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その頃の中村オーナー




『三振、試合終了!最後は石井が締めました。ロイヤルズ、5対3でオープン戦、本拠地初戦を白星で飾りました!』




テレビの野球中継が自分のチームの勝利を告げるのを見て、ホテルの一室で見ていた若い女性、フェニックスの新オーナー・中村美穂は安堵のため息をつき、スイッチを切った。




「ふう・・・。すごい選手たちが今年は入ったわね。ほんとに優勝できるかもしれないね」




余韻に浸っていると、水を差すように部屋のドアがノックされる。その音を聞いて一気に気持ちが沈む。入室を認めると、秘書でもあり中村家代々に仕える執事でもある、小島八兵衛(こじまはちべえ)が入ってきた。




「お嬢様、そろそろお時間が・・・」


「分かってるわ。挨拶がてらの会食でしょ?すぐ行くから待ってて」




けだるそうにクローゼットを開いて、美穂は上着を取り出す。




「またテレビを見ながら書類整理ですか。ながら作業は思わぬケアレスミスを招きかねませんよ」


「いいじゃない、じい。オーナーになると、まともに試合なんて見れる可能性なんて低いんだから。もうビッシリ予定入ってて、なかなか球場に行けないと思うし」


「ですが、我々には現場の選手たちが・・・」


「『野球に集中できるよう、環境を整える役割がある』でしょ?いい加減聞き飽きたわ」




憮然とした表情で足早に部屋を出る美穂。小島がその後を追う。




「今季は予想順位も軒並み上位みたいですし、わざわざオーナーが出向く必要もないかと。それに、我々が相手にしているのは、選手たち以上の強敵ですから・・・」


「・・・わかってるわよ」




◇ ◇ ◇




「いやぁ我が社がユニフォームに広告を出して、ようやく春が来るという感じだねえ」




チームの有力スポンサーとしてユニフォームに広告を入れている、東京食品が開いた懇親会。出席した美穂は、その社長からこんな言葉をかけられた。




「そういっていただけて、我々も喜ばしい限りでございます。今後も変わらぬご支援を」


「もちろん。ま、こういう躍進が本当にあるのなら、球場のネーミングライツや選手のCM起用も検討しようか。こんな美しい勝利の女神がいるのなら」


「まあ、お上手ですわ」





そう言って美穂は笑うが、目は笑っていない。社長の目線は自分の足下に向いており、セクハラの色が透けて見える。それに社長の眼もまだ心から笑っていない。まだ新米社長であり、出資されている格好の美穂に対して、露骨なまでの上から目線だ。一通りお世辞を言うと社長は足早にどこかに向かっていった。こうして美穂から挨拶しなければ、この会話自体成り立たなかった可能性が高い。




(現場に不安も流さないためとはいえ・・・セクハラおやじに頭下げなきゃいけないのはきついわね、ホント)




会場から引き揚げる車中、美穂はそう心の中でぼやいていた。

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