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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
12/61

4-1 呼び出し

 室内を包むひんやりとした空気。ヴァイスは肌寒さを感じて、自らの二の腕あたりを厚手のパジャマごとギュッと掴んだ。


「さむい……ねむい……」


 一夜明けて、現在朝の六時半。元々寝起きの良くないヴァイスは呂律の回らない舌でボソボソと呟きながら、ベッドから這うようにして出た。

 ゴトン、と硬い音を響かせる。体を床に打ちつけた衝撃と痛みなど意に介さず、のろりのろりとなんとか立ち上がった。

 うぅ、と小さく呻き声をあげて、後ろ髪のそこかしこについた寝癖を軽く梳かす。眠気を残す幼児のように、ごしごしと目を擦った。


 そしてヴァイスは、パチンと一つ指を鳴らそうとする。

 だが寝起きの状態では力も入らず、一度目は無様に滑って終わってしまう。何度か慣らすようにして繰り返し、腕ごと勢いよく振ってそれはようやく成功した。


「うっ、眩し……」


 シャッ、と勢いよくカーテンが開くと同時に、ヴァイスは普段よりも低い声で呟く。

 わざわざ手間のかかるフィンガースナップをしたのは、魔法でカーテンを開けるためだった。健康的で規範的な一日を始めるためにしたことではあったが、起きがけに日光を浴びたことのダメージは想定していたよりも大きい。

 ムッとした表情を作って、それから靄を払うように右手をぶんぶんと振った。


 軽いストレッチをした後で、扉近くにある壁掛けカレンダーへと近寄る。

 数秒ほどそれを眺めて、何か思い出したようにポンと手を叩いた後でマーカーを持ってきた。発色のいい真っ赤なやつだ。


「研修期間、終わり……っと」


 小さめの、男の子にしては可愛らしい文字でそう書いた。カチッと音を立ててマーカーをしまいながら、満足そうな笑顔を浮かべる。

 乾いていないことを想定して、記入した文字とは少しズレた部分に手を添える。確かめるように人差し指で少し撫でて、浅縹(あさはなだ)の瞳を真っ直ぐに光らせた。


 人工亜人はその名の通り、人工の亜人——つまり造られた存在だ。そんな彼らは戦うために生まれてきたとはいえ、意識を持った瞬間から武器を手に取り魔法を扱うわけではない。

 他の存在と同じように、生まれた瞬間は何も知らない、無垢な赤子なのだ。


 目覚めた直後の人工亜人には「教育係」と言う、自身よりも経験を重ねた人工亜人があてがわれる。その肩書きの通り、教育係は学問、体術、魔法に至るまでを教える存在だ。

 そして、教育係がついている間の期間は「訓練生」と言う枠組みに入れられ、大凡五年間は教育を受けることとなる。

 因みにその間単独はもちろんのこと、訓練生が複数人いたとしても教育係の許可がない限り、異形との実戦は禁止されている。


 そしてその期間を越えた後、彼らは「正隊員」となるのだが……。その正隊員となった後も、二週間は任務を教育係や先輩の正隊員と共にすることを義務付けられている。

 その間を研修期間、と名付けられている。

 意外にも、そのあたり国や組織はしっかりしているのだ。


 そしてヴァイスは、なんと昨日がその研修期間最終日。今日からようやく、本当の意味での正隊員として活動することができる。


「にしても、キリ悪いな」


 先程とは違い気の抜けた表情で呟いた。

 キリが悪い、というのは日数のことだ。研修期間の日数だけの話ではなく、見回り場所の変更とのタイミングのこと。

 どうせなら、場所が変更するタイミングで研修期間も終わればいいのに、とヴァイスは思ったのだ。


「……ま、いっか。そんなこと気にしてる余裕ないし」


 投げやりに呟く。事実、細かいことに関心の向かないヴァイスにとって、そんな問題些細なことだった。


 そういえば、訓練生を卒業するまでの期間だって、正確に定まっているわけではなかったな。


 それを思い出すと、尚のことちっぽけなことだと感じ始めて。きっとノワールやスティルならばいつまでも気にしたままなのだろう、と愉快に思いながらもヴァイスは身だしなみを整え始めた。

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