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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
15/61

5-1 チーム結成

 簡素な装飾の部屋。標準的な大きさのスクエアテーブルを前にして、ヴァイスたち四人は横一列に並んでいた。直立不動でいるノワールや、同じ姿勢で待つディアンとスティル。

 彼らと違ってヴァイスはそわそわと落ち着かない気持ちでいた。

 自分たちを呼び出した“先生”はいつ来るのか、と。


「少しは落ち着いたらどうだ? お子様みたいだぞ」

「なっ、……いいよお子様で。まだ十歳だし」


 顔の向きはそのままに、揶揄うようなセリフを吐いてきたディアンにそう返す。愉快そうに笑う控えめな声が、ディアン以外にも二人分聞こえてくる。

 全く、あとどれだけ揶揄われれば良いんだ。

 原因は自分にあるにも関わらず、ヴァイスはその思考をため息にして吐き出した。

 かと言って、そのいじりを不快に思うことはない。むしろ、この家族内ではお互いいじり合うのは日常茶飯事だ。もう既に慣れ切っているし、悪意のこもっているものではないと知っていたから些事である。

 きっと他人にいじられたのならそうはいかないだろう。一度目では不快を表し、二度もあろうことならば怒りを滲ませた言葉を吐いてしまうのは容易に想像できた。

 家族だからこそのこの距離感が、亜人としての(・・・・・・)ヴァイスには心地が良いのだ。


 ガチャ。

 そうして再び待ち人を望んでいれば、不意に部屋の扉が開かれる。ヴァイスは振り向きたい衝動をグッと抑えて、代わりに背筋を目一杯伸ばしてみせた。

 コツコツコツ、と急くような靴音が弧を描くように流れていき、四人の前に一人の女性が現れた。


「あら〜みんなちゃんと待てて偉いわね。呼び出した側の先生が遅れちゃったって言うのに、本当いい子たち」


 カナリアが(さえず)るような声を転がして、目の前の女性は微笑んだ。両手を合わせて顔の横に持っていく仕草とその立ち振る舞いからは、スティルとはまた違った上品さを感じ取ることができる。

 薄桃の前髪を揺らして、それを(さら)うようにかけられた冷たい海色のグラデーション。腰あたりまでに伸ばされた、珍しさを感じるような柔らかい髪を纏った彼女の名前はカティアと言う。

 ヴァイスたち四人の、二人いる先生のうちの一人だ。


 カティアは上機嫌そうに閉じられていた瞼を開いて、そこから覗いた檸檬(れもん)の瞳を優しく光らせる。

 薄い唇で静かに息を吸った。


「それじゃ、早速本題を……と言いたいところなのだけれど、彼がまだ来てないわねぇ〜」


 真剣な雰囲気を纏ったかと思えば、それは一瞬にして剥がれ落ちる。例えるならゆるふわ、という風な声色で困ったようにそう言った。

 かれ、とヴァイスは小さく復唱して、それからその心当たりを思い出した。どうかしたのだろうか、と首を傾げていると、廊下の方から規則的な革靴の音が聞こえてきた。今度は抑えきれずに、扉の方をくるりと向く。

 全開にされた入り口から入ってきたのは、一人の男性。


「すまん! 持ってくものが多すぎてな……遅くなった」


 大量の書類と何やら小箱を抱えた男性は、へらりと笑いながらカティアの隣に向かう。

 両の手に持っていた荷物を慎重に机の上に置き、少し長めに伸びた銀髪を揺らしながらヴァイスたちの方を向いた。


「ごめんなさいね、こんな大量の荷物を持たせてしまって……ありがとう、青鈴」


 カティアに青鈴と呼ばれた彼はその言葉を聞いて、謝罪をかき消すように快活に笑ってみせる。


「いや、いいんだ。力には自信があるからな、任せてくれ」


 胸に手を当て、自慢するように明るく言った。それに伴って大ぶりな耳飾りが踊るように動く。

 ヴァイスが猫みたく釣られて視線を動かしていると、青鈴はそれに気付いてヴァイスにニコリと微笑みかけた。反射でヴァイスは子供のような笑顔を返す。

 面白がるように破顔した青鈴は、さて、と切替の言葉を放った。


「そろそろ本題に入ろうか」

「あら、それ私の台詞よ?」

「はは、すまんすまん」


 そんなやり取りをして、二人はくすくすと笑い合う。

 仲睦まじいその様子は微笑ましいことこの上ないとヴァイスは思うが、一体いつ本題が始まるのだろうと思わずにはいられなかった。そわそわと、また体を揺らしてその時を待つ。

 焦燥の色を映した瞳を何度も瞼で覆い隠すようにしていれば、唐突にパンッと乾いた音が部屋中に鳴り響いた。その音はカティアが手を叩いたことによって発生したものだと、ヴァイスは一瞬で理解して。

 デジャヴのように姿勢を正して、カティアから放たれる言葉を待った。


「さて、あなたたち四人が目を覚ましてから五年。訓練生としての課程を修了し、二週間の研修期間を終えてようやく、真の意味で正隊員として活動することができるようになりました。

 ……思えばこの五年間は長いようで短くて、いつの間にかみんなはこんなに——」

「カティア、そこら辺はまた後で……まずはあの話、だろ?」


 思い出を想起し語り出しかけたカティアに、青鈴が意味深な言葉を吐きながら制止をかける。カティアはあら、と言葉を一つ漏らして照れ笑いを浮かべた。


「そうね、ごめんなさいね。私ったらすぐ話が脱線しちゃうんだから……」


 困っちゃうわね〜、と自らのことでありながら両の頬を手で包んでそう言った。

 どうしてもマイペースな彼女の性格が隠しきれないその様子に、ヴァイスは思わず笑みをこぼす。

 それからカティアは小さく咳払いをして、真っ直ぐな視線を四人に向けた。


「今日はそんな研修期間を終えたあなたたちに、これからの活動について決めなければならないことがあります」


 一段とよく通る声でそう言われて、ヴァイスは頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 先の活動について何らかの説明があるというピンポイントな予想をしていたのに、それを覆されることとなったからだ。

 これからの活動について決めることの内容もそうだが、そもそもその話自体事前に知らされていない。つまり初耳である。


 隣に立つディアンの顔をチラリと覗き見れば、彼もまた片眉を少し持ち上げ不思議そうな顔をしていた。どうやら、ヴァイスだけでなく他のメンバーも同様に知らされていないらしい。

 そこに謎の安心感を覚えながら、顔の向きを直して話の続きを待った。


「まずは前提の説明からするわね。みんなも何となく知っているとは思うけれど、私たち人工亜人は基本的に複数人で組んで異形と戦うの」


 片手のみでジェスチャーをしながら、カティアは話す。あー、と心当たりを思い返しながらヴァイスは頷いた。

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