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第四十一話 ソロモン・ロー

ジークは手元の魔力に意識を集中させる。

「ぐっ」

手元の魔力は既に暴発寸前だった。元々この魔剣は刀身に魔力を対流させ、切れ味を上げるというシンプルな造りだが、あまりに巨大な魔力であれば、思うように対流させるのも一苦労だ。一瞬でも気を抜けば、流れている魔力は暴発し、最も近くにいるジークを切り裂くだろう。故に、今は耐える。あの二人が自分を守ると信じ、魔力を貯め続けるしかない。

「全く、馬鹿な女どもだ……」

つい先ほどまで殺し合っていた男の力を当てにするとは。確かにそうしなければどちらも助からないのは事実だが、しかしそれでも何のためらいもなく、肝心のとどめを当てにするとははっきり言って愚かだ。抜けているのかあるいは大物なのか。どちらにせよ並の人間ではできない。

「だが、まあいい」

せいぜい後悔させてやるだけだ。この一撃で勇者を殺し聖剣を奪う。あの二人は確かに難敵であるが、消耗しているのは互いに同じ。ならば仲間の死に動揺した一瞬、そこで相手の虚を衝くことは可能だろう。そのときになって思い知ればいい。自分たちが同盟を結んだ相手が、どれだけ容赦ない男なのかと。

「それまでは死ぬなよ」

自らの企みのため。この必殺の一撃のために、どうかその間は彼女らに生き残って欲しいと、ジークは願う。

今まで抱いたことのない感情を胸に、ジークは剣に意識を集中させた。



放った火矢はことごとく、弾き飛ばされた。

「……」

レナは冷静に状況を分析する。混乱はない。あれはどういう訳か魔術に強い耐性がある。加えてシルヴィアの物理攻撃にも順応している様子だ。故に短期決戦。早急に決着をつけなければ、魔術も物理攻撃も全く通じなくなってしまうだろう。

「相当貫通力も強化したのですが……策を弄するのが馬鹿らしくなってきますね」

圧倒的な力の差。それは果たして兵法によって覆せるのか。分からない。だが、やるしかないのだ。

「おそらくあの正体は……」

レナはただ闇雲に魔術を放っていたのではない。あの獣がもつ魔術耐性、そして弱点を探るべく、あらゆる急所を狙っていた。結果分かったのはあの獣に急所などというものは存在しないということだが、もう一つ分かったことがある。

「あれはおそらく、シン」

先日王都で戦った黒い巨大な影。魔力を吸収するあの化け物と、この獣は非常によく似ていた。黒い全身や、理性を失っているところ、加えて異常なまでのタフさも共通していると言える。故に倒す方法はおそらく、

「同時に許容できないほどの魔力を流し込めば……!」

シンを倒す方法は二つ。一つはシンを祓う儀式魔法を用いること、そしてもう一つは許容量を超える魔力を流し込むか。ジークの神器、シルヴィアの疑似神器、そしてレナの魔術。その全てを相手にぶつければあるいは獣を鎮めることができるかもしれない。

シルヴィアが獣を引き留めている。その足や腕には、血が滲んでできたであろう朱色。レナはそれを見ても何も言わない。こうなることは予想していた。だが、今はシルヴィアに託すしかない。それにレナには確信に近いものがあった。

「ここで死ぬほど、あなたは柔じゃないでしょう⁉」

叫ぶと同時に体を引き絞る。弓をつがえるがごとく、腰を鎮め、右手を地面に這わす。そのまま右手に魔力を集中させ、狙いを一点に定める。

狙いは勿論、眼前の獣ただ一つ。

「今です!」

レナが叫ぶと同時にジークが剣を大きく持ち上げる、黒い魔力の奔流が、元の三倍はあろうかという刀身を作り出していた。

「タイラント――」

ジークが神器の銘を唱える。それにより、神器のまとう魔力が再び増大した。

「ソオオオオオオオドッ!」

ジークが剣を振り下ろす。解放された魔力の斬撃はそのまま獣に迫った。

「我、古の盟約に従い、焔の精霊の怒りを振り下ろす」

レナも術の詠唱により、魔術の威力を増大させる。そのまま手元の火矢の大きさは先ほどの五倍はあり、渦を巻きながら周囲にもちろちろと火花を散らせた。

「――不知火」

ごう、という音と共に、火矢は射出され、分裂と合体を繰り返し、その速度を上昇させている。



そして。

「――やれやれ」

迫りくる二つの攻撃を前にして、シルヴィアは笑う。容赦のない全力。おそらく喰らえば自分はひとたまりもないだろう。だがシルヴィアは先ほどのレナの言葉を聞いていた。

――ここで死ぬほど、あなたは柔じゃないでしょう⁉

「当たり前だ!」

シルヴィアは手元に槍を作る。これが最後の槍。最後の槍でシルヴィアが突き刺したのは獣ではなく、

「シッ」

地面。そのまま棒高跳びの要領で飛びあがると、獣の頭上へと舞い上がる。

「これで……」

シルヴィアはそのまま槍を勢いよく獣に叩きつける。その反動でシッルヴィアの体は再び高く舞い上がる。

「終わりだあああああああっ!」

それと同時に、シルヴィアの真下で激しい大爆発が起きる。シルヴィアはものの見事に吹き飛ばされた。だがこれで王手。直撃するよりはマシだ。

だが。

「グオオオオオ!」

「まだ足りないのか……」

神器、疑似神器、それにレナの魔術をその身に受けても獣は倒れない。まだ倒れぬと天に向かって吠えていた。文字通りの全力。力を使い果たしたシルヴィアに対抗する策は、もう無かった。



「いいえ、十分です」



レナの声が響く。それはレナだけが考えていた秘策。シンにのみ通じる、最後の一手。

シンを封じる手は二つ。即ち膨大な魔力を注ぐことと、専用の術式による儀式を行うこと。前者は確かに失敗したかもしれないが、後者の可能性はまだ残っている。

「塵は塵に、灰は灰に」

先に放った火矢は七十二。獣に弾かれたはずのそれは、綺麗な円を描いていたことに気づいていた者はいないだろう。そして、強力な魔力を受けた獣は、今完全に五感を奪われていて動けない。

「その身の歪みを解き、世界はあるべき姿へと還る」

シルヴィアに獣を足止めさせたのはそのため。魔力によって皆の五感が狂っているだろうが、この展開を読んでいたレナだけは、獣の位置を記憶していた。

魔方陣が展開される。それは獣を照らしたまま、ぐるぶると地面を回り始めた。

「勇ましき英雄たちよ、どうかその涙で世界を流し清めたまえ」

獣はようやく異変に気付いたのか暴れ始めるが、最早魔方陣から出ることは叶わない。

「ソロモン・ロー」

同時に魔方陣から光の柱が立つ。獣の外皮から黒いものが剥がれ落ちていく。そしてその下から始の顔が覗いた。

獣はシンと同じ。故にシンを祓う術式によって、獣を倒すことも可能。根拠のない博打ではあったが、成功だ。獣は徐々に始としての姿を取り戻していった。

「あ……」

レナは膝から崩れ落ちる。魔力を使い果たした。最早火の玉一つ作ることも出来やしない。今ジークが襲って来れば間違いなく抵抗はできまい。

視界の隅に始が倒れ込んでいるのが見える。どうやら元に戻ったようだ。

「良かった……」

ほっと息をつくと同時に、レナは地面に倒れ込んだ。

お久しぶりでございます。そんなこんなで最新話。獣戦決着です。始君のくせに強すぎで困りました。弱いところが君のアイデンティティでしょうが。とか言いつつ次回はエピローグですかね。そんでもってその次は新キャラっすね。多分エルフ耳です。お楽しみに

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