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第五話 皇女帰還

何してんだァァァァァァァァァァァァァァァ!

俺と鬼丸は口をあんぐりと開け、呆然と少女を見ていた。悪魔の城にさらわれた姫なんていうから、もっとひ弱というか可憐なイメージだったのだがとんでもない。超アクティヴじゃねえか。何で槍振り回してんだ。何でドヤ顔なんだ。ていうか何で悪魔倒しちゃってるんだ。俺たちいらねえじゃねえか。

呆然と立ち尽くす俺たちに気が付いて、何かが近づいてきた。顔には角。赤っぽい顔に黒いマントを身にまとっている。まるで鬼だ。

「……君たちが迎えか。私はアルシエル。この城の主だ」

鬼は静かにそう言った。

「頼む、引き取ってくれ」

「……は?」

俺は大きく顔を歪めた。



「さあ、次の相手は誰だ?誰でもかかって来い!」

再び槍を構える銀髪の王女シルヴィア。ほんとに何してるんだ。

「おおおおおおっ!」

そして湧き上がるギャラリー。ノリノリだな、皆さん。

「……ん?お前たちは……」

呆れた顔をしていた俺に気が付いたのか、シルヴィアがこちらに向いた。戦闘服というような動きやすそうな服というには少々ぶかぶかのような気もする。いや、別に露出を期待していたわけじゃないからね?本当だよ?

「何だか今とてつもなく邪な気配を感じたのですが」

気のせいですね、もしくはスケベの妖精の仕業でしょう。

「お前たちが父上の寄越した見張りか」

「ハイッ!」

俺と鬼丸が二人同時に敬礼をする。いかん。反射的に王女が上だと判断してしまったらしい。

シルヴィアは近づき、静かに頷くと、

「うむ、ご苦労」

よかった、これでようやく帰れる……

「――と、言いたいところだが」

え、

「連れ戻したくば私を倒してみろ!」

やっぱり面倒だコイツ!!

王女のくせにわざわざ魔王のお仲間の城に行くなんて時点で薄々察してはいたが、これは重傷だ。王様が何であんなに面倒くさそうにしていたのか分かった。だって心配ねえもんこの娘。ただ強い奴と戦いたかっただけってどれだけバトル狂にできてるんだよ⁉

だが俺も男だ。お父さんが困ってるでしょ、いいから帰りなさいとビシッと言わねばなるまい。てか面倒くさい。何でだ。勇者っぽいイベントとか、隣の火薬女には立たなかったフラグ的な何かが建つことを期待していたのに、何でこいつこんなに主人公面してるんだよ。返して。俺の期待を返して。僅かばかりの期待をしていた俺の純粋な気持ちを返して。

刹那に巡った思考を脇にやり、俺は顔をしかめてみせた。別に泣きそうになったとかそう言う訳じゃない。一歩を踏み出してきっぱりと言い放つ。

「馬鹿なこと言ってないでさっさと――」

「頑張って、勇者様♡」

「え」

二人の気持ちの悪い声に嫌な予感をしつつ振り返る。鬼丸とレナさんが、静かに俺の足元を指さした。黙って下を見る。線だ。俺がちょうどその線を跨ったようにして立っていて、そしてそれはぐるりと闘技場全体を追っている。

「……」

線を目で追っていくうちに、シルヴィアと目が合った。シルヴィアがにやりと笑う。

ふむ。つまりこの線は闘技場のフィールドの境界線であり、俺はこれを踏み越えている、と。つまり俺はシルヴィアに、

「お前が相手(マト)か!」

おいなんか今明らかにおかしなルビ振ったろ。

シルヴィアが槍を横に薙いだ。のけぞるようにして躱すが、体がそのまま倒れ込んでしまう。

「でっ、テメっ、殺す気か⁉」

びしり、とシルヴィアが槍をこちらに向けた。

「馬鹿者、今のはお前が躱せるようにわざと遅く振ったのだ、それよりも本気でやれ――死ぬぞ?」

「今更何雰囲気出そうとしてんだよ!グダグダだよ!台無しだよ!」

「うるさいっ!」

今度は上から槍の穂先を地面に突き刺してくる。慌てて避けたものの、その余波で思いっきり吹き飛ばされる。あの女、素人に何てものをぶち込んでやがる。

このままじゃ俺が死ぬ。

「問答無用ってことかよ……!」

剣を構える。当たり前だが、剣なんて使ったことなんてないし、まともな運動だって中学以来何もしてない。戦えるかどうかわからないけれど、だからって大人しく殺されてやるわけにはいかないんだ。

「俺は何が何でも帰らなくちゃいけないんでな!」

覚悟を決める。やるしかない。さあかかって来やがれ!

と、思ったら王女の様子が妙だ。いつまで経っても仕掛けてこない。どういうことだろう。まさか俺の構えが隙なしだとか、そんなとんでもない勘違いをしているのではないだろうか。ごめんなさい、そんなんじゃないです。多分攻めたら一発で落ちます。なのでやるならさっさと、

「そ、それは聖剣?どうしてお前が……」

わなわなと震えだすシルヴィア。確かに聖剣だけど、別にこれそんな特殊な効果があるとは思えない。そこまで怯えなくてもいいのに。

「馬鹿な……ありえない、こんな、こんな奴に……」

何だよいきなりこんな奴って。失礼な奴だな。

「やはりこの国の人間である以上、勇者への期待が大きかった分、その現実との差に打ちひしがれて、戦意喪失した、と言う訳ですか……」

「成程、中々上手い手を使いやがる」

そこの外野二人も!何で今更解説者顔でしゃしゃり出てるんだよ⁉遅いよ!しかも内容が予想以上にくだらないよ!仕方ないけれども!

「いい加減、帰ってくれ……」

アルシエルが悲壮な面持ちで嘆いた。



結局、いやがるシルヴィアを引きずるようにして、城に着いたのは夜遅くだった。

「何か尋常じゃなく疲れたんだけど……」

「そりゃこんな脳みそ筋肉な王女のお守りなんて誰だって骨が折れますよ」

「おい」

「え、このわがままなお嬢さん、王女様だったんですか⁉」

「とてもじゃないけど信じられないよな……」

「貴様ら、無礼だぞ」

さっきから平民の方々と打ち解けすぎじゃないですか。お姫様ってそんなタレントじゃないんだから。

「シルヴィア様じゃないの、リンゴいる?」

「馬鹿かお前。皇女殿下は肉食いたいんだよ、肉」

「相変わらず小さいな、皇女!」

そして随分と気さくですね皆さん。分かってますか。王女ですよ。この国の偉い人ですよ。

「うむ。皆、出迎えご苦労」

シルヴィアの方も慣れているのか、街道をずんずんと進んでいる。おかしい。俺が迎えに行ったんだから俺が瀬等に立っていなくちゃいけないはずなのに、完全に俺が連れ戻された奴みたいになってる。俺が成敗された奴みたいな感じになってる。

「何だい、あの男二人は。新しい皇女様の下僕かね」

「おお、目を合わせるんじゃないよ、多分よくないものに憑かれっちまうよありゃあ」

「何だと、このっ」

「やめんか、みっともない」

「……」

いつの間にか指揮権を完全に掌握されている気がするんですけど。これが王族の血ってやつですか。カリスマ性ってやつですか。

「……何してる、さっさと行くぞ」

「へ、へえ」

俺本当に迎えに行く必要あったのかなあ。

そんなことを考えながら、俺は城門をくぐった。



「姫様あああああ!ご無事でしたかあああ!」

城に入った途端、ホークのおっさんが涙を流しながら、シルヴィアに突っ込んでいた。

「うむ、ただ今帰った」

シルヴィアの方は特に気にすることもなく対応しているが、あれって普通なのか?ひょっとしてヨーロピアン独特の、あいさつ代わりのスキンシップなのだろうか。

「噂通りの溺愛っぷりですね……」

「噂?」

「ええ。何でも妃殿下が亡くなってからホーク卿は皇女殿下警護の任に就かれたそうなのですが、やはり親代わりというか、あの淡泊すぎる陛下の埋め合わせのようにそれはもう……」

「こんな感じに?」

「ええ、こんな感じに」

それで今朝あんなに突っかかって来たのか。

「凄いだろ、あれ」

城から王様が苦笑いを浮かべて、顔を出してきた。まあ確かにすごいですけれども。あなたはどうしてそんなに他人事なんですか。自分の娘じゃないんですか。

「確かに並の娘だったら心配したかもしれないけど……シルヴィアって強いからなあ」

まあ確かに。あれなら自力で帰ってこれそうでしたもんね。てか俺要りませんでしたよね。

「でも、ホークが心配するからさあ、あいつそう簡単に城を出られる立場じゃないし。最近は物騒だからねえ。一応毎回迎えは出してるんだよ」

……成程。確かにあれだけ溺愛してりゃあすぐに迎えに行きたかったに違いない。それでもどうしようもないから仕方なく俺たちを送り出したということか。

涙を流しながら、怪我はないかとか、道中誰かに絡まれなかったかとか、無礼な真似はされなかったかとか聞いているホークに、シルヴィアは適当に返事を返していたが、

「そんなことよりもホーク。あれが勇者だってホントか?」

おっと?いきなり爆弾ぶちこんできましたよ、この子。

「まあシルヴィアは昔から勇者と結婚したいってずっと言ってたからなあ……」

そして更にとんでもない爆弾ぶちこんできやがりましたよこの方ぁ!

ほら見なさいよ!シルヴィアはなぜか顔を真っ赤にしてこっちを睨んでるし、

「緋村始ぇ……殺す、殺してやる……」

隣のおっさんに至っては、もはや殺気を隠そうともしない。なぜか片言になってませんか。大丈夫ですか。キャラぶれてませんか。てかこっち睨まないでください、怖いので。

「そもそも、なぜこんな弱くてもやしみたいなやつが勇者なんだ?何かの間違いか?」

弱いとか、もやしとか、何かの間違いだとか、所々のワードが胸に刺さる。中々言うじゃないのこの子。真顔で言われちゃったからお兄さん三回ぐらい死にたくなっちゃたよ。

「はは、お嬢さん中々きついなあ……」

「おい貴様、気安く姫様に話しかけるんじゃない。殺すぞ?」

「お嬢と被るだろうが、殺すぞ?」

「そこの馬鹿二人は事態が面倒になるから黙っててくださいよ、もう!」

こうも個性の氾濫というか、個性の暴力に晒されていると、どうしようもなく疲れる。なぜか城に帰ってからの方が疲労している気がするが一体なぜだろう。

「しっかしこの様子だとホーク当分使い物にならないし、今後のこととかは明日かな。お疲れ~」

王様のなんともだらしのない一声により、皆がしぶしぶ部屋をあとにする運びになったのだが……。

「何で付いてくるんだよ」

なぜか後ろに付いているのが、禿げた変態と隻眼の変態。何というか存在が暑苦しい。

素早く横についたハゲがすかさず言葉を挟む。

「コイバナしようぜ」

すかさず首を反対側に向ける。目に入ったのは

「で、姫様とどこまで言ったんだ?」

行ってねえよ、行きようがねえだろ初めましてだぞ。

「あの、僕部屋そろそろなんで……」

扉の目の前に立って丁重にお帰りいただこうかと思ったら、目の前から二人の姿が消えていた。

「まさか……」

慌てて後ろを振り返ると、ごそごそとうごめく人影が二つ。

「床下には何もなし、か」

「ラブレターもなし、ね……おたくら実際どこまで行ってんの?」

「ちょおっと待てええええええええええええええええええええええええええ!」

すぐに部屋を向かうがもう遅い。入ってからまだ一日もたっていないのに、俺の住処は早くもガサ入れに遭っていた。何もあるわけないじゃないか、この二日なぜか外で大騒ぎに巻き込まれてるんだからさ、主にあんたらのボスとお嬢のせいでな!

「いえこちらとしてもね~、確認しておきたいんですよね、うちは基本放任主義なんですけれども、やっぱNGなところまで行ってるのかいないのかっていうのはね、ちょっと気になるところではありますけれども」

うるせえよお前。誰だよお前。どこのマネージャーですか。

「嫁にする気があるのかないのか」

ねえよ、何でだよ、何ド直球にとんでもないこと聞いて来てんの。

「アホなこと言ってないで帰ってくださいよ、明日色々あるんでしょ?」

俺のお願いにも二人は気にすることなく、延々と部屋の物色を続けていた。いや、これは物色しているというよりも、むしろ……。

「ねえ、まさかとは思うけど居座る気じゃないよね?ねえ」

「何言ってるんだ、夜はまだまだこれからじゃないか」

「おい」

「安心しろ、お前には一睡もする暇は与えない」

「何だとコラ」

「「さあ、お前の罪を数えろ」」

「お前らさっさと帰れえええええええええええええええええっ!」


お待たせしました。新ヒロインです。それにしてもこいつらが冒険を始める日は来るのでしょうか……。ですがご安心を!多分次回くらいから話が動き始めます!多分!

問題はネットが死んでいることですね……大丈夫かなあ……


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