ようこそ魔法屋
ここは魔法屋。街の暗い裏路地にひっそりと佇むお店だ。
チカチカと光る街路灯がなんとも不気味で、心做しか何処からか視線を感じる。
ここに好き好んで来るやつなんて居ないよなぁ、なんてぼんやり考えながら魔法屋で働く一人である少年は店の扉に手を伸ばした。
建付けは悪い。かなり悪い。今開けるだけでも数十秒奮闘した。
苦労の末扉を開けて、最初に拝んだ顔は玄関に立って頬を膨らませた一人の少女だった。
「…ずっと立ってたのかよ。」
「遅い。コンビニ行ってくるって言ってから何分経ったと思ってるのよ。もう夜遅いし、ちょっと心配したんだから。」
ぷりぷり怒りながら少女_水谷 茜はぶっきらぼうに部屋の扉を開けて戻って行った。
そんな態度に「ケッ」と言って少年は靴を脱いで茜が入っていった部屋へ向かった。
「あ、おかえりなさい彼方さん。」
と、少年_柏木 彼方に声をかけてきたのはソファに座り新聞を読んでいた男だった。
この男の容貌はかなり変わっていた。全身を丈の長い白いパーカーが覆い隠していて、顔は安っぽい猫型の仮面に黒ペンで適当に目と口を書いた物をつけていた。
果たしてそれで見えているのかと問いたいが、本人曰くバッチリ見えているらしい。
「リヅ。」
男の名前を呼ぶと、リヅは顔を向けて「なんでしょう」と言った。
「ほら持ってきてやったぞ。欲しがってた本。」
ずっしりとした重い参考書だ。これを歩いて持って帰った俺を誰か褒めて欲しい。
「わぁーありがとうございます!よく見つけましたね!凄く貴重な参考書なんですよ!」
嬉しそうに本の表紙を撫でるリヅと、小さな達成感に浸る俺に割って入ってきたのは仏教面でスマホをいじっていた茜だ。
「ちょっと!本屋さんに行ってたの!?コンビニって言ってたじゃない!だからこんなに遅かったのね…」
「ちげーよ図書館だよ。だ〜れも近寄んなさそーな難しい参考書だらけの棚からちょっと拝借したんだよ。誰かに読まれた方が本たちも幸せだろ?」
「はぁっ!?それって犯罪でしょーが!ばか、だから魔法警察官の野郎達から目ェ付けられんじゃない!」
そっぽ向いてまた「ケッ」と言うと、茜は更に怒り奮闘の様な顔をした。
「魔法が当たり前になってるこの現代社会で、犯罪犯すなんてバカみたいだわ。それも、違法能力者を捕まえてる魔法屋の一人が犯すなんてね。」
「魔法警察官が現れてから取り締まりが日に日に厳しくなっていくのに、魔法が使えるようになって前よりさらに日本は治安が悪くなっていくのが皮肉ですよねぇ」
パラパラと本をめくりながらリヅが言うと、
「どの口、この共犯者!」と茜が睨んだ。
魔法屋_それは、魔法を乱用して暴れる違法能力者達を捕まえて更生させている変わり者の集団。
魔法警察官のような、国から正式に認められている訳では無い。しかし、彼らは今日も、明日も密かに活動する。
その目的は_彼らしか知る由もない。
ただ、変わり者三人組は確かに変わり者なのは明らかである。