づいてこない。

 戦い方といい群れ方といい、この異形にはどこか知性を感じる。


「グォォォォォ!!!!」


 そう上手くはいかないか、と心の中でこぼしながら再び踏み出そうとすれば、異形がそう吠えた。

 あまりの大声に一瞬怯む。

 その隙に異形は爪の斬撃を放った。ヴァイスに向けてではなく、地面を覆う氷に対して。


「あぁ、もうっ! いちいち賢いな! ムカつくやつ……!」


 その強い力は氷を砕くだけに飽き足らず、地面までもを抉った。流れ弾を白剣と魔法を用いてどうにか躱しきる。

 収まったかと思えば、大型異形は地面に斬撃を放った姿勢のまま動かない。一瞬でそれが攻撃の反動であると察したヴァイスは、大型——ではなく、小型異形の方へと向かった。大型とヴァイスの一対一に持ち込むため。


 大型異形が再び動き出す前に、ヴァイスは小型の方を仕留めようと畳み掛けた。

 爪と牙、それを流水のような剣捌きでいなして切り捨てる。それによって動きを止めたのを見逃さず、脳天を柄で打った。

 力なくよろける異形に集中して、そうしてヴァイスはその首を刎ねた。

 これで小型の殲滅は完了。あとは一対一で全力を用いて倒すだけ。


 ——そうしてすぐさま大型異形へと体を向けたヴァイス。

 目の前にあるのは、すでに振り下ろされていた鋭く凶悪な鉄紺の爪だった。


 ザシュッ。肉を裂く音がゼロ距離で鮮明に聞こえてくる。右肩から斜め下へと入った爪痕。遅れて散った真紅の花は、真白のヴァイスに毒々しい染みを作った。体の内側が冷気に晒されたように、激烈な痛みが襲ってくる。


 ヴァイスの体は切り裂かれた。

 ヴァイス自身がそのことに気が付いたのは、ぼやける視界が斜めに揺れてからだった。

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