息吹
僕は異常な光景を目の当たりにした。
凄くガタイのいい男が子犬を追い掛け回しているのだ。
「おい、何をしてる?」
「見て分かんねーのかよ、俺にションベンぶっかけやがったクソ犬をとっ捕まえてぶっ殺そうとしてんだよ」
このチンピラは確かにキレていた。
その時、僕はそのチンピラの首にまるで黒いカエルの様な、妙な印がある事に気付いた。
「捕まえたぜぇー!この野郎!」
チンピラが子犬を捕まえた。
子犬は必死にもがいている。
もしかしてこいつは脱獄者なのか?
もしかしてこいつは異端能力者なのか?
そう考えたが、だからといってこいつを止める以外に道はない。
僕には勝算がある。
「やめろっ!」
チンピラは思わず動きが止まり、子犬は今のうちにと逃げ去った。
「あ~?てめぇ犬が逃げちまったじゃねえかよぉ~!」
「ああ」
敢えて刺激する。
「ああじゃねえぜクソが!しょうがねぇから代わりにてめぇをぶっ殺してやるぜ!」
「やってみろ!返り討ちにしてやる!」
その時、どこからか飛んできた小石がチンピラの後頭部に命中した。
「いでぇ!誰だ!」
木の陰から男が一人現れた。
どうやら一部始終を見られていたらしい。
「クソが、てめぇから先にやってやるぜ!」
「いいや、お前程度が俺を倒そうなんて自惚れが過ぎるんじゃないか?」
男は何の根拠があるのか自信に満ち満ちているようだった。
「それは俺があのペンニニ監獄から脱獄してきたことを知らないクチか?俺の首のカエルを見てみろよクソカスがぁ!今更謝ってももう遅いぜぇ!」
チンピラの首にはやはり黒いカエルの刺青があった。
しかし男は気にも留めていないようだった。
「その余裕の態度最っ高に腹がたつぜぇ~!ぶっ殺してやる!」
チンピラが男のほうに向かって走り出した。
次の瞬間、男は木の陰に隠していた小石を滅茶苦茶に投げ始めた。
「ハッ!どこ狙ってやがるクソノーコン野郎がよ!」
「「何っ!」」
なんと小石はあり得ない軌道を描いて正確にチンピラの頭へと向かっていった。
「何だこれは!ぐぇぇ畜生!」
そう言った後、チンピラは意識を失った。
「坊主、ケガは無いか?」
男がこちらに来る。
「ああ、ケガは無いよ」
僕も男に歩み寄る。
「さっきのは一体?石があいつに吸い寄せられたようだったけど」
こいつは敵なのか?
異端能力者だということは分かる。
「それは俺の能力だ」
だがこいつが悪い奴には見えない。
となると僕と同じようなもんか?
「するとアンタも脱獄者か?」
「いや、違う」
やっぱりそうか。
……本当にそうか?
「こっちからも一ついいか?」
「ああ」
「なぜチンピラにケンカを売るような真似をした? お前に勝算があるとは思えない」
やはり何か疑っている。
「あいつが犬を苛めていたのに腹が立ったからだ」
「だからといってあんなでかいヤツに向かっていくのか?」
「僕は強いからな。あんな奴ちょちょいのちょいだ」
「うぉ~」
「「!」」
チンピラが起きた。
「てめぇら……ブッ殺してやる!」
チンピラがこちらに向かってくる。
「オイ、俺もう石ねえよ」
肝心な時に使えないヤツだ。
「どうやら僕が何とかしないといけないようだな」
僕はその辺の木の棒を2本手に取り、1本を男に手渡した。
「おい、そんなんがあいつに通用するようには思えないぞ」
「いいや、これで十分だ」
そう言って、僕は一呼吸置いた。
「生長しろッ!」
木の棒がそれなりのサイズになった。
「おぉ~すげェ!」
思わずチンピラの足が止まる。
「あぁ~?まさかお前もか!」
「そうだ、そして喰らえ!」
二人で木の棒を投げた。
一瞬動揺したチンピラは防御の体制をとるのが遅れた。
「驚いた、やはりお前も異端能力者か」
「ああ、だがこいつは脱獄者のくせに異端能力者では無いのか」
僕は小汚い撲殺死体を指差しながら言った。
「こいつはおそらく脱獄者に扮していただけだ」
「紛らわしい奴だ。死んで当然だな」
近頃脱獄者もどきが出没するとは聞いていたが、それがこいつか。
「ところでお前の能力を見込んで頼みたい事がある」
「何だ」
「俺と組んで脱獄者狩りをしないか。治安も良くなる金が稼げるの一石二鳥だ」
警察とは別に脱獄者専門のハンターが行動している事は聞いた事がある。
彼が言った通り、なかなか良い仕事だ。
「やらせてくれ」
「よし」
ここに最強のコンビが誕生した。
「俺はコルツだ、お前の名前は?」
「僕はベントだ、よろしく」
その後、僕とコルツはここから一番近いシャウザオ支部へと向かった。