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第二話 暗殺者と魔女

「勇者様に、敬礼――!」

「は?」

城に戻ると、先ほどまでこちらを血眼になって探していた兵士たちが一斉にこちらに向かって敬礼をした。赤い絨毯を挟むように姿勢を正し、ずらりと並んでいる姿は流石というべきか、なかなか様になっていた。

そして絨毯の先にある階段。

いかにもな大理石の階段をこつこつと音を立てて降りてくる二人の姿があった。

「んだ?あれ……」

一人は屈強な戦士だった。辺りにいる兵士とは一線を画した銀に縁どられた赤い鎧に身を包み、目には真っ黒な眼帯。髪はきれいな銀髪で、額には銀の髪が何房かはらりと落ちている。

もう一人もがたいは隣の男と大差がないが、ローブを纏い、ひげを伸ばしている様は戦士というよりもむしろ学者というのが相応しかった。

ぼうっとしていると、鎧を着た方がこちらを見て、

「貴様、陛下の御前であるぞ」

「いいんだよホーク、彼は国賓なんだから」

止めたのはローブの方。彼は傍らの騎士を下がらせるとこちらに向き直って

「いやあ、さっきは中々効いたよ、筋がいいね、君」

「え?」

よく見れば、男の頬には大きなあざが残っていた。

つまり、さっき殴ってしまったオッサンは今目の前にいて。おまけに陛下って呼ばれているってことはここに立っている人は、本当に偉い人で文字通り王様なわけで。

ということは俺はこの王様に盛大にパンチを決めてしまったことになるのではあるまいか。

「……ごめんなさい」

とりあえず俺にできるのは、間抜けに頭を下げることぐらいだった。



「いんや~、悪いねえこんなところに連れ戻したりなんかして」

謝罪を終えしばらくしたのち俺は自己紹介を済ませた。一方王様はもといた玉座に戻り、かなりリラックスした状態で俺と話をしている。どうもこの距離感でないと話がしづらいらしい。ナチュラルに人を見下しているあたりは流石王様、なんだろうか。いや、何ごく自然に見下ろされてるんだ俺。もしかして俺が見下ろされてるのに慣れてきただけなんじゃないのか?

「……どうしたそんな卑屈な目をして」

「いえ、なんでもない、なんでもないんです」

「そうか、ならいいんだが……」

はて、と王様は手を顎にかけ、そのまま考え込むように

「はてさて、どうしたものか……」

「どうするも何も、勇者であるなら教会に勘づかれるまでに旅に出てもらうしかないだろう」

横から隻眼の騎士――ホーク・バーンズさんが横から口を挟む。

「いや、あの……さっきから何なんですか勇者ってもしかして俺のこと?」

二人はきょとんとしてそのまま顔を見合わせた。

「だって君、それ抜いたんだろう?」

王様は俺が手に持っている剣を指さして言った。

「まあそうだけど」

こんな錆びた剣を抜いたことがそんな自慢になるとは思えないのだが。

「驚いた、本当に何も知らないのか……この国の人間だったら勇者伝説のことを知らないやつなんていないのに」

「見慣れない服だ、この国の人間ではないのだろうな、勇者伝説を知らなぬというのもあながち嘘ではないのだろう」

ホークのおっさんがそう答えると、再び王様は考え込んで

「ふむ、いいだろう――では初めから説明しよう。 いいかい勇者君、ここはリヒテンブルク皇国。それで君が手に持っているのは聖剣ってやつでね、先代の勇者様が色々あってその剣を今でいう聖剣広場のに突き刺し、こいつを抜くことができるのは俺か、次の勇者だけだって言ったのさ。 それから何人もそいつを抜いてやろうとしたんだけど結局うまくいかなかった。 それを君が抜いちゃったからみんな大騒ぎしてるってワケ――ここまではオーケー?」

「は、はあ……」

「よろしい、んで勇者って何かってことなんだけど……ぶっちゃけ俺にもよくわかってないんだよね~」

「は」

「いや勇者って基本的におとぎ話みたいな話だし?おまけに先代はちょっと特殊でねえ、結局殆ど何もしてないから、直接何かを知っているってわけじゃないんだ。 ただ世界が危機に陥ったとき、勇者はそれを救いに現れる。 これだけは間違いない事実なんだ」

「は、はあ」

正直混乱していた。訳も分からずこんなところに呼び出されて、挙句お前は勇者だとか、世界の危機を救うもんだなんて言われても、こちらとしてははあそうですかとしか言うことができない。

「あ、あの」

しかし、それでも俺は聞いておかなければならないことがあった。

「ん?大丈夫だって、ホークはああ言ってるが流石に何の伝手もない奴をほっぽり出すほど俺らも外道じゃないしね」

「いや、そうじゃなくて」

それは俺がこの世界に来る前のこと。つまりは彼女のことだ。

「俺が出てきたとき、他に誰か来ていませんでしたか?その、女の子とか」

王様はホークさんと顔を見合わせた後、首を横に振る。

「いや、俺たちは君しか見てないが」

取りあえず、彼女はこの世界に来ていない、ということだろうか。

「そうですか……」

だとしたらそれはきっといいことなのだろう。こんな面倒なことになるのは俺だけで十分だ。

珍しく体を張った意味もあったのかな、なんてそんなことを考えた。



とりあえず、今後このことは明日相談しようということになり、王様に頼んで宿をとってもらった。王様は城に止めてくれるといったが、なんだか居心地が悪かったので、無理を言ってとってもらった。せめて護衛をつけろと言われたが、それも断った。危険だというのもなんとなく分かっていたが、それでも今は一人にりたかったのだ。

とにかく、落ち着いて整理しよう。

一、俺は杉崎と一緒にいたときになぜかここに来てしまった。

二、俺はなぜか勇者しか抜けないなんて言われていた聖剣を抜いてしまった。

……いくらなんでもぶっ飛びすぎだろう、これは。

大体勇者ってあれだろ?なんかすごい魔法が使えたり、剣からビームが出たりしちゃうようなレジェンダリーな連中だろ?普通に考えて俺が勇者になれるわけないじゃねえか。

それともここに来てしまったことで俺は何か特別な力に目覚めてしまったりしちゃったんだろうか。そんなことになったら俺どうしよう。世界を救う途中でもう女の子にモテモテな毎日を送ることができちゃうんじゃなかろうか。いや、きっとそうに違いない。そうだ。それに俺は勇者ではないか。きっと何か特別な力を持っているはずなのだ。

試しに魔法でも撃ってみようか。

「確か、おっちゃんはこう……」

指先で空中をなぞってえみる。護衛のおっちゃんの見様見真似でとりあえず、

「ええと、呪文は確か……『我、古の契約に従い大気の雷を震わす』……」

……そもそも指先に光も走らない。きっと俺は魔法には向かないからだなんだ。きっとそうだ。じゃなきゃ勇者なのに全く頼りにならないやつみたいになっちゃうじゃんか、そうだきっとそうに違いない!ていうかそうであってくれないと俺としても立場がないのだが。

てか俺人前で何口走っちゃってるんだろう。いきなり我とか言い出しちゃってキャーッ、恥ずかしいーッ!ほら心なしか街の人たちの目が優しいよ、なんだか『魔法使いにあこがれてるんだけど実際はそんなに大したことない可哀想な子』みたいな目で見ちゃってるよ!そこの八百屋のおばちゃんとか、あそこの武器屋のおっちゃんとか、あとそこの通りの影からコソコソと様子をうかがってる黒頭巾の暗殺者みたいな人とか!

「……ん?」

見ると、黒頭巾は指で空をなぞっている。そこには光によって魔方陣が描かれ、

「我、古の契約に従い、天駆ける火竜の息吹を放つ――轟炎」

途端、魔方陣から炎が這うように飛び出した。

「へ?」

炎がすぐ横を通り過ぎる。熱気とそして空気が薄まったような苦しさが、体を覆った。

てか今の、もしかしなくても俺を狙ったんだよな?

「くそ、運のいい奴め」

そういうと、黒頭巾はもう一度手で魔方陣を描いて、

「我、古の契約に従い、大気の雷を震わす……」

「って、ボーっとしてる場合じゃねええええええ!」

黒頭巾が魔法を完成させる前に、俺は走り出した。

てか今日俺どんだけ走ってるんだよ……。



「おとなしく神の裁きを受けろおおお!」

「テメエ神様じゃねえだろうが! てかその黒頭巾何のためにあるんだよ、隠密行動する気ゼロだろ!」

「やかましい!お前が一撃で死にさえすれば問題ないのだ!」

「んなこと言われて素直に死んでやる奴があるかあああああっ!」

「やかましい――我、古の契約に従い、大気の雷を震わす――揺雷!」

雷の矢が地面を抉る。止まるわけにはいかない。止まれば死ぬ。そんなこと考えなくたって分かった。

「くっそう、何で俺ばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないんだ……!」

ぼやいたところでどうにかなるわけじゃないが、しかしいくらなんでもハードすぎるだろう、こんなの。

しっかし妙なもんだ。この暗殺者、暗殺者のくせに暗器の類を用いようともしない。さっきからよく分からない魔法を撃ってばかりだ。ホントに暗殺者なのか?

「ええい、ちょこまかと……こうなったらあの術式を使うしか……」

何だ、まだ何か隠してるのかよ、もう驚かないぞ、驚かないったら。

「あ、行き止まりだ……」

方向なんて気にしないで走っていたせいか、気づけば俺は壁際に追い詰められていた。

暗殺者が追いつき、俺は敵の正面を向いた。完全にふさがれた。このままではますい。

「えと、その、これって相当まずいんじゃ……」

「ふはははは、ちょこまかと逃げやがって、今度こそ逃がさねえ、我――」

いよいよこれは駄目かもしんないなあ、なんて思った。流石にこの状況をひっくり返す手立ては思いつかなかった。あの錆びた剣じゃこいつの攻撃を受けることもできないだろうし、だからって走って避けることもできない。状況は絶望的だ。これがいわゆるチェックメイトってやつだろうか。

「古の契約に従い、紅なる光の刃を放つ――紅牙!」

血しぶきのような刃が俺の首元に押し寄せた。このままでは首が飛ぶだろう。避けようにも体が動かない。奇妙だ。恐怖とは少し違う。これは戸惑いだ。自分の体が自分のものではないような、そんな感覚だ。

「……」

シズカニコシヲシズメテ。

スベテヲコワセ、スベテダ……。

ワレノナヲヨビ、

スベテノユガミヲソノミニクラエ――

「あ……」

なぜだか名前を知っている。

呼ぶべき名前を知っている。

だから俺はその名を――

求められている名を……。



その時。

「ほっ」

紅なる刃が、音を立てて消えた。

「何……?」

黒頭巾がうめくように呟いていると、その上からひらりと何かが落ちてきた。

それは女だった。年齢は俺と同じくらいだろうか。短く髪を切りそろえた、女の子。

女の子はひらりと音を立てずに着地し、俺と黒頭巾の間に立った。

「えと……誰?」

「……チッ」

うん?今ごく自然にしたうちされたような気がするぞ?

「貴様……何者だ」

静かに腰を沈めると、黒頭巾は腰に手を忍ばせた。先ほどよりとは比べ物にならないくらいの殺気が放たれる。俺の時でも、結構強かったように見えたけど、それ以上だ。

俺が動けなくなっているのもお構いなしに、目の前の舌打ちしやがった女(敬称略)は肩をすくめた。あれだけの殺気を受けてちっとも動じないとは。一体何者なんだこの女。

やがて女が口を開いた。

「成程、汎用術式を用い身元の特定を避けましたか。 確かに悪くない作戦ではありましたが……間違えましたね、寄りにもよって紅牙を使うとは。あれは旧帝国軍陸軍の隠密行動部隊で用いられていた術式です。 かなりの好みが分かれる術式ですし、今ご存命の方ですと、紅牙をご教授できるクラスの実力者といえば……レスター閣下ですか。 そしてレスター閣下は熱心な教会の信者と聞きます……確実性を求めるあまり、慢心しましたね。 おとなしく揺雷を放ち続けていれば、身元の特定を避けられたかもしれにのに」

黒頭巾は何も答えない。もしかして図星なのだろうか。いや、レスターだの教会だの、何が何だかさっぱりですけど。てかお前誰だよ。

「……」

「やーい、何とか言ってみやがれこの野郎!」

「うるさいですね、燃やしますよ?」

「ごめんなさい」

何だよこの女。せっかく応援してやろうかとおもったのに。ちょっと冷たすぎるんじゃないの?都会のそういうところ、お兄さんは良くないと思います!

「まあ、邪魔者のことは置いといて……私が誰かと聞きましたね? でしたらこれでお答えしましょう」

そう言うと、彼女は両手を上げて、

「――」

静かに息を、吐きだした。

途端。

世界が一変した。

ごうという音と共に、炎が三人をまるで縁で囲むように、地を走った。そして、そのまま彼女は、

「――」

それは歌だった。言葉はよく分からなかったが、抑揚を利かせたその言葉は、先ほどの男の呪文とは明らかに違う。

やがて、彼女の歌は少しずつ、静かに盛り上がりを見せ、

「燃えろ」

爆発した。

それは一瞬。本当にわずかな間だった。今までの呪文の詠唱の時間とは比べ物にならない、早撃ちの火矢。

「くっ……」

黒頭巾は、懐から短刀を取り出し、それを投げた。火矢に当たり、両者が拮抗する。

「お――!」

その間に黒頭巾は間を詰めた。一気にこちらに駆け寄り、隠していたもう一本の短刀で、

「死ね、女ァ!」

女に襲い掛かった。

「危ねえ!」

慌てて女に駆け寄るが、間に合わない。短刀は外から抉るような弧を描き、女ののど元に――

「……やれやれ」

女がそう呟くと。

横から炎が男を殴り飛ばした。

「がっ」

「勝ちに急ぎすぎましたね魔術師なら常に相手の裏を読め、これが鉄則だというのに」

崩れ落ちる男を見下ろしてそう呟くと、女の子はこちらを向いた。

「えと、その……」

「ハァーッ、チッ」

「え?」

女はそういうと、

「鬱陶しいですね、近づかないでくれませんか馬鹿が移るので」

そのまま男の首根っこをひっつかみ、ずるずると引きずろうとして……。

「む、重いですね、この……」

無理だったらしい。

「あの、良かったら手伝いが必要だったりなんかします……?」

「は?調子乗らないでくださいあなたみたいなへっぽこに求める助けなどありません」

「なっ、へっ……」

このアマ、などと言わなかったのは日ごろから鍛えていた自制心の賜物という奴だろう。いくら助けてもらったからとはいえ、ここまでボロクソに言われる筋合いがどこにあるのだ。俺は今、間違いなくここで怒ったっていい……!

「おいアンタ、いい加減に」

「あ?」

「――しろなんてそんな馬鹿なこと言う奴どこにいるんでしょうかね、いやあはははは」

くっそう、負けた。いや、思えば最初からナチュラルに敬語使ったりしちゃってる時点で俺はすでに負けていたのかもしれない。勝負はリングに上る前から始まっている。先人の言葉は正しかったというのか……。

「そんなことより見るからに暇そうですね、そこのあなた、私はこれから人と会う約束があるので、ちょっとこいつ城まで運んでおいてくれませんか」

「は」

「全く、これから勇者様に会おうというのに、こんなボンクラ相手にとんだ時間を食ってしまいました、どうやって落とし前つけてしまいましょうか」

「えっと……」

「燃やしますか、この際燃やしてしまうのもそれはそれで有りですね」

「あの、すみません」

駄目だ、もう耐えきれねえ。恥ずかしさで、これ以上平静を装うことができねえ……っ。

「あの、俺……勇者なんですけど」

「……は?」

後れてすみません。誤字が多すぎた……。

ちょいと多いですが、ヒロイン登場です。口が悪いのは萌えポイントということで一つ。

それではまた次回

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