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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
14/61

4-3 呼び出し

 ヴァイスとノワール、そしてディアンとスティルは、五年前に生を始めたその瞬間から家族として共に生きてきた。

 教育を受けるにも食事を摂るにも、何をするにも一緒な彼ら。

 目覚めた時期が同じだった四人はもちろん、異形と戦う正隊員となった日も同じだ。


 昨日の見回りで教育係である先生と行動していた他のメンバー二人も、ディアンとスティルのこと。

 だから夕方に会ったディアンとは労いあってハイタッチをし、食堂で鉢合わせたスティルは「お昼ぶり」と言ったのだ。

 ヴァイスは後で知ったことだったが、ディアンたちはどうやら異形には遭遇しなかったらしい。わざわざ人数の少ないヴァイスとノワールの前に現れた異形に苛立ちを覚えたのは、ここだけの話。


 そうして昼食を終えた四人は、かたまりになって歩いていた。呼び出しを受けたのは何もヴァイスだけではなかったからだ。ノワールたちもまた、同じように呼び出しを受けている。

 正隊員になったのが同じ日である彼らにはさして意外なことでもなく、そもそも事前に知らされてはいたことなので同じ行動を取るのは自然なことだった。


「先生、何を話すんだろうね」


 歩いている途中で、ノワールが不意に話題を持ちかける。三人もそれに反応して、考えるような素振りをした。


「普通に今後の活動についての説明とかじゃない? ほら、こういうことに注意しましょうね〜、みたいな」

「そんな学校みたいな軽いノリで……」


 ヴァイスが朝、部屋で思いついていた考えを言ってみれば、スティルにそうツッコミを入れられる。えへ、と無邪気に笑えば、スティルも小さく笑みをこぼした。


「分からねえことばっかだな。……そう言ってみれば、俺たちは異形のことも詳しくなんて知らねえし」


 少し話が逸れてはいるが、ヴァイスたちも確かに、と頷き同意する。

 ディアンの言う通り、彼らは異形と戦う身でありながらも異形の詳しい情報などは知らなかった。どうして生まれたのかと言うルーツももちろん、その生態のことですら。

 異界人の魔法は効かないと言う割に、異界人である亜人をオリジナルとして造られた人工亜人の攻撃が効く理由も。


 何も分からない中で戦いの炎を燃やし、そして戦いの中散っていく。ヴァイスは、やはりそれが間違いのように思えてしまって。

 前を行く三人には悟られないよう、ほんの少しだけ俯いて下唇を噛んだ。


「分からなくても良いんじゃないですか? そもそも、分かったところで私たちのやるべきことは変わりません。異形を殲滅する、それだけを考えていれば良いんですから。……分かろうとするだけ、無駄ですよ」


 スティルが何気なく放ったであろうその言葉。それを聞いて、ヴァイスは心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを覚えた。止まってしまいそうな足を、無理矢理にでも動かしていく。


 実際、スティルの言ったことが正しいのだろう。ヴァイスたちは、戦うためだけに造られたのだから。

 どれだけ人並みの生活を送ろうとも、何事もない平和な日々を過ごそうとも、その事実は変わらない。

 ノワールはあえて口には出さず、ディアンに至っては否定をするどころか同調されたことで忘れかけてしまいそうになっていた。

 一心に背負わされた使命を全うする。それこそが、自分たち人工亜人にとっての正義。

 けれど、その戦うことの真実さえをも求めてしまったヴァイスにとっては、神経を蝕む猛毒のような言葉だった。


「……まぁ、そうかもね」


 ノワールが曖昧に返事をする。前を歩く彼が、どんな表情をしているのかなんて窺い知ることはできない。いつも通り、色のない笑顔を貼り付けているだけかもしれない。

 それでも少しだけ生じた間に、都合のいい解釈をせずにはいられなかった。昨日の話を覚えているのならば、その裏側に少しでも否定の意が込められているのかもしれない、と。

 そんな、都合の良い解釈を。


「大丈夫か?」


 いつの間にかヴァイスの隣へと寄ってきたディアンが、静かに耳打ちをしてくる。ハッと顔を向けた。僅かながらに心配するような色が浮かぶその顔を見て、毒がスッと抜けていくような感覚を抱いた。

 引き結んでいた唇を開いて、大丈夫とヴァイスもまた静かに返す。ディアンは少しだけ目を細めたかと思えば、また前へと向き直った。


「二人で何をこそこそと話しているんです?」


 そんな二人を訝しんだスティルが、後ろを振り向いて聞いてくる。不意打ちのその声かけに、ヴァイスはえっと驚く。

 口篭って困惑していれば、緩い動きでディアンが前へと出てきた。不安げにディアンを見上げる。


「お前の話だよ。相変わらずお堅いやつだな〜、ってよ。お前らしいけど」

「はぁ? なんですか、それ……」


 呆れたような声色でそう言って、スティルはまた前を向く。

 同い年とは思えぬほど、しっかりと正しく伸ばされた背筋が少し羨ましかった。けれどそれになれないと知っていたヴァイスは、ただ静かに微笑んだ。

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