ワシ、街に向かうのじゃ。
ワシ、初めて夢を見たのじゃ。多分。初めて...かの?
うむ。まぁ、初めて夢を見たのじゃが、ワシの子供達が色々教えてくれる夢じゃった。普通のワシの夢に現れる位じゃし、ワシが思ってた以上にワシの子供達はこの世界に干渉しておるみたいじゃな。
確かに、もう1つの世界に比べれば、此方の世界に干渉しておる神の数が多いのは否めんのじゃが、不思議とこの世界よりもう1つの世界の方が進んだ文明を持ち、あまり神の力を必要としとらんのじゃよな。本当に人間とは不思議な生き物じゃわ。
夢の中での子供達の話しで一番気になったのは、今この世界には、もう1つの世界から転生して来た人間が居るみたいでの。色々とあちらの世界の話しが出来るのと良いのじゃが...
ふむ。もう1つの世界に転生して沢山ある娯楽に興じたかったなど思っとらんでな?うむ。ワシは見るのが仕事じゃったでな。テレビはちょくちょく観てたのじゃ。
「......って、聞いてるか?」
「む?ワシかの?」
「まだボーっとしてたのかよ。お前、寝起き悪ぃのな。」
ふむ。ワシ、寝起きが悪いのかの?...どう悪いんじゃろか?
「はいはい。ご飯の準備が出来たから先に食べましょうね。」
「うむ。そうじゃな。」
昨日は初めての空腹に、死を覚悟してしもうたでな。あの様にワシの臓物が不具合を起こす前に食したいの。
ワシの横で愛らしくお座りしておるライガルを撫で、人間達に促され、食事をする場へ向かう
「おぉ。ライガルや、ワシの臓物が喜んで居るかの様な匂いじゃな。」
「がルぅ?...がルぅウガ!」
「そうじゃなそうじゃな。うむ。ワシは草をむしって食したが、ちゃんとした食事は初めてじゃ。これが、美味しそうってやつじゃな。」
ふむふむ。ワシ、興奮しておるのじゃ。心臓が楽しそうに主張しておる。愉快じゃの。
「うっ...」
「くっ...!」
な、何じゃ?人間達は目に手を当てて震えて居る。
「沢山食えな!」
「えぇ。お昼はもっと美味しいのをご馳走するわ!」
「たらふく食べて大きくなるんだぞ!」
「街にはまだまだ沢山、美味しくて...幸せな事も沢山沢山あるからね!」
「う、うむ。分かったのじゃ。」
...そんなに食事とは喜ばしい、幸せな事なのかの?この人間達は嬉し泣きというモノをしておる様じゃ。ふむ。食すのがたのしみじゃの。
「......では、頂きましょう。君も遠慮せず食べてね?」
「ふむ。ワシも食すのじゃ。」
「そっちのライガルはこっちの干し肉食べてね!」
「がルぅ!」
「あ、やだ...ライガル可愛い!皆!見て見て!このライガル、スッゴク可愛いし、もふもふしてるわよ!」
うむうむ。そうじゃろそうじゃろ。ライガルは愛らしいでの。ライガルも食事と撫でて貰って嬉しそうじゃの。
「なっ?!アリナー!?......大丈夫...なのか...?」
「うむ。ライガルは愛らしいのじゃ。お主等も撫でてやるが良い。」
「おぉ!リーダー!ヤバいっす!めっちゃ気持ち良い!」
「あら、本当だわ。大人しく可愛いわよ?...リーダーも撫でてみてはどうかしら?」
「ぅ......おぉ!確かに、撫で心地が良いな!」
うむうむ。人間達もライガルも楽しそうじゃ。ワシも何やら満たされた様な感じじゃわ。この感じは心地良いの。
ずっと見て居たかったのじゃが、目の前の器に入っておるスープが気になって気になって...ワシ、知っておるぞ。この、スプーンで食すんじゃろ?
もう1つの世界でも、このスプーンで食べおる姿を見たのじゃ。
......別に、もう1つの世界しか見てなかった訳では無いのじゃよ?...ほら、アレじゃ。もう1つの世界にはテレビという物が在ってじゃな?ワシは、見るのが仕事じゃしな?
......うむ。一度落ち着くのじゃ。ワシ、初めての食事を前にちょっと取り乱してしもうたわ。
人間達は食べて良いと言っておったで、ワシ、先に食べても良いじゃろ。
「...っ!...うむ。成る程の。ふむふむ。成る程の!これが、美味しい、じゃな。」
一口食してみれば、ワシの身体が歓喜に震え、次々と口に入れたのじゃ。
人間とは何と素晴らしい生き物じゃ。愉快じゃの。こんなに歓喜に満ち溢れた生物を、ワシは創ってしまったのじゃな。ふむふむ。流石ワシじゃ。
「...ふむ。美味しかったのじゃ。」
ワシの身体、臓物が満足したと訴え、ワシは冷静になり、威厳たっぷりに美味しかった事を告げたのじゃが。
......人間達のこの表情は何じゃ?まだまだ未熟な人間達を見守るワシの子供達みたいな表情をしておるのじゃ。
「これからは...私達が美味しい食事を食べさせてあげるわね。」
「そうだぞ。お前はもう、1人じゃ無いからな!」
「この先にオイラ達が拠点にしている街があるからな!安心するんだぞ!」
「これからいっぱい美味しいものを一緒に食べようね!」
この人間達は、何かしらが満ち溢れておるの。ワシも普通の人間として満ち溢れなければならんのかの?
...まぁ、この人間達から普通の人間を学べば良いじゃろ。
「う、うむ。宜しく頼むのじゃ。」
「がルぅ!」
「ふむふむ。ライガルは良い子じゃな。」
「がルぁ!」
ワシに顔を擦り付けるライガルは甘えん坊じゃな。うむうむ。愛らしいの。沢山撫でてやるのじゃ。
「じゃ。片付けてさっさと街に戻るか。」
「えぇ。そうしましょう。じゃあ君も......そう言えば君の名前...」
「あ......名前無いと不便じゃん!流石に何か名前じゃ無くても、呼ばれてたりしたんじゃ無いのか?あ!でも、オイラみたいに馬鹿って呼ばれてたら言わなくて良いぞ!」
「本当、アンタ馬鹿よね!もっと考えてからモノを言いなさいよ!」
ふむ。ワシ、人間になったばかりじゃしの。子供達にレリティエンや父とかしか呼ばれておらんのじゃ。
「取り敢えず、街に行く準備をしながら考えましょう。」
「そうだな。」
「ほら!馬鹿、さっさと片付けなさい!」
「えぇ...」
ワシも片付けを手伝うべきかと悩んだんじゃが、ワシがやれる事がなさそうじゃから、ライガルを撫でながら名前について考えてみるのじゃ。
うーむ...ワシは何でも良いんじゃが、レリティエンは神の時の名前じゃしな。ふむ。ワシは男じゃし、名前も男の名前にせねばならんの。
...この世界の普通の人間の男の名前って何じゃろか?
「のう。お主等、普通の男の人間の名前とは何じゃ?」
「えっ...?......あんた男だったのか?!」
「いやいや、普通に男の子でしょ?やっぱりアンタは馬鹿よね!」
「あ...私も女の子かと思ったわよ?私も馬鹿なのかしら?」
「ちょっ?!いや!私はエマを馬鹿とは言ってないわ!」
「ニシシッ!エマに怒られてやんのー!」
「サルド?君は私を何だと思ってるのかしら?」
おぉ...エマは笑いながらも凄い気迫を感じるのじゃ。人間の笑顔とは、こんなに気迫を感じるモノなのじゃろか?ワシは、歓喜や幸せを感じて出る表情じゃと思っておったわ。ふむふむ。やはり見てるだけでは分からん事が多いの。
「おい!お前等!早く片付けるぞ!」
「「「...了解。」」」
......結局、ワシの問いの答えは無かったのじゃ。...そもそも、ワシの性別......ふむ。あるの。やっぱり男じゃ。
まぁ、この年じゃと、女もあまり此処が主張する程の成長はせんじゃろしな。うむ。
「さて、皆荷物は持ったな?新しい仲間も居るし、今日は真っ直ぐ街まで帰るぞ!」
「「「了解!」」」
「さて、街に向かいながらお前の名前を考えるか!」
「うむ。宜しく頼むのじゃ。ワシも考えてみたが、分からんかったでの。」
「がルぅ!がルぁる!」
「ふむふむ。成る程の。......ワシはライガルの言葉は分からんでな、ライガルが示した名前は分からんのじゃ。」
「えぇっ?!あんたずっとライガルと会話してたじゃねぇか!」
「む?何を言っておるんじゃ?ワシはライガルと会話はしとらんぞ?」
((((えぇー!?あの意志疎通してます感は何だった?!))))
何じゃ?人間達は歩みを止め、驚愕したかの様な表情をワシに向けておるのじゃ。
ワシ、何か驚愕させる様な事を言ったのかの?......ふむ。
「人間達、ワシはちゃんと男じゃ。確かめるかの?」
「なっ...馬鹿!止めなさい!」
「分かった!疑ってねぇよ!」
......あれ?一層驚愕したみたいじゃ。
「うむ。街に行くかの。」
今、人間達の表情などの感情は、これから人間として学ぶ機会は沢山あるじゃろ。今、ワシが分からんでも問題あるまいての。
早く人間の街に行ってみたいのじゃ。
「そ、そうね。早く行きましょうか。」
「あ、あぁ。」
ワシ達は街に向かいやっと歩き始めたのじゃ。