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第壱話! 起きたら巨大人口生命体ホムンクルス!

 私は正義感の強い女子高生、田中麻友子。今日も困っている人を助けます。おや、何やら、あのビルの辺りが騒がしいぞ。人だかりができているところに行ってみよう。

「おーい、危ないから降りてきたまえ!」

「あなたはまだ若いんだから、死んじゃ駄目!」

 皆、そんなことを言っている。ビルの屋上を見上げると女子高生が柵を乗り越えて今にも飛び降りようとしている。

「あんたたちに何がわかるのさ。私は死んでやるんだからね。こんな腐った世界には生きている価値なんてないの。ちょっと私が皆よりも可愛く生まれたからって私を虐めて! それでいて全然、私を虐めている自覚なんてない。今、私に死ぬな、なんて言ってる人たちもどうせ、心の中では私の可愛さを妬んでいるんだ。偽善者! 私は別に可愛く生まれたくなんかなかった。だから、醜く死んでやるんだ!」

 女子高生はそう言って掴んでいる柵を離して地面に飛び降りた。私は落ちる女子高生を受け止めようと前に進み出た。私の強い正義感がそうさせたのだ。


 受け止められるはずなどないのだ。女子高生は私の頭上に降ってきた。私の頭と女子高生の頭がぶつかって私は意識を失った。


 ――私は目覚めた。生きていた。私とぶつかった女子高生はどこへ行ったのだろう? 無事だろうか。私が命がけで守った女子高生だ。死んでいたら許せない。と、言うよりここはどこだろう。身体が重くて動かない。天井がやたらと低い。足元には戦車のおもちゃがある。人間のおもちゃも……。

 違う。おもちゃじゃない。生きて、動いている。私は巨人になったのか? これは夢なのか? 話し声が聞こえる。

「松本大将、人口生命体ホムンクルスの脳波をご覧ください」

「どうした、山本博士」

「とうとう人口生命体ホムンクルスが覚醒しました」

 山本博士と呼ばれた人は私を見て言った。もしかして人口生命体ホムンクルスって私のこと? え、マジ? なんかやばいじゃないですか。

「何、まことか」

 松本大将と呼ばれた人が言う。

「はい」

 山本博士は返す。

 ……と、ある一人の兵士がやってくる。

「松本大将! 現在進軍中の大栄帝国軍は首都北部十キロメートルまで進軍中です。ご命令を!」

 どうやら伝令のようだ。伝令の言葉を聞いて松本大将は青白い顔でしばし、考え込む。……っておいおい。もしかして、今、戦争中なの? それで私は巨大ロボット兵器だと。夢だといいのだが、夢にしてはなんだか、こう、実感が湧きすぎている。もしかして、これは転生というものだろうか。ということは、私は女子高生を助けようとして死んでしまったということかしらん……。

 私、戦場に行かないといけないのかな? 怖いな。

「ク……。私が諸君らに言えることは首都を死守せよと、それだけだ」

 松本大将はそれだけ伝令に伝えると山本博士の方を向く。

「山本博士、早速、ホムンクルスとやらを使わせていただきましょう」

 それを聞くと山本博士は苦笑する。

「無茶です。この人口生命体はただの二脚戦車とはわけが違います。生きているのです。人間なのです。並大抵の兵士でも乗せてご覧なさい。臭い大人が自分の体の中に入ってきたって拒絶してしまいますよ」

 もしかして、私の中に誰かが入って、私を操縦するのだろうか。うーむ……。私は巨大ロボットのようだからそれも当然か。汚くて臭うおっさんが入ってくるのは嫌だな。

「むむむ……。我儘なやつだ。じゃあ、どうすればいい?」

「ホムンクルスには十七歳の女子高生の魂が入っています。同じ年頃の女の子を乗せてあげましょう。一緒に友達になればきっと上手く乗りこなせるはずです」

 まあ、綺麗な女の子が入るのだったら私も嫌じゃない。伝え忘れていたが、この山本博士というのは女性だ。だから、女心をよくご存知と見える。

「友達? コミュニケーションが取れるのか?」

「私たちにはできません。ただ、ホムンクルスと神経接続したパイロットのみがコミュニケーションを取ることができるのです」

「なるほど……。私の娘がちょうど女子高生だ。娘を呼ぼう」

 五分くらいたっただろうか。一人の女の子が入ってきた。女の子と松本大将と呼ばれた男は向かい合っていた。

「父さん……」

 女の子は松本大将と呼ばれた男の顔から目を背けていた。私はその女の子を見たことがあった。人形みたいに整った女の子。不気味なほど青白い。整いすぎてリアリティがなく、見ているうちに段々と不安な気持ちになってくるようなたまーにいる美少女だ。いつ見たのだろう。思い出せない。

「今頃私を呼んで何の用?」

 女の子は声を震わせて言った。

「由紀子、お前の目の前にあるホムンクルスに乗れ」

 由紀子と呼ばれた女の子は顔を上げ、松本大将の、向こうにいる私を見た。

「二脚戦車……! 父さん、どうかしてる。乗れるわけない。私は何の訓練も受けてない一般人なんだよ」

「二脚戦車ではない。人口生命体ホムンクルス。人間だ。お前と同じ女子高生だよ」

「意味わからないこと言わないで!」

「今は分からなくてもいい。乗ればわかる。乗らなければ帰れ」

「私を呼び出したのは父さんじゃない! いつも父さんは勝手! 家族で一緒に過ごさずにいつも戦争のことばっかり。この間、母さんが空襲で死んだ時も葬式にすら来なかった。兄さんが戦死したときだって……。父さんはそんなに人殺しが好きなの? 今度は私にこんなのに乗れって。家族の命なんてどうだっていいの? いいよ。もういい」

 由紀子は泣いていた。松本大将は冷ややかな顔で由紀子を見ていた。

 私は松本大将に苛々してきた。酷い親だ。私はなにか言ってやろうと思ったが、声が出ない。くそう……。

「由紀子、乗らないなら帰れ。邪魔だ」

「乗るよ。乗って死んでやる。私にはもう、母さんも兄さんもいない。生きていたってどうしようもないんだ。死んで父さんを地獄で永遠に呪ってやる」

 由紀子はつかつかと私の方に歩み寄ってきた。そして、私の足を蹴る。

「この、ポンコツ! 父さんの作った人殺しの機械。さっさとハッチを開けなさいよ。戦場のどまんなかで突っ立って敵の的になってやる」

 由紀子が喚いている時、山本博士が由紀子の近くに歩み寄って、肩を叩いた。

「あの、これは普通の二脚戦車じゃなくって、人口生命体ホムンクルスなんです。ハッチはないんですよ」

 山本博士の言葉は由紀子には聞こえていないようだった。

「うるさい! 汚いおばさんの分際で私に触らないで。父さんがずっと家に帰ってこないのはあんたとデキているからでしょ。最低! 私の父さんを返してよ」

 松本大将は由紀子の隣に駆けて、由紀子の頬を思いっきり平手打ちした。由紀子は松本大将を睨みつけた。

「松本大将、今のご息女の精神はとても不安定です。これではホムンクルスとの同期に支障が……」

「構わん」

 松本大将はそれだけ言った。

 由紀子はしばらく松本大将を睨んでから、小声でボソボソと「昔はこんなクソみたいな奴じゃなかったのに……。昔はもっとかっこよくてヒーローみたいだったのに……。戦争が父さんをおかしくしたんだ」と呟いた。由紀子の松本大将を見る目は大体が憎悪に満ちていたが、時々、ふっと、優しげな眼差しに変わる。由紀子は父親にかなり複雑な感情を抱いていることは容易に察せられた。しかし、その父親に対する複雑な感情に由紀子は気づいていないのか、はたまたあえて気づかないふりをしているのか、私にはそこがはかりかねた。

豫吿

松本由紀子は田中麻友子に搭乗する。ヘッドギアをつけて交流をはかろうとする松本由紀子。しかし、人工生命体ホムンクルスは心を開かなければ動かすことができない。全ての他者を拒絶し、自己の殻の中に閉じこもる松本由紀子は果たして田中麻友子に心を開くことができるのか?


次回 巨大人工生命体ホムンクルス 第弍話 「溶けゆく心」


君のハートのウォールを溶かせ!

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