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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
20/61

7 NoDiWS

 翌日、チームを組んで初めての見回り以外の討伐任務を請け負っていたヴァイスたちは、家族由来の抜群のチームワークを発揮し、特に大きな負傷もなく無事に仕事を終え帰路についていた。ぽかぽかとした柔らかい陽気に当てられながらも、彼らの足取りは一人を除きやけに重い。

 ヴァイスは胸に抱えるもどかしさを吐き出すように、剣身が剥き出しの片手剣をブンブンと振っていた。諭すような口調でスティルに「危ないですよ」と言われてからは、ぐっと眉間に皺を寄せながらも代わりとして硬い質感の白黒制帽を振った。


 チーム名無し——ヴァイスが仮名として勝手に呼んでいる——は、本日の任務で現地に赴く最中にもチーム名候補をいくつか考えようとしていた。

 まず最初に浮かんだのは、四人の共通点から名付けるという考え。絞りに絞った末の見つかった共通点は、自分たちは生まれと育ちと種族が同じ、というものだった。

 一同はリベンジ初手で匙を投げかけた。当然だ。これらの共通点は同種なら多くの者が当てはまるのだから。


「えー、じゃあ……ファミリーズとか」


 けれどせっかく共通点を挙げたことだし、安易でもそこから考えてみるのが一つの手であることには違いない。

 そんな考えを抱きながら、ヴァイスはチープな案を出した。


「却下です。昨夜現存チーム一覧を調べましたが、同じ名前のものがありました」

「うぇ?」


 意外すぎて、ヴァイスは素っ頓狂な声を上げた。案を出した身で申し訳ないが、あまりにもダサすぎる名前だと思っていたからだ。

 そんなまさかのネーミングが合致するだなんて。色々が相まって、ヴァイスは複雑な気持ちになった。

 現存するチーム名との被りはなし。公式の場でも使うものなのだろうから、適当につけるわけにもいかない。

 それがスティルの意見だった。ヴァイスは現存チーム一覧という項目に表示された、いかにも不真面目な名称のいくつかを見ながら、「そうだね……」と答える。それに反してスティルはなんて真面目なんだ、と思いながらけれどその真面目さが彼の個性であり長所なのだろうと思った。

 そうしたやり取りを幾度か交わし、それでも結局共通点から名付けることはできなかった。


 依然として彼らはチーム名が決まらないという焦燥感を抱いたまま、こうして今に至るというわけだ。提出期限は刻一刻と迫るばかり。気が重くなるのも無理はなかった。


 そして無事に寮へと帰還した彼らは今日もフリースペースの一角を占領し、一箇所だけ空欄のままの書類たちを前にしながらうんうんと唸っていた。

 けれどその中で一人だけ、澄まし顔で座っている人物がいる。ノワールだ。ヴァイスが眉を寄せながらノワールのことを見ていれば、徐にペンとまっさらな一枚の紙を取り出した。

 なんなんだ急に。決まらなすぎてとうとう一抜けでもしたのか?

 ヴァイスはそう思った。大抵のことに無関心なノワールの性格から考えても、あり得なくはないことだ。だとしても丸投げされるのは困ったことではあるが、正直言ってヴァイスも辞めたい気持ちの方が強かった。


「ねぇちょっと、いい?」


 勝手に想像を膨らませていれば、ノワールが声を上げた。予想外のことでヴァイスは少しビクリとする。

 気を取り直して「なに?」と聞けば、見ててねと言わんばかりな視線を向けながらペンのキャップを開けたので、その行先に目をやった。スティルもディアンも一様に視線を動かす。


「特筆する共通点もないし、かと言ってまとまりのない名前にするのもチームとしては変だろう? 誰か一人の個性を強く出すのは論外。だから安直かもしれないけど、僕らの名前から名付けたらいいんじゃないかなって」


 Noir(ノワール)Dian(ディアン)Weiss(ヴァイス)Still(スティル)


 横向きにした長方形の紙、その上半分にヴァイスたち四人の名前を書き連ねていく。圧のしっかりとした、それでいて細い、涼やかな流水のような筆跡。

 彼の性質を表したその文字に目をやっていれば、ノワールとディアンは最初の二文字を、ヴァイスとスティルは頭文字だけが丸で囲われた。そしてそこから丁寧に、一つ一つ下に向かう矢印を引く。


 NoDiWS(ノーディウズ)


 名を記した時よりほんの少しだけ大きく、ノワールはサラサラと文字を書く。それから、Sの後に薄く点を打った。


「NoDiWS……」


 ヴァイスはノワールの書いた文字を読み上げて、その中々にオシャレな響きに段々と心音が早まっていく感覚を覚える。見上げたノワールの顔はいつもと同じ微笑に見えて、けれど少しだけ慈愛が込められているように見えた。


「期限が期限だったから特別な意味合いは持たせられなかったし、頭文字だけじゃまとまらなかったからちょっと付け足したけど」


 どうかな、と小首を傾げたノワールだったが、疑問形にしてはその名が確定したような声色だった。

 ふ、と誰かが息を漏らす。


「いいんじゃねえか? 由来がそれなら、この名前見ただけで俺たちだって分かるだろうし」

「ええ、私も賛成です。名前の頭文字は大文字に、付け足した小文字の部分は年上と年下の区分ということで説明をつけることもできそうですからね」


 ディアンがそう発し、スティルも続いた。それを聞いたノワールは、あとは君だけだと言わんばかりの視線をヴァイスに向ける。

 ヴァイスは、もう一度だけその名を喉奥で呟いた。そしてその薄桃の口で綺麗な曲線を作った。


「僕も、賛成」


 肯定の意をたっぷり含ませるように、重くそう言った。眼前の三人は喜ぶような笑みを浮かべる。そのうちに、ノワールが一歩前へと踏み出した。


「それじゃあ、今日から僕たちはNoDiWSだ」


 トン、と机に手を置いて、リーダーを気取るみたくそう言う。やけに似合うその姿ににこにことしながら、ヴァイスはこっくりと頷いた。


 ふと、窓から差し込む日光が強くなっているのに気づく。見上げれば、一寸の曇りもない青空が楕円を半分に切り取ったような窓越しに広がっていた。

 自らの瞳の色を写したみたく晴れ渡る空を見上げながら、ヴァイスは自分たちの行先を案じる。どうか、この降り注ぐ光のように明るい未来でありますように、と。

 ささやかながらも、どこかわがままな矛盾した祈りを。


「お兄様」


 永遠のようにも思えた一瞬を経て、声をかけてきたのはスティルだった。

 窓に一心に向けていた視線をスティルの方へと移し、なぁにと聞くみたいに首を傾げる。スティルは綺麗な笑みを浮かべて、それから紙が積まれているテーブルに目をやった。


「書類の記入が終わったので、今から提出しに行こうかと——」

「貸せ、俺がやっとく」


 唐突に横から入ってきたディアンが、紙の方へと伸ばされようとしていたスティルの手を遮って、資料を片手で易々と持ち上げる。

 スティルは「え、ちょっと」と困惑している様子だが、ディアンはそれを適当にジェスチャーだけで宥め、それからヴァイスの方へと顔を向けた。


「……ん?」

「お前も行くんだよ。ほら、早くしねえと置いてくぞ」

「え!? ちょっと、ディアン!」


 ディアンはそのまま、有無を言わさぬ態度で部屋を出て行こうとする。ヴァイスはそれを急いで追いかけながら、役割を横取りされてしまいポカンとしているスティルと、それからそのやり取りを静かに見ていたノワールの二人にぶんぶんと手を振った。

 正面に戻っていく視線の端に、ノワールがにこにことした笑顔で手を振り返すのが見えた。一拍遅れて、「行ってらっしゃい……」と控えめなスティルの声が聞こえてくる。力の抜けたその声は、少し不憫で申し訳なかった。

 そうしてヴァイスは先にディアンが通ったことにより開け放たれていた入り口をたたたっと駆け抜け、あっと思い出したように後手でパタンと扉を閉めた。

 任務があるのかはたまたお昼時故に皆食堂へ行っているのか廊下に人影はおらず、必然的にディアンと二人きりの状況が生まれる。ヴァイスは早足でディアンの隣を位置取った。


「ねぇ、なんで僕をお供させたの? その量なら僕が手伝わなくても大丈夫そうだけど……」


 そう言いつつ、ディアンが手にしている紙の山に目をやった。それなりに枚数があるとは言え、それは例えヴァイスが一人で運んだとしてもさほど苦ではない程度のものに見える。

 ディアンの顔を覗き見ながら、ヴァイスは彼の返事を待った。


「へぇ、ヴァイスは書類の提出をたった一人に丸投げしてもいいって思ってんのか」

「なっ……! ち、違うよ! そういう意味じゃなくて」

「はははっ! 冗談に決まってんだろ」


 彼がよく浮かべる愉快そうな笑顔を見ながら、ヴァイスは眉を寄せた。冗談だとは言われつつも、やはり気にはしてしまうもので。

 不服そうに右の頬を小さく膨らませながら、ヴァイスは両手を差し出した。半分持たせろ、の意である。変な風に誤解されては困るので、「ん!」と言いながらぐいぐいと手を伸ばして寄越せアピールをする。

 だがしかし、そのアピールに確実に気づいているであろうディアンは無視を決め込んだ。一度こちらを見て何か考えるような表情をしたあと、ふっと薄く笑われたので、無視が故意的なものであるとより一層確信が深まる。

 なんだこいつ、あんな冗談を言ったくせに手伝わせはしないのか。

 ヴァイスはそう思いながら、不服さを示すようにむっとしてみせた。それからある重大なことを思い出してヴァイスはハッとする。


「全く関係ない話題になるんだけどさ」

「ん? おう……」

「昨日は、庇ってくれてありがとう」

「はぁ? なんだよ、急に」


 本当に全く関係ない話を切り出され、ディアンは素っ頓狂な声を上げた。それから、気まずそうな表情を浮かべる。右手で書類を支えながら、左手で頭をガシガシとかいた。

 コロコロと表情が変わるものだな、と思いながらヴァイスはふふっと笑った。


「昨日はあれからバタバタしてて、結局言えてなかったから。言うなら今かな、って——」


 言葉を続けながら、ヴァイスの視線はふと未だ後頭部に添えられたままのディアンの左手に向かった。ポカンとした表情を浮かべながら、ヴァイスはとあることを思いつく。

 急に電源が切れたようにフリーズしたヴァイスに、おいと声をかけるディアンを遮って、ヴァイスは声を上げた。


「左腕! 怪我、したでしょ! ほら、手伝いいるじゃん。分けてよ!」


 これなら流石のディアンも分けざるを得ないだろう。

 そんな考えを浮かべながら、ヴァイスは先ほどよりも差し出す手の主張を強めてディアンに詰め寄る。

 得意げに笑っていれば、ディアンはふはっと吹き出した。観念したように、書類の山を半分——よりも僅かに少ない量をヴァイスに持たせた。


「昨日の時点で大丈夫だっつったろ? ……ヴァイスも意外に頑固だな」


 とは言いつつもヴァイスの意思を尊重してくれるディアンに、ヴァイスは元より浮かべていた笑みを一層深める。


「別に頑固ってわけじゃないしー」

「頑固だろ。カッチカチだ。お前の氷魔法みたいだな」

「なんだと〜?」


 笑い混じりに返すヴァイスにつられたのか、ディアンも楽しげに笑った。相変わらず顔は険しいが、お馴染みのその顔にヴァイスは安心感を抱くのだ。

 そうして軽い言い合いをしながらも、まさに“兄弟”な二人は高さの合わない肩を揃えて、楽しげに廊下を歩いていった。

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