第三十八話 神の手
「三つ目の神器、だと……?」
シルヴィアは、目を大きく見開いた。賢者も沈黙したままだ。二人とも目の前に起こっている事態が飲み込めずにる。
「通常は一人一つが限界だと聞きましたが……」
レナの言葉に賢者は頷いた。
「二つまでならまだ天才という良い訳が利いたのじゃがな、三つ、それも異なる系統のものともなれば最早人という枠では語れんな。あれは化外と、そう言って差し支えあるまいて。要するに人外の法に手を出して居るに違いない」
二つの神器を扱うことは、理屈としてはありえない話ではない。二つの突出した才能を持つものは珍しいが、ゼロではないのだ。事実、賢者の知る限りでも、過去に二人、神器の二刀流なんて真似をしでかした人間はいたのだ。
だが三つ。そこまで行けば、の早大抵の分野において『超一流』の実力を持っていてもおかしくない。そして、神器を扱えるような才能のある人間はそもそも珍しく、一つの分野において突出した才能が必要なのだ。その突出した性能が全ての基準となるような人間がいるとすればそれは異端。どうしようもない外れ者である。
「聖剣を以ってしても、或いは止められるかどうか……」
「風神や雷神で結界を破ることは?」
レナたち二人を難なくあしらったあの二体なら、或いはあの結界を壊せるかもしれない。はじめ一人で対処できないなら、自分たちが介入するしかない。そうしなければ始が死ぬのだ。
「残念じゃが、それは不可能じゃ」
しかし、じぇんじゃは首を横に振った。
「古の世、ワシがあの二人と交わした契約は、この霊山の警護と勇者を見定めるための力の行使。指令外での戦闘は許可できん」
「そんな……」
「ワシらはこの霊山から出ることを禁じられておる。大きな力にはそれ故多くの制約が存在するんじゃよ」
そう言っているときの賢者の顔は歪んでいた。まるで、そのこと自体を認めたくないように。
「つまり、私たちはここで観ていることしかできないと?」
「そう言うことじゃ」
それだけ言うと賢者は再び押し黙ってしまった。レナも空間に映る始を見る。
「……」
握りしめた手が硬くなっていることに、レナは気づいていなかった。
矢は次々と俺の許へと押し寄せていた。
「づおおっ……」
「どうした、息が上がっているぞ?」
「うるっ……せえっ」
ホークさんとの訓練のおかげで何とか攻撃に反応することができていた。弓とはえ殺気が放たれるタイミングで動けば何とかなる。射出された弓は真っすぐに進む以外になく、とりあえず横に移動すれば、紙一重で躱すことが出来ていた。
――そう思っていたのだが。
「……フム、面倒だな」
「へ?」
射出された矢は放物線を描きながら、十二十へと分裂していく、それは落下していくと同時にさながら雨のように俺の許へと降り注いだ。
「ぐうっ」
捌き切れない。いくつかが俺の足、腹を掠るが、幸い射られたのは一射だけ。一度落ちた場所に畳みかけるようなことはないから、動かなければ危険度は低い。
「――止まったな」
だがそれが罠。殺気に気づくも動けない。降り注ぐ矢を凌いだと思ったら、既にジークは次の一矢に備えていた。
「死ね」
光り輝く矢が光線となっって物凄いスピードでせまってきた。威力全振り。加減無しの全力だ。
「クソッ」
咄嗟に剣を前で構えるが、当然のように防げない。殺しきれなかった衝撃はダイレクトに伝わり、俺の体は吹っ飛ばされた。
「――がッ⁉」
途中で勢いよく壁へと叩きつけられたように俺の体は止まった。途端に強い痛みと冷たさが俺を襲う。ぼとりと落ち、這いつくばる俺をジークは静かに見下ろしていた。
「ヴリトラの檻だ。水を閉じ込めた災厄の龍の力の一部らしい。触れれば水の結界に切り刻まれることになる」
つまりはこの結界もお得意のおもちゃってわけだ。全く馬鹿げてる。めちゃくちゃだ。
「諦めろ。神器を破壊できるのは神器のみ。聖剣を覚醒させていないお前では、手の打ちようはない」
ジークは弓を手放した。それと同時に弓は光の粒となって消え、代わりに先ほどの大剣がずしりと、ジークの両手に収まる。
「俺の異能はゴッドハンド。あらゆる武器を使いこなす才能を持つ、聖剣とて、その例外ではあるまい」
そう言って、ジークは俺の目の前に立った。
「理解しろ。貴様には万に一つの勝ち目も、ありはしないのだとな」
そう言ってジークは剣をゆっくりと振り上げる。その剣には巨大な魔力が集まり、黒い光を放っていた。
「終わりだ」
ジークが剣を振り下ろすと同時に、巨大な斬撃が俺の許へと襲ってくる。当たれば間違いなく、ただでは済まないだろう。
――死ぬ?この俺が?こんなあっさりと?
斬撃を前にして、俺は酷く落ち着いていた。まるで周囲の景色が凍り付いたようにゆっくりと停滞する。心臓の音がゆっくりになり、代わりに別の声が大きく頭に響く。
――スベテヲコワセ。スベテダ。
ワガナヲヨビ、スベテノユガミヲソノミニクラエ――!
不思議だ。ゆっくりと停止した世界。口も動かないはずなのに、なぜか俺はその言葉を紡げる。紡げると知っていた。
息を吸い、口を震わす。簡単だ。俺はその名を、知らないはずのその名を、静かに呼んだ。
「――」
途端。
世界は再び色を取り戻し、斬撃は速度を上げてこちらに押し寄せた。
「ぐおおっ」
眩い光に包まれながら、俺は意識を失った。
うおお、一週間で二話とかいつ以来だろ……。そんなこんなで最新話です。始君も苦戦していますがいっよいよ反撃が始まりますよー。感想を貰えると嬉しいです。
そろそろ過去編を更新しないといけないな……。
それでは次回。




