第四話 キラキラを集めて・・・
- flower -
コーヒー飲みに行くんだけど付き合ってくれる?
そんな言葉に、なんか「行く」って云ってしまい
今、ものすーごく自己嫌悪──────
今日は行く先々でいっぱい泣いて、めちゃめちゃいろんな事ありすぎて
自分の感情がぐっちゃぐちゃになってる日なのに、それなのに一番気になる
カスミに誘われてドキドキしながら付いてくって
何してんだろわたし──────
“一番やっちゃダメなタイミングじゃんハナ!”
ほ~ら、さっそく問題発生だよ。でたよ“あの”ヘルメット
女性の気配がするんだよ、なのに黙って受け取ったりしてさ
カスミに被せてもらって、あご紐まで締めてもらってさ
アンタ何してんのハナ?
「ん、顎上げて。きつかったら言ってな」
「ぅ──────うん」
ホラね、やっぱり誰かの髪の香り。もうさっそく後悔しかない、なにこれ。
ハナ、アンタもしかして嫉妬してる? 誰かも知らない人に対して・・・
「キツくない? ──────髪、変に挟まってない大丈夫?」
「あのさカスミ。このヘルメット誰の?」
「え? オレのだけど、なんで?」
「──────ううん、なんとなく」
ふぅーん。そうなんだ、オレの・・・なんだ
“花柄ですよ?”
「カスミってさ、何時もこうやって誰かを後ろに乗せてるの」
「西口の子とか──────」
「・・・なんでだよ! そんなナンパに見えるかオレ」
「前に一度だけタカっちが終電逃して家まで送ったことあるけど・・・」
「仕事でだからな遅くなったの! ・・・一応言っとくけど、さ」
女の子一度乗せるだけの為にヘルメットなんて買わないよね・・・
あーもう!
そんなに嫌なら乗らなきゃイイんだよハナ!
ごめんなさいして帰ろ、今ならまだ間に合・・・うのにぃ
あーぁ、乗っちゃった。もう後戻りできないよ走り出しちゃった。
カスミにこんなにくっついて抱きついてさ──────
アンタキライなんじゃないの? カスミの事
“だって、こうしないと振り落とされそうだし、わたし──────”
バイクもキライだよ、怖いし、話し声だって聞こえないしさ
ホラね、カスミがなんか言ってるけど殆ど聞こえない──────
この憎き誰かの花柄ヘルメットのせいでさ・・・
足載せるトコだって鉄むき出しで固くて細いから足のうら痛いし
風で目も痛いし・・・
そんなに嫌なら降りればいいじゃない!
ホラ信号で停まった。降りなさいよ、はやくっハナ!!
「もうすぐ着くよ、もちっと我慢してな」
「──────うん」
“いくじなし・・・”
コーヒーだってさ、飲みたかったらわざわざNMのスターカフェまで
行かなくたってコンビニのドリップコーヒーだって美味しいのにさ
なによ、何してるのよアンタ──────
“ほんと、何してんだろわたし”
わざわざNMのこんなカプだらけの大観覧車の下まで
連れて来て貰ってイルミがきれいだなって、キライなくせに
ドキドキしてさ・・・ばかじゃん!
「つーいた。メット脱げる?」
どうせならっ、最後まで面倒見なさいよ、ばか!
「とれない、脱がっ・・・せて」
なにっ言い掛けてからちょっとエッチな言い方だったかも
なんて気付いて口籠って。何意識してるの、わたしのバカっ!!
「えーっと、喫煙席は・・・あるな、よし! 行こハナ」
「んっ・・・」
なに当たり前みたいに手を握られてんの? 嫌なら離せばいいじゃない
怖くないからってすっかり安心しちゃってさ、俯いてついて行って・・・
ねぇハナ、アンタ理解ってんの?
“これじゃわたし完全に──────カスミを好きなんじゃん!”
「こんばんわ!」
「うっ・・・ども」
うっ、じゃない!!
スタカフェ特有のお迎えっ!
いちいちビックリして手ギュッってすんなカスミ!
「えーっと。ハナ何にする?」
「っ──────いい、自分で頼むから」
ホラ、すぐそうやって勝手に繋いだ手離す、こっちの気も知らないで・・・
繋いだのアンタでしょ! スタカフェの店員さんに見られると恥ずいからってさ
すぐそうやって見栄を張る!
自分で繋いだわたしの手を離してまで自分の見栄がそんなに大事?
人がどう思おうが関係ないでしょカスミ! なんで目の前のわたしに
まっすぐ向き合えないのっ、今の貴方は一体どっちが大事なの!
ねぇ、はやく頼みなさいよね後ろの人待ってるんだからっ
「チッ────── んだこれコールドぶっブリ?・・・」
「えーっと、いいや。じゃあ」
「アイスコーヒーのM。ホットで」
どっちだよっ!!
「プっ!・・・」
店員さん顔だけアッチ向いちゃったじゃないのっ
もう、バカ!
どうせわたしが頼んだのに「オレも」って言おうとしたんでしょ?
カフェだけに、後ろの人クスクス笑ってるじゃんばかっ!
あーもう見てらんない
「カスミそとの灰皿のっ! 開いてる席取っといてよ座られちゃう前にぃ」
「お、おうそっか・・・じゃ頼んだ──────」
ばかっ、ばか!
「もうっ、こんばんわ! コールドブリューのグランデ1つにホイップ追加と」
「モカフラペチーノのショート1つ。後ワッフル2つくださいっ!」
「ありがとうございます。ふふっ、カワイイカレシさんですね」
「仕事仲間です!!」
「1755円です。横にずれてお待ち下さい、ケンカしちゃダメよ?」
「お気遣いありがとうございますっ!」
もう!! なんでわたしが面倒見る形になってんのよ
アンタがツレてきたんでしょうに・・・
はぁ・・・
もう、なんかいいや・・・ちかれた。
“気は済んだハナ?”
昨日のお礼もまだ言えてないし、わたしの勝手な自爆誤解も
ゆうこさんに聞いてなんとなく腑に落ちないけどさ、いちおう解消したし
明日からもお休み抜いて約10日位一緒に居ることになるんだし
ケンケンしちゃダメ、必要以上に仲良くしなくてもいいけど
せめて気まずくならないようにしなきゃ・・・
それにわたし達、お店の末弟と末妹なんだし──────
ううん、絶対っわたしのほうがお姉ちゃん!
「お待たせしました、ごゆっくり。なかよく、ネ」
「──────ありがとうございます、いろいろと」
スタカフェ来たこと無いなら練習試合してから誘えばいいのにさ
きっとさっき、倉庫前でスマホで調べたんでしょ──────
それともさとるさんの入れ知恵かな? 何話す気か知らないけどさ
少しでも雰囲気のいいところでって
あのねカスミ、コーヒー飲むだけなら藤乃宮の駅から歩いて少しの
ところにもあるんだよスタカフェ。でも、気遣いの意気込みだけは
買ってあげる。
まったくもう、7月誕生日なら一ヶ月は3つも年上のくせにさ
やってることも雰囲気もまるっきり男子。明日太と変わらないんだもん・・・
絶対わたしの方がお姉ちゃん! カスミはみんなの末弟っ!
ガムシロ5つぐらい入れるんでしょお子様だから・・・
持っていってあげるお姉ちゃんだからっ!
「はい、おまたせっ!」
「ふぅー・・・なんか、ありがとなハナ」
はぁ、もうやめよ・・・
この人は仕事仲間っ、いい?
ハナ、アンタ変な気起こすんじゃないわよ?!
また自爆するから──────
「ホラ金、二千円で足りる?」
「いいよ、おごってもらう義理ないし・・・」
「んー・・・そっか。じゃゴチな」
──────おごってあげる義理もないんだけどさ
「でさ、カスミ。どうしたの突然、今日休みだったんでしょ?」
「あー・・・うん、昨日のことも有って、お店に出てこれたのかなって」
「ちょい・・・な」
心配・・・してくれてたんだ
「言えてなかったけど、ありがとねカスミ」
「お医者様が云ってた、物食べてたのが良かったんだって」
「カスミが歌舞伎揚げ4つとグミくれたでしょ?」
「あれ無かったらわたし多分・・・」
「いいよもう。こうして一緒に居られるんだから、よかったよオレ気付けて」
うぅ・・・ そこで、さとるさんや社長みたいなこと云う?
ダメよハナ! キュンキュンして末妹になっちゃダメ、気だけはせめて
お姉ちゃんでないと・・・
「う、何だこれほとんど味しねぇ」
「ふふっもう。あのね、こうするんだよ」
コーヒーの上のホイップをワッフルで掬ってみせた
ほんとに来たことなかったんだねスタカフェ
こういう遊びも知らないんだカスミ・・・
「あのさ、なんか疲れてるとこ急に誘って悪かったなハナ」
「今日もだけど・・・ハナがずっと機嫌悪いのってさ」
「オレ、なんとなく心当たりあるんだよね・・・」
「──────うん」
あの話だ・・・わたしがお花屋さんに期待と不安でキラキラしてるのが
そばにいると眩しくてツライって・・・カスミ、もう大丈夫だよそれ。
ゆうこさんに聞いてわたしの聞き間違いだって、納得したから。
「初日の朝さ西口でオレ、ゆうこさんに耳打ちしてたんだハナのこと」
「聞いちゃったんだろそれ・・・んで・・・さ」
「本人にちゃんと伝えといたほうがいいと思って、さ──────」
きっとゆうこさんに云われたんだよね、わたしが聞き間違えして
誤解してるって。でも、ちゃんとこうして面と向かって誤解を解いて
くれようとしてる・・・
「オレさ──────」
「ごめんねカスミ、わたしこそ聞き耳立てるようなことして」
「それでわたし聞き間違いして勘違いして勝手にぷんぷんして──────」
「ほんとゴメンなさい。わたし当て擦りみたいにして勝手にキライ宣言してさ」
「痛い娘だよね、わたし・・・」
「ん、んなことねーよ。誰だって突然キライって云われたらそりゃ傷つくだろ」
「あ・・・オレは平気だからな。その、そりゃちっとはクるけどさ」
不器用で情熱家で、がむしゃらの努力家か。実直なんだよねカスミって
聞き間違いの話をゆうこさんに知らされて細かいこと考えずにさ
居ても経っても居られなくなって倉庫で待ってたの?
何でそんなにわたしに優しくするの? って
たぶん分かるよカスミ、わたし今なら・・・
“でもさ──────わたしがこの気持を認めたくない理由わかる?”
う・・・ダメっハナ! 末妹になっちゃダメ流されんな!
ここ踏ん張りどころ頑張れ!!
「どうして誘ってくれたの? ココのお店に・・・」
「いや・・・なんとなくさ、前来たとき雰囲気よかったからさ」
(ズゾゾ・・・ゾ)
なにそれ
あるんじゃん・・・前に──────来たこと・・・
注文もできないのに。さっきみたいに注文してもらったの?
“ねぇ、カスミ。それ誰に?”
カスミ、アナタ気付いてないみたいだけど
マッチポイントだからね今。
フラペチ、なんか苦くなってきた──────
「・・・・・・」
「なぁ、ハナさ・・・カレシとかいんの? こういう所慣れてるしさ」
「ブッ! んッ────── なに? もう急にそんな事聞いて・・・」
“やめなさいよハナ! これは深追いしたら絶対に怪我するやつだからね”
「ふぅ・・・ナイショだよ、べ 」
「何で仕事仲間にそんな事教えてあげなきゃイケないのよっ!」
「そっ──────ち・・・こそ」
“バカ! ダメっ”
どうして違うパズルのピース持ってきてハマらないのに無理やり
グイグイ押し込むようなことするのっ! 悪い方に──────
「ね、ねぇカスミ! キレイだよねココ」
大観覧車の時計を見ると18:30・・・長居したらダメ。
たぶん・・・カスミ──────わたしに言おうとしてる
なんか・・・決定的なこと
「あのさ、ハナ──────」
「もう! さ、こんな時間なんだね。明日もあるし疲れたし、わたし帰るね」
「ちゃんと仲直りできたし・・・さ、明日からもよろしくねカスミ」
「お──────おう。じゃあさ、送るよ」
「いい! ココからなら地下鉄一本だしさ」
「カスミ! 明日シフトは?」
「朝から・・・だけどさ、なぁハナなんか怒った?」
「おこってない、疲れたの!」
「また明日。ばいばいカスミ・・・」
「はぁ──────またな、ハナ」
カスミの隣においたトートを引っ掴んでスクエアのなかを駅に向かって
ズンズン歩く。ゴメンね、逃げるみたいにして。
ホントは多分ね・・・わたしもカスミの隣りにいたいんだ。
でもさカスミ、アナタの隣の席──────
“空いてないでしょ今・・・”
だから末弟と末妹。母の日までずっと、そうしないと気まずいじゃ無い?
それに今日はダメ。どっちにころんでも、こんなクシャクシャな感情のまま
流れに身を任せたら絶対に大怪我する──────たぶん・・・お互い
だから没収試合でわたしの負け。
いいんだよこれで。ハナ、ナイスファイト。
また、明日から一緒にお仕事頑張ろう・・・ね、カスミ──────
翌日──────
社長に“取り敢えず連続3日勤務踏ん張れ!”と云われた最終日。
地下鉄藤乃宮駅でキサちゃんと落ち合って本店へ。さとるさんが昨日と
同じようにお店のシャッターを開けていて二人で店内へ入る。
開店の作業も三日目ともなればお手の物。ルーチン作業って得意なんだもの
9時前にはさとるさんの効率的な差配によって、昨日と同じように
下町にお花屋さんが出来上がる。でも心なしか、店頭の彩りが乏しい気が・・・
みんなでバックスペースに集まって、今日の作戦会議。
キサちゃんは今日も売り子さん。さとるさんと一日一緒だってウッキウキ。
で、わたしはと言うと──────
「昨日はさとるさんと切花の市いったんだろ? 今日はオレと鉢物の市」
「市場までの流れはほとんど昨日と一緒、だけど覚悟しろよハナ」
「今日はちょっとヘビーだ、ワンミスで社長が大噴火するからな」
そんな事を言うカスミと一日一緒。
だけどよかった。朝会った時からなんか物言いたげですこし不安だったけど
お仕事モードになると途端になんか少しだけ頼れる感じ。ヨシヨシ
「今日は朝の配達が近所一件だけだから僕が行くね」
「二人はこのまま市場に行って、大変だけど頑張ってねハナちゃん!」
今日はサチ店長が公休なため専務のさとるさんが店長代理。
店頭に荷を降ろしたトラックで、末弟と末妹の裏方ダブルスで
昨日と同じ東京花きへ、一路っ!
「な、ハナってさ、朝食ってくんの?」
さとるさんみたいに大きなハンドルを捌きながら突然そんな事を言い出す
カスミってさ、話を最後まで聞けば、あぁそういう事聞きたかったんだねって
理解るんだけど導入がさ、単刀直入っていうか突然なんだよね・・・
弟くん。キミはそんなだからきっと勘違いされちゃうんだぞ
「わたしは“いつも”バナナと牛乳」
「はぁマジか、よく持つなそんなで・・・って、そうだよな普段はJKだもんな」
世を忍ぶ仮の姿みたいに云うな!
もう──────
「オレはさ、ギリまで寝るタイプー」
「で、“いつも”高速に乗る前にこのコンビニでメシー」
「ハナ──────おまえなんか欲しい物、ある? 買って来んけど」
なーんだ、こんなに簡単なことだったんじゃない・・・
「 任 せ る 。ふふっ、またわたしの欲しい物、買ってきてよカスミ」
「んだよそれ。違うの持ってきてもさ、怒るなよなハナ」
結局、昨日の夜遅くまであの感情に振り回されて悩んで寝れなくて
でも、そんな余計な気遣いなんて、全く要らなかったんじゃん。
お互いに知りたいって想いがあるから
お互いを知ってて──────
「もーどり。ホラ、グレープ味」
「ふふっ・・・カスミくん正解っ!」
なんだ──────
仲間としては最高じゃない
- flower -
高速道路を走りながら隣のカスミは2つめのおにぎりに齧りつき
おーい!なお茶をゴクゴク音が聞こえるぐらい飲んで朝食中。
で、当然のようにそのお茶をわたしに持たせてるけど
わたしはキミのカップホルダーじゃないんだぞ・・・もう
そんなカスミの運転する東京までの道のりが、昨日さとるさんと通った
道じゃ無い気がしたんだよね・・・
「あんさ、GWちゅうの首都こ・・・うッ・・・ゲホッ!」
「もう、食べながら話するからだよあっぶないなぁ、ハイお茶」
比べるものじゃないけど、さとるさんはみんなのお兄ちゃんで長男。
落ち着いていて余裕があって、わたしの考えなんかぜんぶお見通しで
ずっと先の方で振り返ってわたし達に向かって
手を振って見守っていてくれる感じ。
カスミは、みんなの弟で、末妹のわたし達のすぐ上のお兄ちゃん。
はじめての道に怯えてるわたし達に、大丈夫だよって教えるように
一歩踏み出してわたし達の前に立ち止まり、手を伸ばしてくれる・・・
キサちゃんやはるなちゃんはどう思ってるかわからないけど
わたしはなんか、そう感じる。
「あー死ぬかと思った・・・」
ヤメロおい! いま褒めたばかりだぞカスミっ
運転手のアンタが死んだらわたしも死ぬんだからね?
「GW中だからさ、湾岸混むじゃん。ランドとかあるし」
「んで今走ってるのが空港線な。この時間なら詰まることがないからさ」
ふぅーん、そういうのもあるんだ・・・
じゃ何で昨日さとるさんはわざわざ混む方の道を──────
ひょっとして、わたしとお話する時間を作ってくれたのかな?
あの王子ならやりそう・・・そういう事
さとるさんで思い出した。お兄ちゃん王子は言わなくても気づいちゃってたけど
末弟君は気付けないだろうから教えてあげないと・・・
その上でお願いしとかないとだな。
「ねぇカスミ。わたしね本当は男の人苦手なの」
「知らない人に触れられたらたぶん叫んじゃう位」
「──────は?」
「チョット前見てっ!! もう怖いなぁ・・・」
「だっ・・・、俺がぶつかったあの時、助け起こすのに手を・・・」
「ハナが凍えてた時にオレ・・・ハナを抱──────」
「アレ大丈夫だったのか?!」
そうなんだよね、カスミやさとるさん。一番警戒してた社長まで
そんな恐怖心はなかった。その話をした上で昨日の家族の話をして・・・
「そっか・・・オレ等にはその恐怖を感じないってわけか・・・」
「家族な、なんか理解るわその感じ。実際俺も社長のこと」
「育ての親って思ってるしな。憧れっつうかさ、尊敬してるんだ」
「認められたいって。で、その話とハナの男の人怖いって話」
「どうつながるんだ? 何だよお願いって・・・」
わたしはその問いに答えた。家族として認めてもらえた、でもその上で
社長に、叱られるべき所でトラウマを理由に気を使われたら寂しくて、悲しくて
きっと突き放されてしまったような疎外感を感じちゃうって。
だから、男性恐怖症の話は社長に黙っていてほしいって
そうカスミに伝えた。でも──────
「なんだ、バカだなそんなとこあの人は気にしちゃいねーよ」
ばかって云った・・・カスミのバカ!
「ハナの気持ち、なんか理解るわ。 オレがこの職場で踏ん張ってこれたのはさ」
「超たまーに、社長が向けてくれるよくやったな華墨っていう飴なんだと思う」
「叱られるのも愛情あっての物種ってな。まぁ、飴一に対して」
「ムチ九なんだけどな」
「でもさ、ハナ。そういうお前のタクラミって」
「お前自身が姉弟のみんなや親父に対してさ、自分から壁を設けて」
「距離を置いてる事になるってハナ、おまえわかってるか?」
えっ・・・な、なによ末弟のくせに──────
そしてカスミはこう続けた。そんな事しても無駄だって。
社長はそんな所見てないって。
「仮に社長が気づいてたり、さとるさんが職務上問題が有ると判断して社長に
報告したとして、社長がハナの事知ってもあの人はハナに対して対応替えたり
なんかしないよ、怒られっ時は怒られるマジ凹むくらいな。気を付けろよ」
「怒る必要があると感じた時は心に傷負うんじゃないかってぐらい叱られる」
「なんでか理解るかハナ」
「スン・・・わかんない」
「この先俺らがそれ以上のミスしないように教えてくれてんのさ」
「ボッコボコに凹まされた後によく考えれば納得しちまう。いつもな」
「あの人はオレ等子供が独り立ちした時、致命傷に成らないように前もって
経験させてくれてんだ、だからハナ。オレ達子供はさそんな事気にせず
あの人の胸借りて、がむしゃらにやればいいんだ。一心不乱にさ」
「──────そんだけ。ってあれ!! ハナおま・・・泣い」
「ゴメンゴメン、ゴメンどした・・・」
「泣いてないっ! アッチ向けバカっ」
わたしの知らない“お父さん”って存在。
カスミもそう感じていて、わたしにも響く凄くいい言葉を云った
“育ての親”
きっと、昨日この車の中でさとるさんが楽しそうに四人目の彼に
思いを馳せながらに語ってた人生の話──────。
“彼が人生に迷うことがあったら、またきっと・・・”
その謎の彼も、人生に迷うたびに帰ってくるんだ
お父さんに助言を求めに
実家に・・・
本当のところは自分でもわからない。カウンセリングの先生にでも話して
聞かなきゃわからないけど、わたしきっとこのお店の人達、社長やさとるさん
そしてカスミに家族を感じて、お父さんなんて呼びたくもない“あの人”
の事を少しづつ上書きしてるんじゃないかって、そんな気がして・・・
ダッシュボードからのし付きタオルを引っ張り出してビリビリ袋を破いて
顔を覆った。そんなわたしを見てか、どういうつもりかなんて解んないけどっ
すぐ上のお兄ちゃんはわたしのポニーテール頭に手を置いて弾ませた
なによ、ばか! これじゃ完全に末妹じゃない・・・わたし
もうわたしの話を自分からお店の人にするのやめよ・・・
このままだと話した人全員に毎日泣かされる。
暫くして、順調に流れていた空港線が混み始め、やがて
うわずって溢れ出してたわたしの感情が落ち着いてきたのと同じように
ゆっくりその脈動がテールランプをキラキラ光らせながら停止した。
「あーマジかー、んだよGWの馬鹿野郎」
カスミが渋滞を避けるために選択したルートもやっぱり渋滞してた。
カスミが運転席の背もたれに伸びをするようにひっくり返って
「な、ハナ煙草すってい?」
「もう、いいよ。どうせダメって言っても吸うんでしょカスミ」
へへって笑いながら火を灯すカスミの横で、メッセアプリのグルチャから
通話をタップして社長に電話する。渋滞に捕まってしまいましたと伝えると
セリが長引きそうだからゆっくりおいでと云われてカスミに伝えた。
やっぱりカスミは小松菜・・・じゃない!ホウレンソウを
思いつかなかったみたいで、目を白黒させた挙げ句に丸くしていた。
昨日のさとるさんの行動をトレースしただけなんだけどね、ルーチンワーク
得意なのがこんな所で役に立つとはねあんがい・・・
悪い癖じゃないのかもしれない。
「さんきゅな。普段はさ、十時半には市場に着いてないとワンナウト」
「社長の機嫌が悪くなる。で、十二時ぐらいにセリが終わるんだけどさ」
「そのぐらいまでに荷集め半分終わってないとツーアウト。噴火寸前」
「最終的に、荷を全部積んで藤乃宮に二時頃までにたどり着けなきゃ」
「スリーアウト。社長大噴火でその日のオレ達終了。夜まで機嫌悪い」
「え゛・・・マジ?」
「マジマジ、だから鉢の市の日。火曜木曜土曜はみんなピリピリしてんだ」
「ハナ気づいてたか? 今朝のさとるさんの後頭部」
なんとなくは気付いていたけど、まさかあのさとるさんをしてそんな事ないと
思ってたんだけど・・・あのガッツリ付いてた寝癖って・・・
「あれ、社長のご機嫌メーターな。だから今朝言ったろ覚悟しろって」
うあー・・・マジかー
社長に叱られる時は叱ってもらいたいとは思ってるんだけど
やっぱり無いに越したこ事はないよ・・・
絶対ヤバイと思うしわたし・・・
「あー、ついでだからさっきの話の流れ、続きな」
そう云ってカスミは、これからわたし達が大噴火を避けるために一心不乱に
すべき事を語る・・・三時に本店着いて買い付けた荷を降ろしながら藤乃宮の
店先を飾りつける。
「キサラっちがめちゃ売ってたみたいで店先ガラガラだったろ?」
確かに彩りが少ないなーって。やっぱりキサちゃんすごいわ・・・
藤乃宮を飾りながら、良い品を西口分として選り分けて、一息ついたら今度は
荷を持って西口の店を飾り付けに行く。全部終わって藤乃宮に戻って大体
五時過ぎ。
社長、今度は金土に配達する生け花の“お稽古華”を絡げてストッカーに収める
ぜーんぶ終わるのが大体六時半位。
「二十歳そこいらのオレがもうクッタクタになるんだ」
「四十超えた社長はそりゃ辛いだろ、市場の日は連日四時起きだし」
「余裕もなくなるよな、機嫌悪くなるのも理解るけどさぁ──────」
そっか、後の予定がみっちり詰まってるから予定がずれてくると
社長の計画、ルーチンが思い通り行かなくなって機嫌悪くなるんだ。
なんかソレ・・・わたし理解るかも。
本来、昨日の切り花みたいに買付けた鉢物は市場の荷捌きの方が
一つ所に纏めて置いてくれるらしい。でも、全部の荷が揃うのは早くて
18時過ぎ。それを待ってたら社長の予定がぜーんぶ
5時間位後ろにずれ込む。
ヒヒヒと悪い微笑みを浮かべながら、カスミは社長大噴火を避ける秘策を
教えてくれた・・・それもかなり強引なやつ・・・
詳しくは市場について教えてくれるって言うけど
どうやら買い付けた品に花福の荷札が付く前にお花掻っ攫うっていう・・・
だ、大丈夫なのそれ・・・
聞かなきゃよかった、もうこの先不安しか無い・・・
ヌルヌル動く渋滞の中、今日も一筋縄には行かないんだなって
わたしは覚悟を決めた。ひぃー
「な、ハナ。おまえの頭ポンポンしてて気付いたんだけどさ、その髪留め」
「ポニーテールの──────それってもしかして・・・」
ギクっとした。高速道路上で車を降りそうなぐらい・・・
そうだよ、これカスミがわたしにくれた最初のプレゼントだよっ!
初日も昨日のスタカフェの時も全く気付いてる風じゃなかったから
すっかり安心してたのに・・・
“これ、わたしのお守りなんだよ。あなたがくれたのよカスミぃ”
だからぁずっと身に付けてるのカスミ・・・すきィ・・・なんて!!
ぜ、絶対に言ねー。つか言うか絶対ッ! なんで今気づくの!
なんで今なのよバカっ!!
「な、なにカスミ・・・」
「へへへ、オレとオソロじゃん。オレ今日はエメグリ」
「ハナも好きなのな、あのバンド」
「えっ、あ・・・うんそう!」
あっぶな・・・よかったよ愚弟、鈍感で・・・
「駅に向かう大きな交差点の角さ、あのジーンズショップで売ってんだ」
「三枚 五百円でさ、やっぱいいよな-。あのベーシストのさぁ──────」
「へ、へぇ~ そ、そうなんだね・・・えへへ」
あそこで買ったんだ・・・。帰りに寄ってこ、流石に替えがほしい
「んでさ、それ手作りだろ? オレ結構この柄のグッツ探しててさ」
「髪留めなんて見たことねーもん──────」
クぅぅ~コイツ妙な所に鋭い! さすがに幾つもウソを重ねるとバレそう・・・
「そ、そうだよ生地買ったのは100均の手芸コーナーだけどねー・・・」
うー・・・苦しィ!
「ハナさ・・・もしかして──────」
ヲイ、ヤメレ! アンタなに言う気なのよ──────ッ!
「──────おまえ手芸とか得意か!!」
「ならさ、お願いがあるんだけど。裂けちまったエプロン縫ってくんね?」
「この胸まで有るエプロンさ、さすがに暑くてさ。な、頼むッ!!」
うぅぅ、あっぶ・・・余計なことに気付かれる前に
サービスエース打ち込んどこ・・・
「イイよ・・・持ってきてよ縫ってあげるから」
「マジか! サンキューな! いやー自分で縫ったんだけど」
「縫い目が・・・見た目がさ-、糸なのかな──────」
そう云って、帰りにアパートに寄れって・・・
なんか──────、わたし・・・
また自爆した?
- flower -
そんな事がありながら、昨日と同じ東京花きへ到着・・・
さんざん車内でカスミに脅かされてドキドキするわたしを置いてけぼりにする
勢いで昨日と同じ3階の買参人席に向かってカスミは、お花いっぱいの場内を
ズンズン進んでいく・・・
周りの素敵なキラキラに見惚れてるヒマなんかない。車を降りてからカスミ
まるでヤバイスイッチでも入ったんじゃないかって位、マジモードで怖いくらい
例のスキップみたいな歩みじゃなく競歩みたいな早足で、油断したら絶対はぐれて
迷子になる・・・と思ったら、突然立ち止まるんだもん
おもいっきり背中に鼻ぶつかったじゃん!
「っと。あ、ごめ。真後ろに居たんだな・・・」
「急に止まんなばか! 鼻血出たらどうすんのよもう!」
「悪い、ハナ、ホラあそこ。社長達見えるだろ、まずは社長のとこ行くよ」
セリが行われている映画館みたいなひな壇のスクリーン側、買参人席の一階から
端の階段を3段飛ばしでドンドン登っていく、ちょ! カスミぃこっちから
入っちゃっていいの・・・って、囁いてオロオロしながら後を追う。
少し息を切らせながら一番上の段の買参人席にたどり着くと社長、わたし達が
見えてたんだね。カスミが社長に挨拶して、社長からなにかのカードを受け取って
「おう! 来たなハナ。まず華墨と伝票だしてきな」
「ハナ! こっちはやく、おいで!」
ま、待ってよ! まだ社長に挨拶も・・・
「いいよ、先に華墨のとこ行っといで」
そう声を掛けてくださるのでペコリとお辞儀してカスミの後を追う
3階入り口の脇にあるプリンター? の前でカスミがおいでおいでしてるのに
駆け寄ると、カスミが社長から受け取ったそのカードをプリンタに差し込んで
伝票を擦りだす。ジーコジーコとATMの通帳記帳のような音を立てて
べろーんって伝票が刷り上がった。3枚ぐらい・・・
あっ、昨日の朝サチ店長が値付けしてたあの伝票!
「チッ、やっぱ多いな今日、ハナ!ココ見てみ、この行な」
【 パンジー カワグチノウエン 60/5 クチ 24A 18-26 】
そう記されていた。
「これな、ウチの荷、花の品名と置き場の座標な」
「パンジーだから苗物、でオレ等が見るのはこの数字」
「60のあと。5個口ってあんだろ? 苗物は大体2枚一口だから」
「フラコン10枚がウチの取り分な、でその後ろが置き場の座標で──────」
待って待って! カスミ、そんなに捲し立てられてもわからないよ!
「華墨ィ!! カードよこせはやく!」
「やべっ、ハナこのカード社長のとこ持ってけ早くっ!!」
もう!訳解んないよっ!!
社長の方へ振り返ると、社長が立ち上がってコッチコッチと手を振ってる
カードを思わず両手でつまんでその元にむかって駆け出し、社長に手を伸ばすと
そのカードを奪い取るみたいに掻っ攫われて、ヒィって少し怯える
「ふぅーギリギリセーフ。やったなハナ、カーネ10ケースゲットだ!」
「ハナ、華墨が呼んでる。ハハハっ行っといで。がんばれ」
そう云われて振り向くと、今度はカスミがおいでおいでと手を振ってる・・・
も、もうなんなのこれっ・・・いきなり全力疾走なんだもん!!
ついてけないよっ! どうなっちゃうの今日のわたし・・・怖いよ
「ハナ、今日やっぱ多いわ、じっくり教えてる暇ないかも!」
「おれこのまま下降りっからさ、社長のとこ行って指示あおいでー!」
「あっ・・・ ねぇーっ! ちょーっとッ!! もうバカっばかぁー!! 」
カスミはさっき登ってきた階段を今度は4段飛びで駆け下りで行ってしまった
甲斐性なしっ、転んでしまえっ!! もう! すっかり大混乱だよわたし!
とりあえず御言付けどおり社長の元に
「ハナ! こっち隣おいで。腹減ってんだろそんな顔して、歌舞伎揚げあるぞ」
そう云ってにいーとクシャクシャな笑顔の社長の隣に腰を下ろした。
「あ、あらためて、おはようございます」
「さっそくカスミに置いてかれました・・・」
そう言った途端に社長の隣の人達も一緒にガッハッハと笑われて、すこし
頬が染まった。一体何が起こっているのやらだよ、もーっ!
「ハナ、自己紹介な、俺の隣二人。修二と浩司、俺の弟な」
「なに、ハナちゃんってのか、良い名もらったなァ花屋になる名前だ」
「ハナちゃん、アニキのとこキツかったらウチ来な、大歓迎」
圧倒されっぱなしだよ。浩一さんが花屋になる名前だって褒めてくれて・・・
えっ・・・お花屋さんになるの? わたし──────
「美住ハナです! よ、よろしくおねがいします!」
「で、一番向こうがウチの卒業生。鏑木、いま栃木で花屋してる」
「──────うい!」
大先輩はガリガリアイスの棒をピコピコ咥えてシュって手を上げた・・・
「ハナ、この列をな花福一族で占領するのが俺の夢。いいだろ?」
そう云われて横を見ると空席が10席。そう──────だったんだ
きっとさとるさんもここに座る予定で、だからゆうこさんとさとるさんを
社長は・・・
「アニキアニキ、Dレーンのカーネ、良いぞアレ・・・」
修二さんがそういった瞬間に社長が机の端末を操作して
「ハナ! 手貸せ、人差し指、はやくはやく!」
そう云われて人差し指を、ナイショみたいに顔の前に立てると手首を掴まれ
ドキっとする間もなく端末の赤いボタンにわたしの指がおかれて・・・
「うりゃぽち!! よーしこっちはやったぞ。お前等どうだ! 買えたか?」
「やったな! ハナ、一族で買い占めだ、お手柄よくやった!!」
えっ・・・いまので競り落としちゃったってこと?
「ハナ!やったぞ、十五個口、七十五鉢ハナちゃんお買い上げー!」
「責任持って全部売るんだぞハーナ?」
「えっ!! い、今のでそんなにいっぱい・・・ですか!」
大混乱でオロオロしてるとまた皆さんにガッハッハと笑われて・・・
「いえーい! 初競りおめでとハナちゃん!」
そう云ってわたしに握手を求める修二さんに、社長がその手をペシリと叩き
「ウチの大事な娘に、気安く触ろうとするなばかもん!」
「そういうのはセクハラだってな。な、ハナ」
「ちぇ、何だよ、そうなのハナちゃん?」
初対面の男性の手に怯えるヒマもなく社長が・・・
まるでわたしのトラウマを知ってるみたいに──────
そんな事がありつつ、やがて鏑木さんが席を立ち、社長と私に手を上げて去り
弟さん方も先に席を立ち、結局セリ終了までわたしは社長に指を貸し続け・・・
け、結局カーネーションをわたし・・・1000鉢ぐらい? 買ってしまった。
責任、取らされてしまうのかな・・・ぜんぶ期間中に売らなきゃなの?!
手を取られて、落札ボタンを押させられてた社長とわたしを弟さん達は
ニコニコしながらどこか聞き覚えのある名を口にしてた。
よくは聞こえなかったけど・・・
「ハナ、どうだ面白かったろ? これがセリ。3秒目を離したらもう買えない」
「そんな世界だ、買うだけならスタート直後に押せばいいたとえば二千円で」
「でも二千円で買ったものを二千五百円で売ったら、どうなるとおもうハナ」
「も、儲かりません?」
「そう、お前たちのお給料、ココまでの高速代、燃料代にメシ代」
「全部この指一本で稼ぎ出す」
「ハナ、その指で家族みんなの給料を稼ぎ出すんだぞ?」
「あーぁ、責任重大だ。頑張って売らなきゃなぁハハハ──────」
脅かされて自分の指を見つめるわたしの頭にまたポンと手を置いて
大きな手がポンポン跳ねてる・・・ この指でみんなを養うって事?
だから社長は昨日、赤バラのセリであんなに怖い顔で電光板を睨んでいたんだ
みんなを乗せたその指で・・・みんなを養うために。
「あの・・・社長。わたしだけこんな貴重な体験させていただいて・・・」
「キサちゃんやはるなちゃんにも・・・その、二人にもこういう体験は」
「あのなハナ、いいか?」
「そこで、脅かされた自分の心配より先に同期二人の名前を出せるんだハナは」
「そういう考えができる奴は少ない。女の子男の子、年齢関係なくな」
「だから、お前には経験させたかったんだな」
「さぁ、華墨呼び戻してメシ食いに行こ。ハナ今日はなに食いたい?」
「えっ・・・あ!・・・その、か、カレーライス・・・です」
そう言った大混乱中のわたしの手を引いて社長は笑いながら
場内の美味しいお蕎麦屋さんへ末妹を連れて行った──────
遅れて駆け付けた末弟と共に、今日もお昼をご馳走になった。
なんだか場内も母の日を控え大混乱だったようで、思ったように荷を集め
られなかったカスミはどこかビクビクしてたけど、社長はなんだか機嫌よく
お稽古華を作るために例の外車でそそくさと藤乃宮に帰ってしまった。
結局、わたしがこの指でポチポチした母の日用のカーネーションは
積みきれず、市場に置いて後で取りに来ることに・・・
汗だくになりながら末弟と末妹でお店用の鉢物を積んで、2店舗店を飾り
カーネーションを取りにまた市場に。積み下ろしだけで言うと・・・
えーっと何回だ?
初日に藤乃宮のお店に弟妹3人でひーひー言いながら降ろしたアレを
何日か分を半日でやったことになるのかな・・・ うー流石に腰痛ぁ
二人で鉢から溢れた砂埃だらけになりながらカーネーションを積み終えて
車に乗り込んだらもう6時半・・・今日はなんだか肉体的にボロボロ・・・
「はぁー終わったーって、まだコレ下ろして今度は店の前の積むんだけどな」
「ね、ねぇカスミ・・・あんた学校無い時は毎日コレやってるわけ?」
「体力バカの理由・・・理解った気がする・・・テニスの夏合宿よりツラぁ」
カスミがアパートまでエプロン取りに来いなんて言うから結局最後まで
お店を体験するハメに・・・ 明日はGW中日でわたしがバイト休みだからって
今日渡すこともないでしょうに、まったくもう・・・強引なんだから
「だから無理すんなって言ったじゃん、店で待ってりゃ良かったのに」
「もしかして・・・ハナ、おまえMなのか?」
「なにそれ! 5時上がりだからって下でみんな忙しそうにしてるのに」
「カスミ待つために、上でしれーっとなんてしてらんないでしょ・・・ばか!」
「次シフト重なる時にでも、持ってきてくれればよかったのにっエプロン!!」
「だってさー、すぐ使いたかったんだもんよー。熱中症になるよこれじゃ」
カスミのやつ、明日の夜からさっそく使いたいなんて言うから・・・
お渡しは明日の学校帰りに西口に預けとくからイイんだけどさ!
「ハナ、ダッシュボードのタオル取って、おまえも真っ黒だぞかーお」
「カスミも真っ黒・・・う、もう無いよタオル、朝にわたしが使ったので」
「最後だったんだ、それももうドロドロ・・・」
そう言うと、カスミが座席後ろからボディバックを取り出しそこから例の
バンダナを取り出してわたしの頭上にぽんと置いた。
「ん紫。新品だから安心しろよな。さ、顔洗って帰ろうぜ」
「あ・・・うん、ありがと」
そうしてわたし達末弟と末妹は東京の市場を後にしたのでした。
体力バカのカスミも流石に二回戦は堪えたようで、車のラジオを付けて海軍放送?
を聞きながら口数少なめ。わたしはこの後ろに満載されたキラキラを集めた右手の
人差し指を見つめてしまっていた・・・
「お前がもーうちっと手加減してポチってくれりゃなー。カーネ」
「そういや・・・へへ、俺の時はクリスマスだったな、三年前の」
「えっ・・・カスミも社長に指貸したの?」
「今日居たろ、鏑木さん。あの人が今日のオレ、で・・・オレがハナの立場な」
そっか、カスミも私みたいな時期があったんだ・・・ってそりゃそっか。
ゆうこさんが云ってたもんね、“最初はね、誰も出来ない。大丈夫よ”って
「ねぇカスミもさ、さとるさんから経営者目線って話聞いた?」
「それくらいの・・・駆け出しの時にさ」
何となくそうなのかなって、気になって聞いてみた。するとやっぱり・・・
カスミの場合はゆうこさんから聞いたんだって。ふふっ、まったく──────
あの姫と王子ってば
「うーっ! はぁー。ハナ疲れたろ? 寝てていいよまた混み始めたから」
「着いたら起こすし・・・」
「うん、ありがとカスミ・・・」
このわたしの人差し指、社長の人差し指、さとるさんが教えてくれた経営者
としての責任。そういえば社長の弟さん、浩一さんがわたしのハナって名前。
花屋になる名前だって・・・、もしかしたら社長は末弟と末妹のわたし達に
経営者になるための経験をくれたんじゃないかなって・・・
なんかさ、そんな事少し思った。
ママが、熱出しても机に齧りついて手を鉛筆で真っ黒にしながら一日中絵を
描いてるのって、今日わたしがこの指で買い取ったキラキラと同じ“責任”なの
かもって、ママの事知ってるつもりだったのに、今日はじめて母親としてのママが
わかった気がする。
わたしが進学を辞めて就職する話をした時ママに本気で叱られた。
朝、カスミが教えてくれた社長の話。“子供はそんな事考えずに親の胸借りて”
“がむしゃらにやればいい。一心不乱に”って話。こうして考えればさ──────
わたし今なら・・・怒ったママの気持ちが・・・理解でき・・・
- flower -
「・・・ナ。ハナ──────」
男の子みたいなハスキーで素敵なきらきら声がわたしを呼んでる・・・
「あ・・・れ、キサちゃん?」
「ハナ、オツな。大変だったね上行って少し休みな。後はあーし等でやっとく」
「キサちゃん5時で上がりだったんじゃ・・・」
「ハナが踏ん張ってんのにか? あたしだって負けないよーコノー」
「そ・れ・に・。さとるさんと長く一緒に居られるしなっ!」
そう云って、瞳から☆が飛び出す、きゃぴんウインク・・・
もう・・・ゴメンねなんか付き合わせちゃって。
キサちゃんはカスミと一緒にお店前でわたしと交代にトラックに乗り込んで
満載のキラキラ。カーネーションの鉢植えを下ろすために倉庫に向かった。
ど・・・何処にしまうんだろあの真っ赤な倉庫の──────
もしかしたらこれから倉庫で壮絶な量の荷でパズルが繰り広げられるのかも
なんて、恐怖を感じながらお店に入った・・・
「ハナちゃん、お疲れ様。上でコーヒーでも飲んでて華墨帰ってきたら」
「僕らでお店閉めちゃうから待っててね。眠かったら寝ててもいいからね」
そう言葉を掛けてくれた紳士な王子、さとるさんにペコリとお辞儀して
二階に上がる。えっ、あれ・・・社長も残ってたの?!
連日朝4時起きだったんじゃ・・・
社長がパソコンの前に座って、見覚えのある写真になにかしてる・・・え?
「おう、おかえりハナ。わりぃなすっかり残業させちまって」
「しゃ・・・社長っ! その写真・・・なにしてるんディすかー!!」
さとるさんが昨日隠し撮りして、数時間後にはお店の連絡用グルチャで
全従業員に共有されてしまった、あの恥ずいわたしの写真になんか
加工して・・・
ぽ、ポスターにしようとしてるーっ!!
「な、ハナこれいいだろ、素敵だ」
「よ、よ、よくないです!! もう・・・ダメーっ!」
モデル料弾むって云われたけどそういう事じゃないですってばっ!!
これ、カスミの事考えてた時の一番恥ずいのなんですってゔぁ!!
「ハナ、キミのこの顔いいすごくいいぞ、キラキラしてて素敵だ」
「これ、西口に張り出したら母の日もきっとウレウレだ!」
「なぁハーナ。頼むからさぁ使わせてくれよー」
「だ、ダメっ!!」
結局、キサちゃん達が倉庫に荷をおろしてお店を締めるまで
社長の情熱的な説得が続き・・・お店の閉店時間を30分だけオーバー
してわたし達の“取り敢えず三日踏ん張れ!”は終了したけど!!
「おっつでーす。あ゛ッ、しゃっちょ! ハナのポスターそれめっちゃイイ!」
「ふふふ、大収穫でしたね僕」
「フフフじゃないよっ! ばかっ!!」
「ふぅおっつー・・・お、なにみんなで観てんすか?!」
「ぎゃーーーーッ!! カスミ観んなばかっ、あっち向けッ ヌオオルァ!!」
後ろから飛びついてカスミの顔を両手で挟んで全力でアッチ向かせようと
してんのにアンタ!なにこの首筋少年誌の主人公かっ!
見んなあぁ!!
結局・・・みんなの説得に絆されかけたまま、社長の車で西口に向かい
お店の皆さんで取り敢えずお疲れの食事を御馳走になる。
増援の集中砲火により、わたしのプライバシーはあっけなく陥落。
ハナポスターが、花福公式化した・・・
「キサラ、ハルナそしてハナ。“取り敢えず踏ん張れ”完走おめでとう」
「三日保った奴は一週間、一週間保ったら二週間は余裕だ」
「母の日のゴールまで頑張ってくれな。じゃ──────」
【 カンパ~イ! 】
そんなみんなの掛け声に末妹三人は、顔を見合わせて喜んだ・・・
結局、その場でお酒を嗜んだのは社長一人だけだった。
けれど、“大人の男の人が煙草とお酒”って謂うわたしにとってトラウマ発動の
条件が全て揃っていたのに、やっぱり怖さや気持ち悪さはなく・・・
「・・・ん? どしたハナ」
「へっへへ、ハナに見つめられちゃったよ、ゆうこおれ照れちゃうなーぁ」
「はいはい、社長もう飲みすぎですよ──────」
そうして、自宅まで一番遠いユキさんが席を立つタイミングでお食事会は
お開きになり。さとるさんが運転する社長の外車でカスミと二人倉庫まで送って
貰いもらって激動の三日感が幕を閉じる・・・ハズが
はぁ、やっぱりこれか・・・ 誰かの花柄ヘルメット。
「ハナさ、バイク苦手だろ? 背中でなんかそう感じんだよな」
「けっこう必死に抱きつくし。オレの家までは五分っくらいだからさ」
「チョイ我慢してな」
「ぅるさい・・・ばか」
はーぁ? わたしが苦手なのは果たしてバイクなのかなぁ・・・
ねぇカスミくーん?
砂ホコリと汗と煙草の香りがする、このムカつくほど大きな背中に噛み付いて
やろうかしらなんて思っていると、あによ。チョット新し目のアパートの前に
たどり着く。カスミのくせに生意気、チョットいいじゃん此処・・・キレイだし
「つーいた。暗いし寄ってく? インスタントしか無いけど」
「ばっ! バカ!! なに考えてるのよこんな時間にっ・・・」
「・・・あ。悪い、そんなつもり──────まってて、エプロンもってくる」
もー! これを素でやってるから尚の事タチ悪いのよカスミ、アンタって。
それともほんとに明日太達みたいにクラスの男子共と同じなのかしらね
カスミの脳みそっ!
「わるいわるい、これなんだけどさ・・・あ──────」
「スン・・・・うーん、ちとアレか?」
嗅ぐなっ!
アレってなんだ! なんかキッたないなぁ・・・
「ごめん、洗濯して渡せればよかったな──────、いい?」
「もう! いいよ洗っておくからっ。で、何処どういうふうにして欲しいの?」
受け取ったばっちい腰巻きエプロンは、そこそこ丈がある形で
カスミ達外回り班がトラックの荷台に飛び乗る時に邪魔にならないように
真ん中縦にスリットが深めに入っていて、そこが裂けてしまってた。
裏打ちしてダブルステッチで強度を上げれば・・・大丈夫かな?
「ど、直せそ?」
「うーん。やってみるけど、同じ色の布持ってないから」
「仕上がりは文句言わないでよ・・・カスミ」
なーに? 嬉しそうに笑っちゃってさ・・・。
でも確かに今日みたいな重労働をこれからの時期は暑いよね
胸まで有るエプロンだと男の子であの仕事・・・。
実際わたしも暑かったし。
エプロンを受け取って、帰宅。
──────するのにやっぱり誰かのヘルメット・・・
初日の夜みたいにやっぱり自宅マンションの前で「じゃ!」ってそっけなく
カスミのバイクの音と排気ガスの香りだけ残して、アっちゅうまに消えてった
わたしさ、あんたのお母さんじゃないんだけどっ!
年下の娘に洗濯までさせるかオイっ末弟っ!
もう・・・しかたのない人。
翌日──────
結局、カスミのエプロンと紫色のバンダナをミシンテーブルに広げたまま
そこに突っ伏して寝てしまった。なんか夢見てた気がするけどよく覚えてない
でも、カスミが出てきた気がする。きっとこの使い込んだエプロンのせいだよね
このばっちいのの上で寝ちゃったのか。うわぁ・・・
学校行く前にお風呂はいろ
準備をしていつもの姿見の前に立つ。昨日まではお花屋さんのハナ。
今日は見慣れた“いつもの”ハナ。ポケットからスマホを取り出して連絡用の
グルチャに共有された写真を見る。お店のみんなが大絶賛してくれたこの写真。
映っているのって、どっちも同じわたし・・・
「──────なんだよね」
視線を姿見の中の自分に移し、その瞳を覗き込む
「ふふっ、自分ではよくわからないや・・・」
スマホの壁紙をただなんとなくK選手から、マダムレッドを抱えた
お花屋さんの少女の写真に差し替える。
取り敢えず踏ん張ってみた3日間。
キツかったし、社会勉強なんて言葉で謂あらわせないくらい
沢山のキラキラを集めて、いっぱい泣いて・・・ 怒って、死にかけて。
この手首の怪我に取り上げられちゃったテニスが、今はなんか子供だった
自分の象徴だった気がして少しくすぐったい。
「わたし──────少しはおとなになったのかな?」
なんて、言ってみて少し天狗になってる気がして窓際のバーベナみたいな
薄桃色に頬が染まった・・・
そんな顔を見て
「んーよし! 今日もカワイイ。いつもよりっ!」
なんかわかんない決意をかため?
部屋を出る。人気のないリビングにスクランブルエッグとソーセージの香り
そんなリビングを抜け、玄関に一番近い部屋のドアをノックしないでこっそり
ママの仕事部屋に入る。
4Bの鉛筆を握りしめて机に突っ伏して寝てるママ。
鉛筆で真っ黒なそのキラキラなほっぺをつついてしゃがみこんで隠れる
「んぁ? ハナ・・・アリ? 気のせい──────」
「ふふっ、ママおはよ!」
「テーブルにさ、朝ごはんあるから冷めないうちに食べてね」
「あら、どういう風の吹き回しかしら、ありがとねハナ」
そういうママに手を振っていつもの時間に家を出る。
昨日お店のみんなを養うためにお手伝いした人差し指にママのキラキラ。
鉛筆のススが薄っすら付いて朝日に反射してキラキラ輝いてる。
なんかキレイでその人差し指をもっと輝けと空に向かって伸ばすと
駅に向かう他校の女生徒にクスクス笑われて慌てて手を引っ込めた。
最寄り駅から私鉄の女性専用車両に乗り、西口の前を通って地下鉄駅へ
スマホを改札にかざして、いつもの時間の電車に乗り込む。見知った顔
明日太の背をいつものように叩くためにいつもの場所・・・えっ
“明日太がっ・・・居ない”
そう認識した途端にキラキラだった世界が暗転して灰色に・・・
明日太? ねぇどこにいるのっ? もしかしてわたし乗る車両間違えた?
そう思って車両を見回すと、知らない大人の男の人達がいっぱいで・・・
「うッ・・・」
途端に吐き気が・・・
うしろの灰色の背広の人──────
クタクタの灰色の背広で帰ってきて、お夕飯の献立が気に入らないって
腕で一払いして全部薙ぎ払って割れた食器の音と怒号が頭の中で何度も何度も
リフレインする・・・
恐ろしくて隣の人に目を向けると、白いイヤホンのコード──────
部屋の隅に膝を抱えてうずくまる私を、かばうように抱いてくれたママ
なにかの衝撃を受けて振動するママの上から、白いイヤホンをして見下ろす
あの人の目・・・
前の座席に座った人が
様子のオカシイわたしを、かばんを抱えてチラチラ見てる──────
立ち尽くすわたしの真っ赤なランドセルを抱えてしゃがみこみ
上目遣いでニヤつくあの人の気味悪い程白い歯をした口元・・・
“怖いッ・・・”
“か、カスミっ・・・助け・・・て”
慌てて右手首を掴むけど・・・きのうの泥汚れで今日はあのお守りのシュシュを
付けていないことに改めて気づく・・・
うっ、く・・・苦しい・・・
もう何年も平気だったのに・・・
「おはよーハナちゃん、あれ? アスタ君は、ハナちゃんッ!・・・大丈夫!!」
「ハッ・・・ハツ・・・あ、あみ・・・くる・・・苦し・・・」
結局・・・治ってなんて無かったんだ。
あみに連れられて一緒に次の駅で降りて、通学時間をだいぶ過ぎてから学校へ
あみと二人で大遅刻した末に、わたしは保健室へ直行。
午前中いっぱい使って、やっと過呼吸が落ち着いた。
「ハナちゃーん、失礼しまーす。 どお、落ち着いた?」
「──────うん、ごめんねあみ、一緒に遅刻させちゃった・・・」
「いいよー。さ、お昼食べよ」
そうして保健室のベッドの上でお昼ご飯をあみと二人で食べた
「ハナちゃん、アスタ君。教室に居たよ・・・」
「──────うん」
「私、ゴメンねアスタ君に言っちゃった。ハナちゃん大変なことになったって」
「保健室に居るって! そしたらさ青い顔して、“知らね-”っていうんだヨ」
「引っ叩いてやろうかって思っちゃった・・・」
あみ、ごめん。気を使わせちゃったね・・・
元はと言えばわたしがイケなかったんだと思う。テニスを辞める前に一度
明日太に相談すべきだったんだ・・・ なのに幼馴染だからって慢心して
わたし、今なら理解るんだ、明日太の気持ち・・・
あの時は自分のことだけ考えるのが精一杯で──────
「失礼しま・・・チッ」
「ちょっと! 待ちなさいよアスタ君ッ!!」
「あみっ! お願いヤメて・・・ごめん」
「で、でもハナちゃん・・・」
「入るよ美住・・・」
明日太は自分が寝坊したり、用事があって遅れるときなんかは今日みたいに
ならないように必ずメッセをくれてた。それが・・・・
きっと、そういうことなんだと思う。相談もなしにテニスを辞めて退部まで
してしまった私に怒ってるんだって・・・
「美住、ごめん・・・こんなことになるなんて俺」
「なによ今さらっ! ハナちゃん大変だったんだからね!!」
「ごめん・・・あみ、暫く二人にして。ね、お願い・・・」
「──────ハナちゃん、帰る時にメッセ入れてねお家まで送るから、ね」
「アスタくんのバカ!!」
そのまま明日太はわたしのベッド横の椅子に座って俯いて
暫く黙って下を向いてた。
「美住ッ!──────」
「明日太、ゴメンね。相談もしないで勝手にテニスやめちゃって」
「わたしね、明日太にずっと甘えてたんだと思う。居てくれて当然なんだって」
「それをさ、そうじゃないんだよって教えてくれたんだよね?」
「くっ──────、何でオマエはさ!! そうやって──────」
「俺残してドンドン先に行っちまうんだよ・・・」
「ガキの頃から・・・ずっと一緒にいたってのにィ!!」
「──────おいてけぼりかよ」
わたし言葉もないよ明日太・・・、明日太にはたった一週間ぐらいの間に
わたしきっとすごく変わってしまったんだと思う。実際にこうしている今
時計を見たら・・・まだ12時半だよ。
わたし達の時間て、こんなにも穏やかに流れてる。それが当たり前で
ずっと続くって思ってた・・・
「──────おまえさ、何日か見ない間に変わったよ」
「おまえだけドンドン大人になって遠くに行っちゃう気がして・・・俺」
でも、将来・・・ううん、たった数年後にわたし達が居るべき社会っていう世界
大人の時間は残酷なぐらいあっという間に過ぎていく・・・
わたしはね、明日太。それをちょこっと味見してしまったの
でも、わたし本当は・・・変わってなんか──────
「昨日見ちゃったんだ、夜中にコンビに行く時にさ男と一緒に居るお前を」
「──────ッ、二人でさ! 仲良さそうに」
「ハナッ!! アレ誰?」
心臓が止まりそうになった。ずっと忘れてたけど明日太の家
あの近くだって。きのうエプロンを受け取りにカスミの家に行った
あの近所・・・
「──────バイト先の先輩」
「クっ──────、おまえさ好きなんだろあの人。見てりゃ理解るよ」
「ずっと!! ──────ずっと俺、お前の隣りにいたからな」
「理解るよ・・・」
「美住、ごめん俺もうお前のそばにいてやれない・・・そんだけ、言いに来た」
「待っ──────明日太ッ!!」
最悪だわたし・・・
こんなに近くでずっと一緒に居てくれた明日太の気持ちをほったらかして
でも明日太っ、わたしだって必死なんだよッ。
テニスに変わるキラキラを集めなきゃ
このヒビだらけの心を守れないのッ!!
お願いッ・・・わかってよぅ・・・
- flower -




