12-2 胡桃色の少女
「——ここから先は二手に分かれよう」
唐突に、彼はそう言った。提案と言うよりは、口調が柔らかな命令のように。
ヴァイスだけではなく、スティルも困惑したような声を漏らしていた。ディアンも、不可解そうに片眉を吊り上げている。
「どういうことですか」
「言葉の通りだよ。異形を捜索する方と、彼女を村に送り届ける方」
ノワールは淡々と説明していった。なんならジェスチャーも付け加えている。森の奥を指差して、次にニーファを行儀悪く顎で示す。
実に簡潔で分かりやすい。でも違う。そうじゃない。
スティルの言葉もヴァイスの疑問も、そんな簡単なことを知りたいがためのことではない。“何故急に、手のひらを返したように彼女を保護する方へと思考が向いたのか”が知りたいのだ。
恐らくではあるが、ノワールはそんな考えも察している。だが性格の歪みが原因なのか、決して自分から触れようとはしないだろう。
それはつまり説明などもするつもりはないわけで、イコール黙ってその通りにしろということなのだ。
今日で何度目かの「なんだこいつ」をヴァイスは頭に浮かべた。
「えっ、と……それじゃあ、お兄様」
「へっ?」
急に呼びかけられて思わず素っ頓狂な声を漏らす。恥ずかしがっている間もないまま、スティルはヴァイスの体をぐいぐいとニーファの隣へと追いやった。まさか、と思い眉を顰める。
「ニーファさんのこと、お願いしますね」
「やっぱりか」
ノワールに何を言っても無駄だと理解したスティルは行動が早い。その顔にはどことなく困惑の名残があるが、現状にどうにか順応したらしく、綺麗な笑みでヴァイスに頼んだ。
スティルはたまにこういうことをするのだ。
分かりやすく言うならば、「戦いとそうでない選択肢が用意されている場合、戦わなくて良い方を優先的にヴァイスに譲る」というものだ。
譲ると言うよりは、押し付けられている気がしなくもないが。
だがまぁ多少の違和感はありつつも、気遣ってくれているのかと思うとそう悪い気はしない。ヴァイスは大人しくスティルの指示に従った。
すると、やはりと言うかなんと言うか、ノワールもヴァイスの方へと着いてくる。当然、スティルは待ったをかけた。
「貴方がそっちに行ってどうするんです。追跡は貴方の役目でしょう」
子供に叱咤するような口調でスティルはそう言った。ノワールは変わらずニコニコとしながら、ポンと彼の肩に手を置く。スティルが目を見開いた。
「大丈夫、大丈夫。君にもできるよ、頑張って」
言葉選びは随分と優しかったが、声の圧が酷いものだった。
スティルはその綺麗な顔を歪めて不服をそのままに表し、果てにはノワールが触れた部分を手で払っていたが、彼はそれ以上反論しなかった。
「ヴァイス、行くよ」
「はっ? え、ちょっと待ってよ! ニーファ、さん……行きましょう」
「あ、えっと、はいっ」
ヴァイスが彼の身勝手でめちゃくちゃな行動を止めることができないままに、ノワールは街がある方へと歩き出していった。ヴァイスは急ぎながらもニーファに声をかけ、どうにかその行動に着いていく。
背後に感じる視線がしばらく痛かった。




