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人工亜人の駆逐対象である異形は、その個体によって強さもピンキリだ。平均的な強さの人工亜人一人が余裕を持って倒せる異形もいれば、苦戦を強いられ最悪の結果をもたらすような異形ももちろんいる。
そこで、異形の殲滅を目的とする組織——異形殲滅特別組織は、チームという制度を定めた。
チームは原則として二人以上の人工亜人で組み、人数の上限はないが平均として見れば大体四、五人で大人数のチームと認識される。
人工亜人たちは、そうして仲間と協力しながら異形の殲滅を目指していく。
しかしチームを組んだからと言って、必ずしもチームメンバー全員で任務に当たらなければいけない、というわけでもない。
任務に赴くのが一人で事足りるならそれでよし。状況によって、出撃人数を増減させるのが主流なのだ。
その、“チーム”の説明が何故前提にあるのか、と話を聞きながら考える。
まさか、と浮かんだ考えを、今度は後押しするような控えめな手拍子が聞こえてきた。
「そこで! めでたく研修期間を終えたあなたたち四人で、チームを組んでもらうこととなりました〜!」
いつから持っていたのか、パーティー用として売っていそうなクラッカーをカティアは鳴らす。隣にいる青鈴は、何やら「祝! チーム決定」と書かれた紙をニコニコとしながら掲げていた。
ヴァイスは思わずへ、と腑抜けた声をあげる。真面目とおふざけの反復横跳びで頭が混乱してしまいそうだった。
ヴァイスは教師二人を交互に見やって、視線で更なる説明を促そうとする。
「本当に感慨深いわ〜! 私もう、胸がドキドキしちゃって」
「分かるぞ、その気持ち……何も知らなかったこの四人にも、ついにこの時が来たんだな……」
ダメそうだ。先程は思い出話を食い止めていたはずの青鈴までもが、気が抜けてしまったのか和気藹々とした雰囲気でカティアと会話を繰り広げている。
「すみません、一つ質問いいですか?」
「あら、何かしら? ノワール」
誰もが割って入る勇気のない中、ノワールが何食わぬ顔で手を挙げた。青鈴やヴァイスたち三人も、一斉にノワールの方を見る。
「本来、誰とチームを組むのかは自由です。その前にチームの結成も、制度こそあれど義務化されているわけではありません」
色のない淡々とした口調で話していく。
確かに誰とチームを組むかも、そもそもチームを結成するかどうかさえ、それは個人の自由であるというのもチーム制度の内容だ。
昔から共に過ごしてきたこの四人だからこそ違和感を抱かなかったが、指名されてチームを組むというのも変な話である。
ふむふむ、とでも言うようにヴァイスは小さく頷く。
「それなのに何故、僕たちはチームを組むことも、そのメンバーさえもあらかじめ確定されているんですか?」
弱冠十二歳とは思えない口ぶりでノワールが続ければ、カティアもその疑問を予想していたようにゆっくりと相槌を打っていく。と、同時に何故だか段々とその表情が曇っていく。
何か気に障ってしまったのだろうか、と質問した本人でもないのにヴァイスは思った。
けれど同様のことを憂いたのか、ノワールは少し口籠った後に小さく「すみません」と言った。あのノワールが謝った、と驚きたい気持ちを抑えつつ、ヴァイスはカティアの顔色を窺う。
すると、カティアは淑やかにため息を一つ吐いた。それが何に対してのため息なのか分からないヴァイスは、身構えるような心持ちになる。
「上からの、命令なのよ……」
ポツリと放った後にカティアはまた一つ、今度は盛大にため息を吐いた。
そんな彼女の様子は、呆れているようにも怒っているようにも見える。
「命令、ですか? たかがチームの決定に」
訝しむような声色で、今度はスティルがそう言った。
たかが、は言い過ぎかもしれないが、確かに多くいる人工亜人の中でこれまた多く結成されてきたチームに、上——彼らの立ち位置で言うならば人工亜人を作った研究員の干渉があったなど、ヴァイスの記憶する限りでは聞いたことがない。
自分が知らないだけかもしれない、とヴァイスは思うが、それにしては他のメンバーも先程から不思議な表情を浮かべっぱなしだ。
そもそも、四人の中では一番情報通であるスティルが疑問を呈するということは、つまりそういうこと。
誰も、そんな前例を知らないのだ。
「ええ、私も初めてよ。全く、あの人たちも勝手ねぇ……」
「カティア、それは不敬だぞ……」
「あらやだ、ごめんなさい」
さほどごめんなさいとは思っていないような様子でカティアは言葉を放つ。
そんな陽気な彼女とは違って、ヴァイスたちは若干の苦笑いをした。
「まぁ、決まってしまったことは仕方ないわ。さっきも言った通り、あなたたち四人はチームを組むことになりました。
上の決定だから、勝手に脱退したり赤の他人を引き入れたりしちゃダメよ?」
注意するように人差し指を立てて、その内容とはチグハグな可愛らしい仕草をしてみせる。
色々疑問は残るが、ヴァイスたちは「はい」と返事をする他なかった。




