ワシ、転生じゃ。
ー人間界・ライガルの森ー
「......うむ。ワシ、転生した筈なんじゃがの?ふむ。この身体は...10歳位かの?」
......あれ?人間は、赤子から成長するんじゃなかろうか?
ワシ、赤子...では確実に違うの。服も着ておるしな。何故じゃ?ワシの知らぬ間に、人間は成長した姿が赤子になったんじゃろか?
いやいや。そんな訳はなかろう。赤子からに決まっておる。
思ってたんと違うと、自分の身体を確かめ、辺りを見回す。
「......人間が居らんの。森じゃな。間違い無く、森じゃな。」
...ワシの親は?人間には親が居るじゃろ?ワシ、人間に転生したんじゃから、人間の母親から産まれたんじゃろに...
いや?ワシ、赤子じゃなかろうて...ん?んー??
『レリティエン様...レリティエン様...聞こえますか?』
突如聞こえた声に辺りを見回し、声の主を確かめ様と思ったが、声の主が我が子であり、脳へ直接届いている事に気付いたワシは、冷静に、威厳たっぷりに声を返す。
「何じゃ?どうしたんじゃ?」
『はい。レリティエン様の現在の状況などをご説明させて頂きたく、人間の居ないこの森へ転生させて頂きました。』
成る程の...人間が周りに居ては些か難儀があつたんじゃな。
場所についての謎は分かったのじゃ。
「して?説明するのじゃ。」
他の事についてを促せば、何だか長々と、子供達が入れ替わり立ち代わり説明を始めた。
...成る程の...ざっくり言えば、子供達はワシが心配で、赤子からでは無く、魔力などが安定する10歳の人間の身体を用意したと...
...これは、転生と呼べるんじゃろか?ま、まぁ、転生じゃ。うむうむ。ワシも、子供達も転生と言っておるでな。
「取り敢えずじゃ。お主等はちゃんと天界で仕事をするんじゃぞ?」
『勿論ですわ。お父様のお帰りをお待ちしておりますわ!』
...ワシ、まだまだ人間として死ぬ気は無いぞ?人間としての寿命を真っ当するのじゃ。
「うむ。」
取り敢えず頷いておき、人間に出会い、人間として生きる為に、人間が居る場所を目指し歩み始めた。
そういえばワシ、神であった時は性別と言うモノが無かったんじゃが、人間のワシの性別は何じゃろか?
......男じゃな。成る程の。女より、男の方が体力などがあるからの。ワシの子供達は心配症じゃな。
「...ふむ。」
人間とは軟弱な生き物なんじゃなぁ...歩いてそんなに時間は経ってらんじゃろて...んー...ワシの内蔵が何やら訴えておるんじゃ。
おぉ...おぉ...何じゃ?ぐるぐるとワシの臓物が鳴っておる...
「うぅ...」
ワシの身体は一体どうしたんじゃ?力も入らんのじゃ...
近くの木の幹にもたれ掛かる様に座り込み、木の隙間から見える空を見上げ
「...人間界は綺麗じゃの。ふむ。これが空腹と言うやつかの?ワシ、もう死にそうじゃ。」
ワシの人間生活は、早くも終わりを迎えそうじゃ。アレ?ワシの子供達に早く天界へ帰る様に嵌められたのかの?
ガサガサッ
「何じゃ?」
思わず声を掛けてみれば、音の出所じゃと思われる箇所の茂みが不自然に揺れておるの。
ガサガサッ...ガサッ
「がルルるっ」
ふむふむ。成る程...確か...
「お主、ライガルじゃな?ワシ、知っておるぞ。」
二メートル位の巨体に、もふもふした立派な鬣に、黒の縞模様、もう1つの世界に居たライオンとトラと言う生き物を組み合わせた生物。
この世界に合わせた故に、人間を食べてしもうたりして、ちぃと暴れん坊じゃった気がするの。
「ガルるル...?」
「うむ。ワシ、腹が減っておるでな。お主がワシを食べようとしとるなら、きっとワシは不味かろうて。」
...ワシ、人間じゃから、ライガルが何を言っておるかは分からんが、この人間界には、長く生きた生物が人間の言葉を理解したり、喋ったりするみたいじゃし、もしかして、ライガルが人間の言葉を知っておるかも知れんでの。
ガサガサッ
あ、ライガル、帰ってしもうたの。
ふむふむ。あのライガルは人間の言葉を理解しておるんじゃな。ワシが不味いと理解したんじゃろ。
「......ワシ、この草、食べても大丈夫何じゃろか?」
ワシも腹が減っておるでな。そこら辺に生えてる草をプチプチ千切り、ジッと見てみる。
ふむ。人間は毒が無ければ何でも食えるで大丈夫じゃろ。多分。
「......成る程の...これが、味なんじゃな?
...何じゃろ?この口に広がる不快感...噛めば噛むほど...うむ。......うーむ......」
人間達は...こう...もっと...食べる事に喜びを得ているかの様じゃったが......これが、不味いと言うやつかの?
取り敢えず、腹が満たされるまで、近場の草を色々食べてみた。
「...成る程の。種類によって味が違うんじゃな。......ふむ。この草なら食しても不愉快じゃないの。」
食べる事が苦にならぬ草を千切り、ワシの着ているモノの中で、千切った草を持ち運ぶのに使える何かが無いかと、着ているモノを色々触り確認してみる。
「ふむ。」
良く分からんでな。身に付けている物や着ているモノを、外して脱いで地面に並べてみたのじゃ。
ワシ、今、下半身を守る布1枚じゃ。少し間抜けな姿なのではなかろうか?
ガサガサッ...
「む?」
「がルルあ」
「先程のライガルかの?どうしたんじゃ?」
あれ?ワシ、今、腹が満たされておるで旨そうに見えてしもうてるのではなかろうか?
ワシ、ほぼ素肌じゃしの。
あ、ワシ、ピンチ?
「ガるルル...がァ」
「ふむ。成る程の。ワシにくれるのじゃな?良い子じゃのぉ」
ワシに近付きワシの目の前で大きな口を開けたライガル、ライガルの口の中には果実の様なモノが入っており、ワシの足下へ果実を落として、お座りして尻尾を振っている。
「お主、愛らしいのぉ」
わしゃわしゃとライガルを撫でれば、喉を鳴らし喜んでいる様子じゃ。うむうむ。暴れん坊と思うてすまんかったの。
「がルルぅ」
「成る程成る程。これが、友達と言うやつじゃな。」
「がルガる!」
ワシ、友達が出来たのじゃ。ふむふむ。順調な人間生活じゃな。
「...して、ライガルや?これらは人間が着ている物じゃ、こっちの物は何か知っておるかの?ワシ、人間じゃからの。食べる物が必要なんじゃ。故に、何時でも食せる様にじゃな...これ等を持ち運びたいのじゃよ。どうすれば良いか何か案はないかの?」
ライガルはワシの話しを聞きながら、目の前のモノをジッと見詰め
「がルぅ!」
前足でチョンチョンと何かを訴えておるかのライガル
「何じゃ?...ふむ。これは...成る程の。袋があったんじゃな。」
子供達はちゃんと用意してくれておったみたいじゃな。しかしじゃな...
「小さいの。入りきらんのじゃなかろうか?」
ワシの手のひらサイズの布で出来た袋。入れたい物は、ライガルがくれたワシの拳サイズの実、千切った草...きっとこれだけで一杯じゃな。
「がルルぁ...がルゥ!」
「これこれ、折角の袋が壊れてしまうじゃろ......む?」
ライガルが袋で遊び始めた事を諌めれば、ライガルの前足がすっぽり袋の中に入っておる事に気付いたんじゃ。
ライガルから袋を取り上げ確認してみる。
「ふむ。これが魔術なのかの?カスティエルの気配がするの。」
ワシの子供の1人、空間を司どる神のカスティエル。
そもそも、この人間界は、魔術の元である【マナ】と呼ばれるモノが空気中にあり、それを集め、ワシの子供達が司どる【属性】を与えたマナで創られた【精霊】達が属性を与え、初めて魔術となる...らしいのじゃ。
いや、ワシも子供達から話しを聞いただけじゃし。良く分からんのじゃよ。
きっと精霊はワシの孫って事じゃな。うむうむ。
まぁ、この袋からはカスティエルの気配があるでな。小さな袋じゃが、中は広い空間になっとるんじゃろう。
これなら食す物を入れてもパンパンにならんじゃろ。
ふむふむ。余裕じゃな。
「っくしゅ!」
ふむ。服を着ようかの。これが、寒い...なのかの?
「がルルぅ?がルガる!」
「うむうむ。ライガルは温かいの。これこれ、お主は愛らしいのぉ。」
戯れるライガルを構いながら一時楽しんだのじゃ。