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浮世徒然  作者: 鱸セイゴ
1/1

門出

私は今年、元服する。


元服とは昨今の成人と同義だが、武士として一人前の男として認められる、いわゆる成人式のようなものだ。


時代は将軍家が納め初めて15年がたち、徐々に戦乱色濃い時代も薄れて暫く経つ。

とここまでは、然も私が名家の武士が如く、仰々しく元服などと切り出したものだが、私は陸奥の田舎の半農半士の武士とも言い難い生まれである。江戸や大阪などの都では徐々に兵農分離が推し進められて、半農半士は明確に農民か武士かに分かれていたが、田舎では食い扶持を確保するために武士という身分ながら田畑を耕す者が多くいた。


戦乱の世も終わり暫く経つ故に、父も母も、特段武士の何たるかを語るような人ではなく、雪深くなる冬を越えるためせっせと仕事をするような人で、両親のどちらかからも武士の何たるかなど聞いたことがない。父母の口癖は


「半農半士は武士ではなく、農民ぞ」


である。


そんな家なのに何故元服の儀などを行っているのか、それは祖父母の影響が強かった。既に還暦を過ぎた祖父母は、未だに藩主家に仕えたことを誇りに思っており、私にも武士の誇りを持って欲しいとの意向で行う運びとなった。


晴天麗らかな皐月の日に私は、武士となった。


そんな私だが、このままでは郷にいる根を生やす人生は享受しがたく、いつか華やかな江戸や大阪といった思いを馳せていた。


「これ、泰吉。何を呆けているのです。」


祖母の厳しい声が私の耳をついた。


「今日は晴れの日ですぞ。あなたの兄上同様これからあなたも武士になるのですぞ。」


祖母は、何かと小言を私にいうのだが、私のことを思ってのことと思うと渋々返事をする。


「婆様、分かっております。しかしながら若葉薫る風が気持ちがよく…」


と言い終わる前に、


「母上、晴れの日ですので」


と父上が祖母を諫める。


祖母は不満げだが、私のことを思ってくれてのことと分かっているので、私も苦笑しつつ眉を締めた。


「明日からは、大殿様の江戸へ参る列へ貴方も加わるのだ。しっかりと努めて参りなさい。」


祖父が私の顔を見据えて、言うものだから、思わず


「はい、一所懸命に努めて参ります。」


と柄にもない返事をしてしまった。


「泰吉も、明日より大殿様の立派な家臣だな。」


兄上が笑顔を向けてくるので私も笑った。

私は祖父の計らいで、祖父の兄で高野家の養子となり、一応城勤めの士分になったのだ。




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