赤ちゃんみたいに
わかっていたのに、
電話をしていた。
無理なことは
わかっていたのに、
夜にしていた。
放り出されて、
一人になるのが
怖かった。
気が変になるのが
堪らなかった。
こんな時間に
かかってくるなんて
ないんだから、
無理なんだから、
何回も電話を見た。
ごめんね、
そう言うまでって、
いつかその日に
なるのかな。
そういう話で進むかな。
いつかその日、
話せなくなって、
聞こえなくなって、
何もなくなって、
そういう意味なのかな。
今更のように、
赤ちゃんの声が
この体に残っている。
どうにもならないのに
手を伸ばしている。
生まれて初めて、
どうにもならないのに
手を伸ばしている。
赤ちゃんみたいに、
手を伸ばしている。
伸ばしたままで
足が土に埋もれて、
毎日少しずつ、
土が上がってくる。
土になってゆく。
ぼくはぼくでいて、
ぼくじゃない。
ぼくはぼくじゃなくて、
ぼくを操る誰か。
知らない誰か。
ぼくはこのぼくを、
愛するしかない。
赤ちゃんの声が
柔らかく、柔らかく、
喉から染み出る。
夏の夜のつまらない、
嬉しくない思い出。
電話の形が変わっても、
あまり使わなくなっても、
やはり、染み出る。
夢にしていいのか、
不埒な夢でもいいのか。
わかっていても、
やめられなかった。
抱きしめられたくて。