表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/49

第四十二話 俺と彼女たち

目が覚めると、俺は闇の中にいた。

「ここは……」

記憶にある。おそらくは王都での戦いの後。俺が意識を失った後導かれた場所にそこはひどく似ていた。

「お久しぶりね、勇者様」

女の声。その声もやはり聞き覚えがあった。

「始めまして……じゃないよな、一応」

以前はこちらの話が聞こえている感じじゃなかった。だが、今回女は俺の話を聞いているように思える。

「ええ。残念ながら今の私は完全じゃないわ。それでもこうして話せているのは貴方がより一つ私たちに近づいたからに他ならない」

「私たち?」

「勇者。あるいは魔王。人の理から外れつつある存在。貴方が何かの力を手に入れるたびに、私たちは貴方の力を強く感じることが出来る」

ぽうと光が灯り、俺の目の前を照らした。ゆっくりと近づくと、光はすり抜けるように俺の頭上へと移動する。

「残念だけど、私に触れることはできないわ。それが出来るのは一人だけ」

「そうなの?」

「貴方にだっているでしょう?この人になら、と思えるような人が」

どうだろうか。

俺にとって、大切な人。

――緋村君分かってない、分かってないよ……。

「この世界には……いないよ」

杉崎。俺がこの世界に来る前、唯一守りたいと思い、守りきれた人。守りたい彼女がいないということは守りきれたという証であり。それ故に俺はどこか誇らしげに応えた。

だが。

「いいえ、いるわ」

女の声はきっぱりと、俺の誇りを否定した。

「でも……」

 王様は言っていたんだ。俺がこの世界に来たとき、そこにいたのは俺だけで。俺以外の人間はいなかったって。つまり杉崎はこの世界に来ていなくて、元の世界にいるはずなんだ。

「貴方は知らないのよ。この世界の勇者と魔王を繋ぐ絆は、そんなに甘くはないわ。貴方が大切だと思っているのなら、きっと彼女もそう思っているはず。そして、だからこそ彼女もこの世界に導かれる」

そう言った彼女の顔はどこか悲しげだった。だからだろうか。俺は彼女のことをもっと知りたいと思った。

「あんたの大切な人って……」

「分かってるでしょ?」

「先代勇者か」

女は答えない。光は僅かに点滅すると、じじじという音を立てた。

「……今回はここまでね。ひとまずは七人の英雄を探しなさい。あなた自身にとっても必要なことのはずだから」

「ちょっと待ってくれよ、まだ」

「どうかお願い。あの人を、救ってあげて」

光はそのままいくつもの欠片に散って、消えていった。

「……」

――そして、だからこそ彼女もこの世界に導かれる。

「俺は……」

静かになった暗闇で、声が返ってくることはなかった。



目を覚ますと、虹色の空が俺の視界一杯に広がっていた。

「ここは……」

「気が付いたようじゃな」

目の前にいたのは賢者様だった。ということはここは賢者の山の中か。どうやら俺はジークとの戦いの真っ最中に意識を失ってしまったらしい。

「えっと……」

「済まなかった」

賢者様はいきなり俺に深々と頭を下げてきた。いきなり頭を上げられても正直訳が分からないんだけど。

「契約とはいえ、儂はお主が苦しんでいるときに何もしなかった。この罰は……」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

俺は慌てて賢者様を遮った。

「何のことだか俺にはさっぱり……」

「お主、覚えていないのか……?」

賢者様はきょとんとした表情になる。俺は深く頷いた。ジークが大剣を振る降ろしたところまでは覚えておるのだが、どうもそこから先の記憶は曖昧だ。熱に浮かされていたような、ただ闇の中で何かの声が聞こえていたような気がする。

「そうか、実はな……」

賢者はゆっくりと口を開いた。



「そうですか……」

賢者から聞いた話は想像していたよりも物騒なものだった。まさか俺自身が化け物になって皆を襲うなんて。俺自身にそんな力があったことにも驚きだし、そして何より

「俺が、皆を……」

理性を失っていただとか、記憶がないだとか、言い訳はいくらでも立つだろう。でも、そんなことはしたくなかった。確かに俺はあの二人に比べれば雑魚だ。二人にとっては足手まといみたいなもんだろう。それでも、俺はあの二人とは対等でいたいと、どこかでそう思っていたのも事実なのだ。

「ワシから何かを言うのも筋違いかもしれんが……」

そんな俺を見て賢者様が口を開いた。

「思うことがあるならば言葉を尽くすのが肝要じゃ。尽くさなかったが故に、多くの後悔を抱えた者を、ワシは知っておる。千年も生きておれば特にの」

「千年……」

賢者様はそんなに生きてたのか。確かに長生きしてそうだなあとは思ってたけど。 

「年寄りの戯言じゃ。何だったら聞き流してもらっても構わん」

そう言うと、賢者様は姿を消した。

そして同時に。

「皆……」

「無事だったか」

「ひとまずはお帰りなさいですかね」

目の前にはレナさんとシルヴィアが立っていた。

「ああ」

二人はそう言って穏やかにほほ笑んでいた。まるで俺の暴走など、なかったかのよう。

でもそれじゃ駄目なんだ。

「それではさっさと行きましょうか」

「取りあえずは聖痕を持つものを探さなくてはな」

俺は確かに無力で、頼りないかもしれないけれど。ただの荷物持ちでもこの二人には頼ったり、頼られたりしたいと、そう思うから。

「さっき、聞いたよ」

我ながら話題を変えるのが下手だなと思いながら。それでも俺は口を開く。

「俺、二人に迷惑かけたよな。いや、迷惑なんてもんじゃないけど……」

がしがしと頭をかく。情けなくって仕方がない。覚悟を決めたと言いながらこのザマだ。それでも、俺は伝えなくっちゃいけない。

「済まなかった」

俺は頭を下げた。情けないにも程がある。これじゃあ許してくれと言っているようなものだ。俺が伝えたいのはそんなことじゃなくて。

「いや、そうじゃなくて、ええとその……」

口を開いても言葉は続かない。伝えたかった言葉はずっと簡単なはずなのに、どうしてこうも上手くいかないんだろう。

すっかり黙り込んでしまった俺を見て、二人はお互いを見合わせた後、やれやれと言った顔をして、二人は言った。

「まあ言いたいことは分かりますが……」

「そう気負うことでもあるまい。結局何とかなったわけだしな」

「いやでも……」

「つまりだ」

シルヴィアが俺の前に指をさして言った。

「お前がこれを借りだ何だと考えているならお門違いだということだ。私たちは仲間で、仲間が困っている以上手を貸すのは当たり前なんだから、いちいち貸し借りを言い合う必要はない」

「結構恥ずかしい台詞をよく言えますね」

「うるさい」

レナさんの冷やかしも気にせずシルヴィアが続ける。

「そんなにお前が貸し借りがどうとか言うのなら、お前がこんどは私たちを助ければいい。それでチャラだ。何か文句があるか」

ふんす、と胸を張るシルヴィアがどこかおかしくて俺は吹きだした。それにシルヴィアが顔をしかめる。

対等かどうかなんて考えていたのはどうやら俺だけだったらしい。彼女たちにとって俺はとっくに仲間で、だから助けるのは当たり前。勝手に壁を作っていたのは俺だけだったわけだ。

「じゃあまあ次はもちっと活躍できるように頑張りましょうかね」

「うむ、頼むぞ」

「まああまり期待はしてませんけどね」

「ひでえな!」

やいのやいのと言い合うこんな関係がもう少し続くといいなと願いながら、俺はゆっくりと立ち上がった。

「そんじゃまあ、行こうかね」



鳥居の前まで歩いてくると、賢者様が立って待っていた。

「思いは固まったかの」

「お陰様で」

賢者様は満足そうに頷くと、

「先に言ったことを覚えているか?」

「聖痕のことですね?」

レナさんがそう言うと賢者様は再び頷いた。そして、手をぱんと打つ。すると頭上にホログラムのようなものが浮き上がった。いくつもの光の点が瞬くそれは、まるで夜空のようだった。

「星を読むのがワシの趣味みたいなものでな。まあこれはその見取り図のようなものじゃ」

賢者様はもう一度手を叩いた。同時に光の点がいくつか赤く光る。その数は七。

「聖痕を持つものは全部で七人。うち一人はここにおり、動き回っておるのが三人。二人が固まっており、もう一人も動かず、と言ったところかの」

そんなことまで分かるのか。便利だな星占い。もう七人の居場所特定できちゃってるよ。

「動き回っている者たちを見つけるのは至難の業じゃろうな。動かぬ一人を探しに行くのが良いじゃろう」

「固まってる二人の方が良くないか?」

俺はふと思ったことを口にした。二人の方に向かった方が戦力も一気に上がるし、効率がいいような気がするんだが、なぜこちらからなのだろうか。

「それは難しいでしょうね」

レナさんが横から口を挟んだ。

「先代勇者が行方をくらましたとき、二人が行動を共にしたと聞きます。固まっている二人はおそらく先代に付き従っているはずです。彼らが我々に協力的である確率はかなり低いでしょう」

「成程」

つまりは消去法的にこの一人に縋るしかないというわけだ。

「随分と詳しいんだな」

シルヴィアがレナさんに問いかけた。

「師匠は先代と旅をしていましたから。尤も袂を分かったとか何とかで晩年は魔術学院にいましたが」

「だったらこの一人と言うのには心当たりがあるんじゃないのか?」

「さあ、私もそこまでは……」

「ならば、お主たちのことを占うとするかの」

賢者様が三度手を叩いた。赤い光は消え、今度は四つの光が四方向に散らばる。うちの一つがより強く輝いていた。

「北に出会いがあると出ておるな……」

「北ですか」

「出会い、ねえ」

「おい何に反応してる」

俺のリアクションにシルヴィアがゴミを見るような目でこちらを睨んでいた。いや、別に出会いってそういう出会いを期待してるわけじゃないよ?本当だよ?

「心当たりがあるわけじゃないですし、ひとまずは北を目指しましょう。アスタル帝国まで行けば傭兵から情報も買えるかもしれませんしね」

「傭兵か……」

「言っておきますけど傭兵に喧嘩を売るのは無しですからね」

シルヴィアがしゅんと下を向いた。バトルが絡むと本当に残念になるなこの姫さん。

「さて、方針も決まったことですし、さっさと行きましょうか。善は急げと言いますしね」

そう言うとレナさんは歩き出した。シルヴィアもそれに続く。

「それではお世話になりました」

俺は頭を下げると二人を追いかけた。賢者様は手を軽く上げて、それに応えてくれた。

いつか再び会う時は、もう少し強くなっていたいと思いながら、俺は鳥居をくぐった。


大変お待たせしました。一か月くらい何もしてない気が……。そんなわけで皆さん、あけましておめでとうございます。(二〇日遅れ)今年ものんびりまったり投稿していく予定ですので、宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ