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クリスマスってなあに?

作者: Chitto=Chatto

ある冬の日のこと。


仲良しのカエルとリスが森でキノコを探していると、見たこともない綺麗な光が木々を飾っているのを見つけました。


光に吸い寄せられるように近づいてみると、それは森の中に住む人間の家の庭先のもみの木でした。

隣のリンゴの木からはちょくちょくリンゴをもらっていたのですが、もみの木の方は今まで気にしたことがありません。

それくらい地味だったもみの木ですが、今日は色とりどりに輝く実で目映いくらい。もうびっくりぽんです。


「こんなにキレイだったっけ?」


二匹は顔を見合わせました。


「一昨日まではこうじゃなかった気がする」


確かここに来たのは近くのオークの木から夜光キノコをもらったあとだったよね、とリスが続け、カエルは大きく頷きました。


「これ、病気かしら?」


カエルが呟きます。たしかにこんな風にキラキラしてる実なんて聞いたことがありません。


「新しいカビかも」

「それはたいへん!」


二匹は急いでその場を去り、ニュースヘブンの町にいる物知りな木のおじいさんに話を聞くことにしました。






「ああ、それは9リス鱒釣りじゃな」


カエルとリスから話を聞くと、木のおじいさんは大きな枝をゆらして笑いました。


「正確にはその人間バージョンじゃ」

「それってなあに?」

「最近の子ども達は伝説を知らんのう」


木のおじいさんはそう言うと、二匹の疑問に答えてくれました。


「その昔、今では伝説の釣り師と名高い9匹のリスがおった。レッツゴー9匹といったらお主達も知っとるかもしれんなあ。その9匹、鱒を釣って修行をしておったのじゃがな、そのときに釣れた真珠を木に吊して乾かしたのじゃ。それを見た人間が『なんて素晴らしい!』と感動しての。真似をして年末にあるクリスマスいう行事で木を飾り付けるようになったのだとか」


なるほど、9リス鱒釣り→クリスマスツリーなのか、と二匹は納得しました。


ですが、ここで新たな疑問が湧きました。


「おじいちゃん、クリスマスって何?」


リスが小首を傾げると、 カエルもまた同じ顔をします。ただし、カエルの場合は今まで冬は眠っていたので(今年は冬を楽しむために生姜をたくさん食べて代謝を上げたから寝ないと言ってます)冬のことはよくわからないみたいです。


「クリスマスってのはもともと冬至を祝いものだそうじゃがな、今ではじいちゃんもわからんものじゃなぁ」

「じっちゃんでもわからないんか」

「長く生きていると逆に知らぬことが増えていく。それもまた長生きの楽しみじゃよ」


奥が深い、と二匹は思いました。


「そうそう、クリスマスといえば」

木のおじいさんは大きな枝をわきわきと揺らして銀行の方に傾きました。

「さっき、エルフの料理人がクリスマス景気を配るとか言っていたよ。よくわからんが縁起物らしいでな。もらってくるといい」


配る=無料

それはありがたい、と早速二匹は銀行に向かいました。






町で一番にぎわっている銀行の前には緑色の髪をしたエルフがいて、机に緑と赤の袋を積み上げていました。


「クリスマスケーキです。よかったらもってってくださいなー」


二匹は机の下に行き、声をかけました。


「これはまた可愛いお客さんだ」

エルフはにこりと笑います。


「お兄さんこそ、その緑はいい緑だねえ」

カエルはエルフの髪色をたいそう気に入った模様です。


エルフはありがとうと言って笑うと、二匹に袋を渡しました。


「僕はまだ修行中だからケーキに銘が入らないんだけど、もらってくれるかい?」


袋の中には桃の薫りがする白いお菓子が入っています。

二匹はありがたくいただくと、地面に鼻がつくほど深く頭を下げました。


しばらく後、リスは先程と同じ疑問をぶつけてみました。


「クリスマスって何?」


エルフは少し考えて、答えました。


「僕はエルフだから人間の風習はあんましわからないんだけど、クリスマスにはごちそうを食べるって聞いたからケーキを焼いたんだ。年末は忙しいから、美味しいものをたくさん食べて体力を付けようってことかもね」






エルフと別れた後、二匹はクリスマスについて話しました。


「たしかに美味しいもの食べると元気が出るもんね」

「このクリスマス景気ってのを食べると、来年は景気いいことがあるかしら?」

「きっとあるね」

「そしたらもっとでっかいお菓子のほうがいい気がしない?」


うーん……。


「そういえば」

カエルは両手をぺちんと叩きました。


「Winkダンジョンにいるオーガのコックさんが三段の大きな景気を作れるんだって」

「それはすごい!」


それだけ大きい景気ならばさぞや来年はいい年になるだろう。

なるに違いない。

いや、きっとなる。

二匹はにやりと笑い、早速Winkダンジョンに向かいました。






「で、ここまできたってか?」


紆余曲折の後、オーガコックのところに辿り着くと、オーガは明らかに困惑した顔で二匹を見つめました。


「そんだけのためにまあ。というかよく魔物にやられなかったな」

オーガの疑問はもっともなのですが、二匹はケガ1つなく、にこにこと地下の厨房でお茶などすすっています。


「あっちいけ!とか言いながらここまで案内してくれたもんね」

リスとカエルは地下の魔物達に敵認定されなかったようです。


オーガは苦笑すると、散らかった骨を足でよけながら二匹を近くに呼びました。

「たしかに、オレはレシピを持ってるがな」

不器用だから作れない、と続いた言葉に二匹は肩を落としました。


「まあそうがっかりするなよ」

そういって渡されたのは、ホコリにまみれた巻物です。

「これをやるから、そのエルフの料理人に作ってもらうといい」


それは幻の三段ケーキのレシピでした。


二匹は飛び上がって喜びました。暗い調理場で小躍りする小動物がオーガの心を明るくします。


「ちょっと早いけどオレからのクリスマスプレゼントだな」

照れるオーガに、カエルが尋ねました。


「クリスマスってなんだと思う?」


オーガは腕を組み、しばらく唸った後、にやりと笑って答えました。


「一年がんばったってご褒美もらえる日だ。ありがたいだろう?」


なんと、そんないい日だったのか!

嬉しくて、二匹はオーガに飛びつきました。


その後、ヘイブンに戻った二匹は銀行前でお菓子の袋を配っているエルフにレシピを渡し、ケーキを作ってくれるよう頼みました。


「こんなすごいものもらっていいの!?」


エルフは目を丸くしています。カエルとリスは知らないことでしたが、実はこのレシピをオーガコックからもらうためには特別な試練があるのです。


「すごいクリスマスプレゼントをありがとう」


エルフは嬉しそうに言うと、パン屋の厨房を借りて、三段ケーキを作ってくれました。

二匹はエルフにお礼を言い、ケーキを持って木のおじいさんのところに行きました。


木のおじいさんは二匹が代わる代わる話す日帰りの冒険譚を楽しそうに聞きました。

その姿が嬉しくて、二匹の舌はいつもより滑らかです。


「ということで、これ、私らからのクリスマスプレゼントよ~」

「来年も景気のいい年でありますように!」


修行中のエルフが作った三段ケーキはちょっと端が焦げていましたし、二匹と一本ではちと多すぎましたが、とても幸せな気持ちになりました。


「いいクリスマスじゃ」

と、木のおじいさんが言いました。






その夜のこと。

ベッドに潜ったリスは足下で丸まっているカエルに言いました。


「結局、クリスマスってなんだかよくわからなかったねぇ」

「そうだねえ」


カエルは背中を大きく反らせて伸びると、リスの横ににじり寄り、枕に顎を載せました。

二匹は指を折りながら、今日のことをまとめてみました。


結果、クリスマスについてわかったことは


・木を飾る

・冬至のお祭りだった

・たくさん食べて体力を付ける

・ご褒美がもらえる


こんなところです。


「うにゅー、どんな日かやっぱりわからないね」

リスは枕に顔を埋め、ため息をつきました。


「でも、なんか楽しかったじゃん」

カエルはぬほーんと笑いました。

「街が賑やかで、キレイで。意味なんかわからなくてもニヤニヤしちゃう感じだったよ」

「あ、それあたしも」

リスもむふーんと笑いました。

「とりあえずそれでいいことにしようか」

カエルの提案にリスは大きく頷きました。


なんだか心がほっこり温かくなります。クリスマスっていいなあ、とリスは思いました。


だから、こんな提案をしました。


「今日はいろんな人にお世話になったから、たくさんありがとうって言って眠ろうか」


それはいい、とカエルは笑って頷きます。


二匹は起きあがると、窓に向かって頭を下げました。


「森のおうちの人、もみの木がキレイです。りんごもいつもオイシイよ。ありがとう」

「ヘイブンの木のおじいさん、いろいろ教えてくれてありがとう」

「エルフのにーさん、お菓子おいしかった。ありがとう」

「Winkの魔物のみなさん、道案内してくれてありがとう」

「オーガコックさん、貴重なレシピをほんとにありがとう」


それから、カエルはリスに言いました。


「リスさん、いつもありがとう。リスさんのお陰で毎日楽しいよ」


リスはちょっと驚いた顔をしたあと、カエルに言いました。


「カエルさん、いつもありがとう。カエルさんのお陰で毎日幸せよ」


そして、二匹はにっこりと笑いました。






しばらくして、ちょっと気づいたんだけど、とカエルは言いました。


「クリスマスって、いつもありがとうって気持ちがご褒美になる日なのかもね」


リスは納得した顔で頷きました。


「景気がいいのもご褒美も体力作りもみんな、ありがとうって感じだもんね」

「そういうこと」


眠る前に疑問が解けて良かった、と二匹は嬉しそうに笑い、おやすみを言って布団に潜ったのでした。



We wish you a Marry Cristmas,And a Happy New Year.





おしまい



















そうそう。

これはちょっと聞いた話なんですけどね。


12/24の夜は赤い服を着たおじいさんがトナカイのひくそりに乗ってプレゼントを持って来るという話を聞いたカエルとリス、なぜだか家の戸締まりを厳重にし始めたそうです。


リスに聞いたら

「知らない人にモノもらっちゃダメなんだよ」

などと言っていたとか。

初対面のエルフからケーキをもらった口が何を今更、とか思いましたが、それはまた別の話らしいです。


一方で煙突を塞ぐ努力をしているカエルは

「夜中に徘徊する老人が置いていくプレゼントってアヤシイじゃん」

と違うモノを恐れている模様です……。

暗い洞窟を徘徊する魔物からもらったモノは使ってますけどね。



今年はどんなクリスマスがやってくることでしょう。

何はともあれ、良いクリスマスをお過ごし下さい。






読んでいただいてありがとうございました。


ずいぶん昔にやっていたMMOのウルティマオンラインで書いていた物語ですが、町などの設定をオリジナルに変えています。

離れて久しいので今はどうなっているかわからないけれど、たまに戻りたくなる世界でした。無料で入れるらしいから見に行ってみようかなあ。


町がクリスマスカラーになると、そろそろ一年終わりですね。まだ2か月あるよ、と呟く年末生まれの私でした。

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