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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
28/61

12-1 胡桃色の少女

微妙なところで区切ってしまいました。申し訳ない。

 深緑の木々がざわめく中をヴァイス達四人は駆け抜けていた。

 異形の魔力を追跡可能なノワールが先頭を行き、ノワールと同じく魔力感知を得意とするスティルが補助役として斜め後ろを進む。そして二人の後ろでヴァイスとディアンが並走する。

 特に何かを話し合ったわけではなく、自然とこの陣形になっていた。


「さっきのが嘘みたいだね、あれ」

「本当にな。苦労した甲斐があったのかなかったのか、分かんねえわ」


 先導する二人を追いつつ、ヴァイスがそう切り出す。横で走っていたディアンは、呆れ笑いを浮かべながらもそう返した。ヴァイスは彼の返答を飲み込んで、確かに、と独り言みたく小さく溢す。


 スティルがマッチポンプだと叫んだシーンのその後は、それはもう大変なものだった。

 奇人ぶりを言動に滲み出させるノワールと、それに苛立ち堪忍袋の緒が切れる寸前だったスティル。それを必死で宥め説き伏せたのがヴァイスとディアンだった。

 全く悪びれない——というより己の言動が悪いとも思っていなさそうな——ノワールをディアンが黙らせ、ヴァイスの拙い弁論でなんとか仲裁したのだ。


 そうしてヴァイスたちは精神的な消耗を強いられた訳だが、そんな修羅場を経た現在、ノワールとスティルが揃って前を行くところを見ると、無駄骨だったのではと思わずにはいられなかった。

 先の出来事が顕著だったのもあるが、そうやって衝突することがあの二人には多い。根本的な性質の違いなのだろう。ただ表に出る思考は近いところがあるのか、今のように何事もなく共同作業に移ることも多かったりする。

 不仲が続くよりはよっぽど良いが、それはそうとしてあの二人の関係性と扱い方の難解さは相変わらずである、とヴァイスは思った。


 以降、四人は特に会話もなく森を進んでいった。少々せっかちな(たち)であるヴァイスは、まだかなまだかな、と気が早まっている。

 キョロキョロとあたりを見ながら進んでいれば、ドンっと何かにぶつかった。ノワールとスティルが急に動きを止めたらしい。よそ見をしていてそれに気付かなかったヴァイスは、ノワールの背にぶつかったのだ。


「いたっ」

「きゃあっ!」


 ヴァイスが反射で声をこぼすと同時に聞こえてきた、幼い少女の声。

 ぶつけた部分を押さえながら、その声の主を探るようにヒョイっとノワールの背から顔を覗かせる。地面に一人の少女が仰向けになって倒れていた。


「え、轢いた……?」

「僕乗り物じゃないよ」


 ヴァイスの発言にそう返したノワール。「そこじゃないだろ」という、呆れたようなディアンの声が聞こえてきた。

 ノワールが轢いたのか、はたまた別の要因か、倒れている少女を心配する様子もなくノワールは再び足を進めようとする。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! ノワール貴方、放っておく気ですか!?」

「え、うん……」


 そんなノワールのひらめくマントを、スティルが咄嗟に掴んで制止した。ずるずると引っ張るスティルのその行動に若干のイラつきを見せながらも、ノワールはさも当然といったように答える。


 ノワールの外道ムーブが早くも更新され、ヴァイスは頭を抱えた。


 スティルは、デジャヴのように信じられないと言うような顔をしながら、少女の方を見る。ちょうどと言ったタイミングで少女が起き上がった。


「あ、ほら、生きてるし別に問題ないでしょ。それより、異形の追跡を優先すべきじゃないの。僕の感知も万能じゃないから、ちんたらしてたら見失うよ」


 元の進行方向を指差してノワールはそう言った。確かに異形の討伐は最優先事項ではあるが、だからと言ってこの少女を放っておくのは、それはそれで問題になる気がした。

 なんせ、この森には異形が湧いているのだ。ここを逃走経路にした可能性だって高いのに、こんな小さな少女——と言っても、おそらくヴァイスと同い年くらいだろう——を森の中に放置という訳にもいかない。


 組織の隊員としての正しさか、亜人としての良心か。どちらを取るべきか。


「あ、あのっ!」


 そんな中、四人の目の前に頼りなく立つ少女が胡桃色の髪を揺らしながら声を上げる。ヴァイスたちは一斉に少女へと視線を向けた。四人分の視線を浴びた影響か、一瞬怯んだ少女はそれでもしっかりとした瞳を向けてくる。


「もしかして、人工亜人の方たち、ですか……?」


 疑問符が付けられながらも、それは真っ直ぐとした声色で紡がれていた。おそらく一番冷静に近かったのか、ディアンが「ああ」と短く答える。

 少女はほっとしたような表情を見せた。


「よ、良かった……あの、皆さん私のことは構わずに先をお行きください!」


 左手を胸の前でぎゅっと握り、右手を森の奥へと向けた。予測していなかった行動に、四人全員がぴたりと動きを止める。

 次に聞こえたのは「え?」というスティルの困惑したような声だった。彼は考え込むように頭に手を添えて、ええと、と声を漏らす。


「もちろん、そうさせていただきたいのですが……貴女は……?」


 慎重なスティルのその言葉に少女はハッとした。慌てた様子でぺこりと頭を下げて、それからまた四人に向き直る。


「名乗りもせずに失礼しましたっ! 私の名前はニーファと言います。えっと……ファタリアに住んでる者、です」

「……ニーファ」


 ニーファとが名乗ったその瞬間、先程までその少女に塵程度も興味を持っていなかったノワールが復唱するようにつぶやいた。彼のすぐ後ろに立っていたこともあり、ヴァイスはその声に気付く。ノワールにしては珍しいその振る舞いを不思議に思った。

 そしてニーファ自身はそれに気付かずに言葉を続ける。たちまちにヴァイスはそちらに集中した。


「ここにおられるということはご存知だと思いますが、今この森には異形が湧いていて……異形のせいで行方不明になった者の中には、私の知り合いもいるんです! だから、どうしても心配になってしまって……」


 そう言いながら、ニーファは俯きがちになっていく。白のリボンに支えられている二つ結ばれたおさげが、頼りなく垂れていた。


「それで森にいたんですね。お気持ちは分かりますが、少し軽率ですよ」


 スティルは、なるべくといったように冷静な声色で対応する。

 人工亜人でもない、ただの亜人の少女がどうこうできることでもないが故に彼はそう言ったのだろう。少し気の毒ではあるが。

 ニーファはそんなスティルの言葉にバッと顔を上げ、大きなカーディナルレッドの瞳で彼を見つめた。動揺や不安といった感情が混ぜられているように見える。何か言おうと口を開いてはまた閉じて。そうして数秒ほどの時間を使い、彼女はその顔に落ち着きを取り戻していく。


「そう、でしたよね。あなたの言う通りです、ごめんなさい……けど、安心しました。人工亜人の方々が来てくれたので、きっともう大丈夫です。邪魔しちゃってごめんなさい、お気を付けて」


 ニーファは少し悲しそうに笑いながら、四人へと道を開ける。

 どうやら帰りは一人で行くつもりらしい。一歩下がった背丈の低い少女は目つきこそしっかりしているものの、やはりどこか頼りない印象を抱えている。


 ヴァイスは狼狽えた。本人にこう言われているのだから先を急いだ方が良いのだろうが、ヴァイスの良心はノワール程に冷え切ってはいない。ニーファを心配しているのだ。


 そこまでしてノワールの先の言動を思い出す。

 彼ならこの場は「あっそ、じゃあね」とでも言ってみせて、そのままこの無防備な少女には目もくれず目的の方へと一直線なのではないか?

 ヴァイスは不安に思って、ノワールの顔をそっと覗き見る。そうしてヴァイスはビクリとした。

 彼の瞳はまるで吸い寄せられるようにニーファのことを見つめっぱなしだったのだ。

 不審に思って呼びかけようとした瞬間、ノワールが後ろを、つまりヴァイスたちの方を向いた。

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