短めプロローグ 〜突然の解雇〜
俺の一日が始まるのは早朝の5時。それから身支度をしてまだ着慣れていないスーツ姿になった後、2時間後には仕事が待っているというのにゲームをする。所謂、「朝活」って言うやつだ。
学生の頃から大のゲーム好きだった俺は社会人になった今でもそれは変わらず、むしろ拗らせているぐらいである。
学生の頃は恥ずかしがって「ゲームが趣味」と気の許した友達しか話せなかったのに今では取引先で初めて会った人にでも自信を持って言える程度だ。
それから朝活を終えた俺は、自分の自動車で会社に向かう。この田舎では自動車は生活必需品と言っても過言では無い。バスは1時間に1本、地下鉄は勿論通っていないし、なんなら電車もないに等しいぐらいだ。
しばらくすると緑の中に場違いなビルが見えてくる。小柳商事と言う結構大きな企業で、嬉しい事にそこで俺は働かせてもらっている。
タイムカードを押し、「ここから12時間働くんだよな」と独り言を呟く。自分で言うのも難だが俺は社畜だ。
いつも通り業務を進めているとズカズカと俺に近寄ってくる人物が居る。課長の太田さんだ。
俺がこの会社で働く上で唯一の嫌な点と言っていいほど横暴で傲慢な人物だ。
「全く、砂原君はこんな事にもそんな時間がかかるのかね。これだから根っからの田舎人は...」
「...それはすいませんでした。お言葉ですが、課長はもう少し発言に気をつけた方が良いですよ。俺だから気にしないだけでー」
「ああ、怖い怖い。やっぱり田舎人は違うなぁ、口答えの仕方が」
そう俺の発言を遮って課長は俺のことを嘲笑う。その表情は心底楽しそうだ。
今みたいに太田さんはこの田舎で生まれ育った根っからの田舎人は嫌いみたいだ。
太田さんの性格上、それを止める事はできないと思ったのでとっくに諦めている。
それでも言われっぱなしだともっと酷くなると思ったのでそれからは少し反論をするようにしている。まぁ、最近はそれすらも聞いてもらえないのだが。
「そんな君には、これだ!」
先程よりも良い表情で手渡された書類は解雇関係終了の合意書だった。
「...これは本来なら面談をした後に渡す資料ではありませんか」
「心配はいらないさ。お前の評価は最低にして本社に送っていたからな。今すぐにでも退職できるようにしてもらった」
「...それは流石に酷くないですか」
「ええ?『最低』評価の君に高い給料を払ってるだけありがたいと思った方がいいよ」
最低にしたのはお前だろうと言えるはずがなく、そのまま流されて解雇されてしまった。
貯金はしていたのでフリーターでも生きていけるだろう。不幸中の幸いか近所のコンビニは人手不足で高時給だった。