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「それから、次の話ね。青鈴?」
「ああ。……研修期間を終えたお前たちに、ちょっとしたプレゼントだ」
プレゼント。その単語に、ヴァイスは舞い上がるような気持ちになった。
だって仕方のないことだろう。彼の歳ならば、親代わりのような教師からのプレゼントに喜ばない方が難しい。
と、ヴァイス自身は思っていたが、ノワールたち三人は特に顔に喜びの色を浮かべるわけでもなく興味もなさげに「はぁ」と言葉を漏らしている。
ディアンに至っては、与えられるのはプレゼントだと言うのに何だか気まずそうな顔をしていた。
そんな三人の表情には一切気付かないヴァイスのみが、プレゼントを心待ちにしていた。この部屋に来る時に持ってきた小箱を、青鈴自身が手に持ち開封している様子を期待の眼差しで見つめる。
「お前たちにプレゼントするのは……これだ!」
小箱の中から取り出された、小型の機械。手に持ちやすく、薄いそのフォルム。彼の言うプレゼントとは。
「スマホ!?」
そう、スマホだ。それ一台で何でもできてしまうような、最先端技術の結晶体。
ヴァイスは、まさかそんなすごい代物がプレゼントか、と喜んだ。ノワールとディアンは相変わらずの顔だが、スティルは驚いたような表情を見せた。
「ああ、スマホだ! 通話もゲームも何でもできる、調べ物もなんのその。高性能な精密機械を、お祝いにプレゼント! ……と、言いたいところだが、これはただの仕事用支給端末だ」
「へ?」
「仕事用支給端末。まぁ要するに、仕事に関する機能しか備わってない端末だな!」
そう言って青鈴は爽やかな笑みを浮かべた。呆然としたままのヴァイスを一旦放っておいて、端末を個人に配り始める。
それはもちろんヴァイスにも配られた。ヴァイスの手では少し大きい端末を、まるで初めて目にしたかのようにまじまじと見つめる。
それから、四人に端末を配り終えた青鈴を見た。
「期待させたのは悪いが、そんな気落ちしないでくれ。わかるだろ? まだ幼いお前たちに何でもできるスマホをあげるわけにはいかないんだ。本物はもう少し大人になったらな」
そう言って、青鈴は骨ばった大きな手でヴァイスの頭を撫でた。
その手に絆されるようにして、ヴァイスは「はぁい」と気の抜けた返事をする。青鈴の手が離された後で、乱れて顔にかかった髪を払うように顔を左右に振った。
「まぁその端末の使い方は、実際に操作して覚えてくれ。大抵、普通のスマホと変わりないからな。と言っても使える機能は通話、任務のスケジュール確認、あとは……体調管理くらいのものだけどな。
まぁ機能が少ない分、使い勝手はいいと思うし、そもそも国からの支給品だから大切に使ってくれな?」
片手だけでお願いをするようなポーズをする。それにもヴァイスは素直に頷いた。
青鈴は自らの子供を見るような慈愛の瞳を向けて、それからカティアと何やら目配せをする。やり取りが終わったのか、カティアは机の方に寄りながら高く積まれた資料に手をついて、それからこちらへと向き直った。
ヴァイスは嫌な予感を抱き、顔を顰めずにはいられなかった。
「最後に、これはチーム結成にあたっての諸々の書類ね。全部に目を通しておいて、それからサインもちょうだいね。期限は明後日までだから」
ふわふわと、語尾に音符でもつきそうな声色の割にその内容はハードそのものだ。
表情の歪みが増していくのを、ヴァイスは否が応でも感じ取ってしまう。
「それじゃ、午後のお仕事も頑張ってね」
「じゃあ、えっと……そういうことだから、よろしくな?」
ピアノの音色を転がすように言ったカティアに、青鈴が申し訳なさそうにそう続ける。
そうして教師二人は大量の書類と新人四人を残して、後腐れもないように退室してしまった。
はぁ、という誰かの深いため息が、四人全員の胸中を代弁するように響いた。




