第四十三話 彼と彼ら
「……フン」
山から出てくる三人を、ジークは遠くから見下ろしていた。先の負傷はまだ癒えていない。結界も使用できない以上、三人を相手にしなければならないが、今の状態では困難だろう。故にジークは手を出さない。一時的な同盟は既に解除されているが、今すぐに仕掛ける意味もない。追跡し、隙を窺おうとジークは立ち上がった。
「派手にやられたな」
背後からの声に、ジークは動きを止める。その声には聞き覚えがあった。視線をやると、長髪の僧服を着た男が一人。そして、その後ろには同じ格好をした二人が控えている。
「ケケッ、無様ですなあジーク君」
「黙って」
道化のような化粧をした男に、幼い少女。端から見れば奇術団か何かと勘違いされそうな面々だが、その正体は着ている服から明らかだった。
「異端審問官が何の用だ」
「そうつれないことを言うな、知らん仲でもないだろう」
「物は言いようですねっぐふうッ!」
道化の腹に少女が拳を叩き込んだ。
「突っ込むのもう面倒だから」
「相変わらずどぎつい一発……」
「北の方で動きがあったのでな。少しばかり忠告に来た」
奥でもぞもぞと動く道化を無視しつつ、長髪はジークに話しかけた。それにジークは特に反応を示さない。しかしそれを気にせずに長髪は続ける。
「アスタル経由で八位の副官がリヒテンブルクに入ったようだ。大方この国の貴族が雇ったのだろうが、無闇に衝突する必要もない。今の貴様に何かできるとは思っていないが、念のためにな」
「八位……枢機卿か」
枢機卿とは聖王国、その上に立つ幹部のことである。実力者が勢ぞろいしており、一人で一国の軍隊に匹敵する実力を持つとも言われている者たちだ。副官とはいえ、その関係者が皇国に来る目的はただ一つだろう。
「……勇者か」
「そう言うことだ。貴様が勇者を追いかければ高確率で奴らとぶつかる。今教会と対立するのはあまり好ましいことではない。故に大人しくしてもらいたい」
「貴様に指示される謂れはない。無駄足だったな」
そう言ってジークは立ち上がる。
すると……。
「勘違いをするなよ」
長髪は首に黒鍵を這わせた。少女と道化もいつの間にかジークを囲むように立っている。
「我々はお前に命令できる立場にはないが、従わなくていいと言ったつもりはない」
「これが忠告か」
「貴様が素直に従えば、そうなる」
ジークはため息をつく。普段ならいざ知らず、今は負傷している。ここで三人を相手にするのは愚策だろう。今は逆らうべきではない。
「……分かった」
そう言うと長髪は静かに離れた。
「協力感謝する」
それだけ言うと、一瞬で三人の姿はかききえた。三人がいた痕跡は最早ない。
「……」
ただ一つ、地面に刺さった黒鍵を除いて。
それが果たして何を意味をしているのか。
「……フン」
ジークは黒鍵を一瞥すると、そのまま通り過ぎた。
あとには黒鍵がただ一つ、残されていただけだった。
二話連続……と言って良いんでしょうか、まあこれにて二章は完結です。次回からは第三章ということで新キャラもバンバン登場予定です。ひとまず次は正統派美少女の予定。どうかお楽しみに!




