13-1 真紅の花
三人分の足音がバラバラなリズムで鳴っている。ヴァイスは自分の隣を行く、怯えたような早歩きの主に声をかけた。
「僕はヴァイス、あっちはノワールです。……多分、気遣ってくれたのに、こんなことになっちゃってごめんなさい」
恐らく同世代である初対面のニーファにどう接して良いか分からず、ヴァイスは辿々しげに言葉を選んだ。ニーファは少し遅れてそれに反応し、瞬きを一つする。
「い、いえっ! 実はちょっぴり怖かったので、助かりました」
屈託なく笑うニーファの表情は、どこかの誰かさんが浮かべるテンプレ微笑とはまるで違う。久しぶりに目にする純粋な笑みを眩しげな思いで見ながら、いえ、と答えた。
「それより、その……私のせいでギクシャク? させてしまって、ごめんなさい」
そう言ってニーファは申し訳なさそうに眉を下げた。両手の指を擦り合わせる様子から、その真剣さが垣間見える。
ギクシャク、と言うのはまぁよく考えなくてもノワールとスティルのことであろう。側から見ても馬の合わない二人組を思い浮かべ、初対面であれは申し訳なかったなとヴァイスは思った。
大丈夫だという意思を伝えるために、ヴァイスは両の手を左右に振る。
「あの二人……特にノワールはいつもあんななので、特に心配しなくても大丈夫、かと……」
そう言いながら、ヴァイス自身が心配を募らせた。
今からでもノワールの性格矯正を始めた方がいいかもしれない。
そう思ったが、あの歳であれだけの歪みようだ。もう根が蛇腹ほどに折れ曲がっていないとああはならないだろう。そう考えると、矯正の目処がまるで立たなかった。
「そうで……きゃっ」
ニーファが何か言いかけたその時、彼女は足をもつらせたのか前方向に転けそうになる。ヴァイスはそれを持ち前の反射神経で抱えた。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい、ごめんなさい……ちょっと歩きにくくて」
ヴァイスが聞けば、ニーファは困ったように笑いながらそう答えた。
彼女はトントンと片足の爪先で地面を叩く。その動作につられて彼女の靴を見た。光沢が艶やかでどことなく高級感を醸し出す、彼女の瞳の色と似た赤色のパンプス。装飾として施された控えめなリボンは、少女らしい可愛さを演出していた。
確かにこれでは道の悪いこの森を歩くのは辛いだろう。それに先程から、ニーファは前を歩くノワールに追いつこうと必死になって歩いている。人工亜人や他に身体能力の高い種族でもなければ、ずっとその速さで進んでいくのには体力的も厳しそうである。加えて彼女は推定十歳であることから体力が多いとは思えず、尚更心配だった。
ヴァイスはニーファのことを支えながら、ノワールの方を見る。色彩の豊かさを微塵も感じない後ろ姿からは、十二歳とは思えぬ太々しさが漂っている。
「ノワール、もうちょっと歩くスピード落としてくれない?」
聞き取りに問題なさそうな程度のボリュームで話しかける。ノワールはヴァイスの声を聞いた瞬間にピタリと足の動きを止め、こちらに振り返った。ヴァイスのことを見据え、瞬きを境にその視線をニーファの方へと移す。溶かして濁らせたべっこう飴を再び固めたかのようなその瞳は、そうして何回かヴァイスとニーファとを行き来する。
ヴァイスにとって見慣れたそれはニーファからすれば異様らしい。彼女は、少しばかり目を泳がせながら足を進めていた。
そうしてヴァイスたちがノワールに追いついた途端に、ノワールはさっさと体を元の方向に向けて歩き出す。だが再び歩き出したノワールの速度は、先程より落ち着いたものとなっていた。
分かりにくい従順に溜息をつきたい思いになるが、それでニーファにまた心配をかけるのは避けたい。
そう思ったヴァイスは、こぼれそうになった溜息を喉の奥で押し殺したのだった。




