表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/13

07 興味深い話に男は笑う

 ボディア公国との戦から二日後。

 帝国軍司令部の一室、その広い室内にオラーゼはいた。


「そうか、生き延びたか」

「はい」


 豪奢な机の向こう。

 椅子に腰を下ろした壮年の男が、姿勢を正して立つオラーゼの言葉を聞き思案に耽ている。


「報告ご苦労! 順調なようで何よりだ、オラーゼ」

「はっ! ありがとうございます」


 しばしの後、顔を上げたその銀髪の男にオラーゼは敬礼をして応えた。


 そこで空気は一変し、少しだけ緩いものへと変化した。

 それは軍人同士の職務上の会話を終え、個人間での会話に移行したことを意味している。


「しかしそうだな……。そのレイとやら、お前が見てやってくれないか?」

「アタシが、ですか?」

「ああ。上手く導かねば『中身』が空洞になりかねん。そんなガラクタになっては損をするのは我々だ」

「なるほど」


 男──ゲルト帝国軍『大将』、ノーマン・グレイラットは報告に聞いた戦場でのレイの活躍を思い浮かべる。


(多数の敵を倒すのは想定内だ。だがしかし、まさか()()()()を撃破するとはな。これは思ったよりも期待できそうだ)


 殊勲上位に入るであろうレイの活躍に、期待を込め、さらにこれからのことを考え提案する。

 オラーゼはそのことに内心驚きながらも首肯した。


「わかりました。では、すぐにでも行動を」

「よろしく頼む。当然だが自分のことも疎かにするなよ? 『発展持ち』は恐ろしい速度で成長していくからな。気を抜いていれば数年でお前もその少年に追いつかれるだろう」

「ええ、それはもちろん。まだまだ強くならないと、死ぬことさえままなりませんから」

「はっ、お前も言うようになったな」


 強くなることで死に場所を選べるようになる。

 このままでは果てしなく生き残り続けてしまうかもしれない。

 そんなオラーゼの戯言に、ノーマンは鼻を鳴らした。


 どんな時でも厳しい顔を崩さないノーマンが、わずかに顔を綻ばせる。

 しかしそれはほんの一瞬のことだった。


「で、体の調子は」

「ここ最近は特に安定しています。本当に、何の心配もいらないほど」

「そうか……。もしも何か問題があれば遠慮なく私に言ってくれ。家の者たちが手を貸すことだってできるんだからな」


 気遣うようなその問いに、オラーゼは心配は無用と言葉を連ねた。

 それからノーマンの後ろめたさを孕んだ声かけに深く一礼する。


「ありがとうございます」


 心からの感謝の言葉。

 重くなった空気替えるように、オラーゼは口を開く。


「それにしても先の戦争……勝利に終わったとはいえ、公国には本当に手を焼かされますね。こうも頻繁に余計な手出しをしてくるようになるとは……」

「軍事力では我が国が優っているとはいえ、公国と王国の同盟は厄介だな」


 ノーマンの顔に影がさす。


「可能な限り早急に、『発展』と法国についての調査を進めたいが……諸国の動きに国内情勢、なかなか私の手も空かない。もうじきお前にはまた遠方に行ってもらうことになるだろう。何やら『東』がきな臭くてな」

「東、ですか。はあ……本当に厄介なことばかりですね」


 すぐに何を指しているのか理解したオラーゼは、困ったとため息をつき肩を落とす。


「その時は少年と、ついでにあの子も連れて行ってくれ。彼らにとって良い経験になるはずだ」

「はい」

「ああそれと、少年らの褒賞はこれで。武器を買うよう入れ知恵を。あの男の店を勧めておけ」

「あの店を……ですか」

「ああ。私が以前使っていたアレを買わせてやろう」

「よろしいのですか!? アレはあなたの……。それに、レイのやつに使いこなせるでしょうか」

「きっとその器に違いない。私もかつて人から譲られた物だ。タダで渡す気にはなれないが、金を払うと言うならやらないこともない。そう思って既にあそこに預けてある」

「……わかりました。では、そういうことで」


 オラーゼは頷き、それからレイの姿を思い浮かべた。


「入隊して監視をつける必要もなくなりましたし、アイツにはどんどん力をつけて貰わないとなりませんからね」

「そうだな。だからこそ良き仲間(ライバル)と良き指導者(コーチ)が必要だ」


 オラーゼの顔を見るノーマンは、念を押すように丁寧に言葉を発する。


「頼んだぞ、オラーゼ」


 再び凛とした表情に戻ったオラーゼは、敬礼をした。


「はっ! ご期待に添えるよう、全力を尽くします──()()!」




 オラーゼが退室した後、部屋に一人残った男は未来を予想し呟いた。


「──興味深い(おもしろい)


 大きく時代が動き出すかもしれない。

 想像以上の興奮に、思いの外声が出てしまう。

 ノーマンは静かに苦笑した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ