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オープン戦、開幕

季節は3月。いよいよオープン戦が始まった。


というのがかつての流れだったのだが、試合数が増えて日程が前倒しになるにつれ、オープン戦は早いところで2月下旬から始まる。二軍や新人選手がこの期間にアピールし、3月ごろに試合に出だす主力と凌ぎを削る。つまり3月のオープン戦は、開幕一軍の28枠を争う最終試験のようなもの・・・であるのだ。




そして今日、ロイヤルズの本拠地である京都伏見スタジアムに、パリーグの千葉マリナーズを迎え撃つ。




「レフト側、めっちゃ黒いなぁ・・・」




一塁ベンチからスタジアムを見渡しながら、今日の登板予定のない渡辺は呟いた。




「しかしまあこんな辺鄙なところに、わざわざ足運ぶなんて、マリナーズファンは物好きですよねえ、山崎さん」


「ナベ。確かに間違ったことは言ってないが、あんまりここのことを悪く言うなよ。資金力に乏しいウチが必死こいて建てた球場なんだから」




背後にいた中堅左腕・山崎和也(やまさきかずや)は渡辺にこう言った。京都伏見スタジアムは老朽化した京都三条球場に変わって、数年前に建設された両翼100m、中堅122mの広さである内外野総天然芝球場である。駅から徒歩10分程度かかるのはネックだが、昨シーズンの観客動員数は16球団8位と成績の割には奮闘している。




『続きまして、後攻の京都ロイヤルズの、スターティングオーダーです』




試合開始前、球場ではウグイス嬢が淡々と両チームのスタメンを読み上げていた。近年はスタジアムDJといって男がアメリカっぽくコールするのが主流になりつつあるが、ここは今も昔も一貫してウグイス嬢が担当している。




『一番、ショート、伊藤、翔吾。背番号、36』


『二番、セカンド、山田、杏里。背番号、51』


『三番、レフト、グレッグ、ジョーンズ。背番号、4』


『四番、センター、佐藤、裕也。背番号、25』




岡本監督の方針で、佐藤は今季から外野手に挑戦している。当初、佐藤は「なんで俺が外野やらなきゃいけないんだ!」と岡本監督に文句を言っていたが、結局は外野手挑戦を受け入れる格好となった。




『五番、ファースト、トニー、ウィルソン。背番号、44』


『六番、ライト、小林、一浩。背番号、22』


『七番、サード、山本、優斗。背番号、55』


『八番、キャッチャー、加藤、駿太。背番号、27』


『九番、指名打者、青木、遼馬。背番号、48』


『先発ピッチャー、鈴木、賢治。背番号、18』




スタメン発表されるスタジアムの盛り上がりを、「けっ。ずいぶんと沸くじゃねえか」とどこか疎ましく思う選手がいる。




昨年までのチームの正捕手である松本雄平(まつもとゆうへい)だった。昨年まで5年連続で100試合以上に出場した中堅捕手だが、今年はオープン戦の時点から特に故障も不調もないのに、捕手のスタメン争いで愛媛からFA移籍してきた加藤駿太(かとうしゅんた)に次ぐ2番手に甘んじている。長らくチームのホームを守ってきた男として、新顔が優先して使われている現状は面白くない。今回は特にその色合いが強い。




「なぁ、タケ。いくらFAで入団したとはいえ、正捕手確約は酷すぎるんじゃねぇのか?」


「そうっすよ。それに加藤はずっと打率が2割に届くか届かないかという選手。とりあえず、お手並み拝見ってやつですよ」




傍らに立つ、武田健太(たけだけんた)は先輩を立てるようにうなづく。武田は昨シーズン、主にショートやセカンドとして110試合に出場した若手の内野手だが、彼もまた伊藤や山田のスタメン起用のあおりでベンチでの日々が続いている。特に、武田はセカンドのポジションを女に奪われているだけにその嫉妬は松本よりもあるいはひどいのかもしれない。




今の京都は岡本監督の起用法に、早くも不満をあらわにする選手が少なからずいる。特に昨年までスタメンを張っていた松本と武田はその筆頭と言っていい。そんな選手たちを遠巻きに目をやりながら、岡本監督はつぶやいた。




(果たしてあの中に、今日の試合から目を代える人はいるんでしょうかねえ・・・)

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