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モノクロの君に捧げるモノローグ  作者: 花式カイロ
一章
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3-3 ほおずき

 淡く映ったマジックアワー。意識しなくとも脳裏に焼きついてしまいそうな綺麗な空を目にしながら、ヴァイスは寮のテラスにいた。


 アイアン製のテーブルセット。ヴァイス自身の髪色とは違い、いかにも人工的な白を纏ったそれに腰掛ける。

 光の加減で色が変化する金緑石のように、空が反射しフューシャに変貌した瞳で考えを巡らせた。


 スティルは一体、何をどうするつもりであんなセリフを吐いたのか。


 先程のヴァイスの態度は、誰がみてもあからさまな挙動不審だった。食堂の入り口でこそこそとし、理由を聞かれればはぐらかす。

 改めて思い返すと、自分の行動があまりにも怪しくて、ヴァイスは静かに嘆いた。


 そんなヴァイスにも恐らく気遣うような素振りを見せ、行動を起こしてくれるスティル。他意があるのかそうでないのか。

 普段からお兄様と呼んで慕ってくれる彼だからこそ、純粋な尊敬からくるものだと思いたかったが、今のヴァイスはそんな気にもなれなかった。


「……これで二度目」


 気を遣われるのは。

 その言葉は、ゆっくりと薄香の唇に飲み込まれた。


 ガチャ、と無機質な音を立てて、室内へと繋がっている扉が開く。パッと振り向けば、開いた扉の先にはスティルが立っていて。

 声をかけようとしたヴァイスの口は、一瞬にして閉ざされてしまった。


「え、それ」


 スティルは両手にトレーを持っていた。漂う香りが先立って、それが食堂で提供されている料理だと主張してくる。浅い皿に盛り付けられた魚料理が、遅れて視界に入ってきた。


 いまだに困惑するヴァイスに、宥めるような微笑みが向けられる。コツコツ、と硬く滑らかな靴音を響かせて、スティルはテーブルのそばへと寄った。

 そうしてコト、と控えめな音を立ててトレーをテーブルに置く。

 二人分の食事が大きくはない面積のテーブルを占領する。目の前の空いていた椅子には、スティルが座った。


「わざわざ、持ってきてくれたの?」

「えぇ、まぁ。だってお兄様、あのままならずーっとお腹を空かせた状態で、入り口のそばで右往左往していたでしょう?」


 くすくす、と上品に笑う。背丈も年齢も変わらないはずなのに、何故だか年上から穏やかに叱咤されている気分になった。


「そ、そんなことは……でも、ありがとう。僕のためだけに、こんな手間かけさせちゃって」

「いえ。たまには二人だけで食事を摂るのも良いものですから。……それに、お兄様のお役に立てることは私の何よりの光栄なので」


 目を伏せて、落ち着きのある声で言う。ゆっくりと瞼が開いたかと思えば目を合わされて、再び美麗な笑みを浮かべた。

 むず痒いな、とヴァイスは思う。

 まだまだ幼く、保護者の庇護下にあるような少年——もといスティル。そんな彼が、大人と遜色ないような所作をしてみせる。そして、そんな彼より幼稚で未熟な自分のことを尊敬してくれている。

 食堂から離れたテラスに、二人分の食事を持ってくる手間も惜しまないほどに。


「……うん……?」

「? 何か?」


 深刻そうな思案をして、不意にヴァイスはとあることに気づく。名探偵を気取ったようにして顎に手を置き、それからスティルの方を見た。


「僕、もしかして甘やかされてる……」


 奇妙なものでも見るような視線をスティルに送る。困惑を分かりやすく表す寄った眉の距離を一層近づければ、スティルは緩い動きで腕を組んだ。


「おや、今更気付くんですね」

「ええー!」


 まさか当たっているとも思わなくて、ヴァイスはガタッと騒がしい音を鳴らし立ち上がる。カチャン、と器の擦れる耳障りな音が響いた。


「ほらほら、お行儀が悪いですよ。料理も冷めてしまいますから、早く食べましょう」


 何事もなかったように、ね、と綿のような声で言われる。あからさまに、けれどごく自然にはぐらかされた話題を、ヴァイスは口を引き結んで嚥下(えんげ)した。


「……いただきまぁす」


 はむ、と一口含んだ。夜の空気にさらされた料理は、それでも確かに美味しかった。

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