★7 穂崎花菜
よろしくお願いいたします。
今日も3話投稿します。
真吾が峰さんの方に行ってしまった・・・
真吾は幼なじみで、中学1年の時に好きだと言われたけど、反射的に断ってしまった。
恋愛に奥手だったことと、何より周りに人がいる通りで恥ずかしかったから・・・
小学校の頃は親友と言える間柄だったのに、それからは全く話すことがなくなった。
中学3年の時に同じクラスになった。
真吾は、小学校時代はクラスの中心人物で騒がしかったのに、誰とも話さないようになっていた。
その原因はたぶん、2年の時に嘘の告白を受けてしまったのをSNSに晒されたから。
その代わり、学年でぶっちぎり1番の成績となっていた。
同じ高校に通ったけれど、彼は理系、私は文系だったこともあって、
同じクラスになることはなく、やっぱり全く話すことはなかった。
彼は阪大に、私は神戸教育大学に進学した。
夏休みに、大学の仲の良いグループで北陸に旅行に行くことになった。
その二日目の朝、砂浜を訪れると、そこには侵入禁止のロープが張られていた。
「なんだよ、これ?」
「・・・おい、昨日、ここで10歳の女の子とその父親が沖に流されて行方不明だって!」
「なんでそんなことになるの?普通の砂浜じゃん?」
「・・・離岸流ってヤツで、沖に猛烈に流されたって。」
「怖っ!でもそんなの聞いたことないよ。」
「・・・海水浴場でもよくあるってさ。流れが速すぎて浜には戻れないって。」
「でも、そんなに見つからないものなのかな?」
「潮の流れは変わるし、風の影響もあるよね。
流されたらパニックになるだろうし、1時間もこの日差しにやられたら、浮き輪を放しちゃうかも・・・」
「可哀想に・・・」
その女の子は私だ!
あの時、真吾が左に行けって言ってくれなければ、私も・・・
愕然とすると同時に、当時のことが明瞭に思い出された。
その日の夜、お父さん、お母さんと三人でお礼を言うため、真吾の家を訪問した。
真吾はニコニコしていて、真吾のお母さんはホントに無事でよかったねと優しく言ってくれた。
お父さんとお母さんは、「真吾のお陰で無事だった。ありがとう。」と繰り返し頭を下げていた。
その帰り、お父さんから話しかけられた。
「なあ、花菜。もし真吾くんが学校で困っていたら、助けてあげて欲しい。
出来るかな?」
「モチロンだよ、親友だもん!そういえば、小さい頃結婚の約束もしたよ!」
「ははは。まあ、結婚は大人になってからだな。
だけど、中学校の3年間は一緒だからね。
あの子なら大丈夫だとおもうけど、もしもの時は頼むよ。
学校の外はお父さんたちが頑張るからね。」
・・・私は最低だ。
命を助けてくれた恩人である親友が、性格が180度変わってしまったのに、
「可哀想に・・・」としか思わず、助けることも理由を知ろうとすることもなかった。
絶対に困っていたのに!悲しんでいたのに!
お父さんのお願いもすぐに忘れて・・・
真吾に会いたい!会って謝りたい!
でも、幼なじみだけど、もう家を訪問する勇気はなかった。
ある日の夕方、ワンちゃんの散歩をしている真吾のお母さんと出会った。
「・・・真吾はね、大学の近くにアパートを借りていて、こっちには全く帰ってきてないの。
大学の授業と、ドローン研究会っていうサークルに夢中みたいよ。」
お正月にも、成人の日にも帰って来なかった。
でも、電話番号を訊いたり、住所を訊くことも出来なかった。
去年、中学3年の時に同じクラスだった射場隼人と清重凜々花の結婚式があった。
私は新婦の友人として出席したけど、真吾も新郎側で出席していた。
しかも友人代表としてスピーチしていた。
「私は、小学校の頃から隼人くんは親友であり、ライバルでした。
中学2年のときですが、隼人くんが凜々花さんに恋をしました。
隼人くんは凜々花さんにカッコいいところを見せたい。
だから文化祭で歌うぞ、一緒に!って無理矢理歌わされました。
つまり、私のお陰で凜々花さんと付き合えるようになったわけです。
その直後、私はトラブルに巻き込まれました。
私は悲しく、情けなく、誰にも相談できず、絶望感に襲われていました。
隼人くんはそのことに気づいて、私のために怒り、一緒に悲しみ、私を励ましてくれました。
そして、隼人くんと凜々花さんはこのトラブルを穏便に片付けてくれました。
今も、本当に感謝しております。
皆さん、隼人くんは情に厚く、困難を恐れず、相手を立てることが出来る人です。
もし、家を新築したい、改築したい、修繕したいということがありましたら、
ぜひ隼人くんに相談してください。
一所懸命に貴方の最善を探してくれます。
もし、破談になっても大丈夫です。彼は貴方と繋がりを持てたことを喜び、
一緒に考えたことが財産だと感じる人ですから。
どうか、隼人くん、凜々花さん、射場工務店をよろしくお願いします。」
スピーチが終わってしばらくすると、もう帰ってしまっていた。
また、話すことが出来なかった・・・
やっぱり、隼人くんは助けてあげたんだ・・・
それに比べて私は・・・
そして今日。
1時間間違えて早く来ちゃったら、真吾が一人でいた!
話し始めると懐かしくって、楽しくって、話そうと決めていたことをすっかり忘れていた。
隼人くんと凜々花がやって来ると、真吾は二人と気安く話し始めた。
・・・凜々花とは遠慮なしに話すんだね。
みんなが集まってくると凜々花が席を移ろうと誘って来た。
もっと、真吾と話したかった。だけど、それは二人っきりで・・・
・・・二次会のカラオケに行くと、真吾は遅れてやってきた。
手を挙げた私を見たけれど、峰さんの隣に座って親密に話し始めた!
峰さんはあの嘘告をしたんじゃないの?
呆然としていたら、歌い終わった波多野くんが隣に座った。
「なあ、俺の歌どうだった?カッコ良かっただろ?」
「・・・そうね。」
・・・
真吾は1曲歌い終わると、帰る準備を始めた。
そして峰さんと一緒にこの部屋を出て行った。
いやだ!真吾が峰さんと付き合ってもいい。
だけど、もう少し、もう少しでいいから、二人で話がしたい!
「なあ、俺といいところ行こうぜ。
メチャクチャ気持ちよくなるいいモノがあるんだ・・・」
波多野くんが囁いてきた!気持ち悪い!
「帰る!」
私はこの部屋を飛び出した。
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