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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
26/61

11-1 マッチポンプ!

 ノワールがマントに覆い隠されていない方の腕を振り上げる。彼の手の周囲には小さい稲妻が発生し、パチパチと控えめながらも鋭い音を放っている。


「待って」


 そんな攻撃準備は万全だというようなノワールに、ヴァイスは待ったをかけた。ノワールはその通りに腕をそっと下ろし、ヴァイスの意図を読み取ろうとするかのように顔を覗き見る。

 ヴァイスはその行動に応えぬまま、ザッザッと砂を踏みつけながら前に出て、持っていた片手剣を地面に突き刺した。


 その動作でヴァイスが何をしようとしているのかを察したらしいノワールは、ヴァイスの邪魔には決してなるまいと言うように距離を取り、そして傍観した。

 ヴァイスは先程まで剣を握っていた右手を前に掲げる。目を閉じ深く集中して、人知れず咲く懸氷(けんぴょう)のような静けさをその身に纏う。

 異形は隙だらけに立ち尽くすヴァイスを目掛け、一斉に飛びかかった。異形の鳴き声と地を蹴る音。酷く騒々しい空間の中、ヴァイスはふっと瞼を上げ、氷結したムーンストーンの瞳を現した。


「氷花ノ極 暁」


 冷えた魔力を乗せた言霊が周囲に響く。いくつもの音が奏でられていたはずの空間は、凍りついたようにその振動を失った。


 じわじわと下がっていく温度、パキパキと音を立てながら凍っていく緑たち。使用者であるヴァイス自身さえもが身震いするような極寒と静寂の中、急激に、鮮烈に、氷花は敵を貫いた。


 瞬間、異形たちはガラスが割れたような断末魔を上げた。聞くに堪えないその音を出しながら、異形はその身を貫く透明にはおおよそ似つかわしくない鮮血を流してそのまま倒れる。

 目の前で発動させたが故にヴァイスは返り血を多量に浴びたが、彼はそれを気にすることもなく素早く敵の生死を確認した。


「三体残った」


 自然を青白く飾り立てた氷魔法に乗っ取られたように、ヴァイスの声色は酷く静かで。普段の子供らしい言動とはとても結びつかない。

 だがこれが、最大限集中した時のヴァイスの常だった。

 ヒュンッ。大気を裂く音が耳に入ってきた時には、生き残った異形の頭は全て落ちていた。

 ヴァイスではない、ノワールが落としたのだ。

 あまりにも急速に行われた処刑のような光景を目にしながら、ヴァイスは口を開いた。


「わざわざごめん。それ、使わせて」


 黒と白の両手剣。赤に濡れたそれにヴァイスは目をやった。

「別に良いよ、魔法で仕留めるより速いしね」


 にこにこと笑みを浮かべながらノワールはそう言った。表情の細かな動きと声色から、その言葉は本音であると確信して。それからヴァイスは「そっか」とだけ言った。


 異形も全て生き絶えただろうと、死骸はそのままに凍ってしまった木々だけを元に戻す。

 はるか北の雪国みたく冷えていた空気はゆっくりと元に戻っていき、ふわりと舞い上がる暖気の中ヴァイスは息をつく。地面に刺したままだった白剣を引き抜いていれば、「それにしても」と始めるノワールの声が聞こえてきた。


「相変わらずの圧巻の光景だね! 綺麗で幻想的で、儚いかと思えば鋭利な刃のようになって異形を仕留める、君の氷魔法。あぁやはり、君が使うと様になるね」

「うわっ! ちょっと、おいっ! 危ないなぁ!」


 これでもかと称賛の言葉を浴びせながら、ノワールはヴァイスに寄りかかった。労いのつもりなのか、制帽を勝手に脱がせた手で肩を抱かれてそのまま頭を撫でられる。持ち上げた剣がそのままどちらかに刺さってしまいそうでヴァイスは焦った。

 ヴァイスは惜しみながらも白剣を消して、どうにかノワールを引っぺがす。身長差もあれば体格差もある彼を引き剥がすのは少々骨が折れたため、ヴァイスは戦闘外で今日初めて息を乱した。


「つれないねぇ」

「今のは絶対つれないとかじゃない……!」


 戦闘時よりも激しい動きを取ったヴァイスの拍動は、バクバクとテンポを速めている。ノワールに対して構えを取り直したヴァイスは、いつも通り年齢に沿った子供らしさを示していた。

 ノワールは楽しそうに笑いながら、氷漬けにされた異形の方へと足を進める。そんなノワールを遠目で見ながら、ヴァイスもまた異形の死骸を確認した。


 戦闘中のヴァイスは気付いていなかったが、改めて見ると中々酷い光景である。それでもその中に美しさを感じるのは、ヴァイスの魔法自体が美しいものだからであろう。先程のノワールの評価を思い出す。ヴァイスはその時否定も肯定も表さなかったが、この現状を見れば大抵の者が賛同するような気はした。

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