第三十六話 謎の剣士
鳥居をくぐると、地面には黒い煙が立っていた。
「一体誰が……」
俺が辺りを見回すと、隣の二人は険しい表情を見せる。
「……随分と礼儀を知らないご客人ですね」
煙が晴れる。それと同時に煙の中にぼんやりと人影が映った。
「離れるな、死ぬぞ」
シルヴィアが槍を構える。その表情は真剣だった。
影が揺れる。同時にきらりと瞬いた。
すると俺たちの横を何かがよぎる。熱い。これは光線、だろうか。一瞬で過ぎ去った光線は後ろの山に当たり、どごおんという爆音と振動が響く。
「お前が、勇者か」
光線により、煙が吹き飛んでいた。それによって影の姿が明らかになった。
黒いタンクトップに、筋骨隆々の肉体。男だ。大剣を担ぎ、こちらを睨み据えている。加えて男の顔には三日月型の傷がついていた。
「ジーク・フリードだ。貴様の首を、もらい受ける」
ジークと名乗った男はそう言うと、体を低くし、ふっと視界から消えた。
「え――」
それと同時に俺の体が吹っ飛ばされる。俺のいた場所で火花が散った。シルヴィアだ。
「急襲とは、戦の礼儀を知らぬようだな」
「お前に興味はない。失せろ、女」
ジークの剣とシルヴィアの槍がかたかたと震えている。目測にして五十メートル。その距離を一瞬にして詰めたというのか。
「そう言うな。折角だ、楽しもうじゃないか」
言い切る前にシルヴィアはムーンサルトを決めながら距離を取る。ジークの右手には短刀。シルヴィアの隙をつき、短刀で刺そうとしたのだろう。
「貴様……」
「卑怯だと?生憎と俺は武人ではない」
それだけ言うと、ジークは再び大剣を両手で構えた。
「抜け――それは貴様にふさわしい剣ではない」
――貴様にふさわしい剣ではない。
あいつは確かにそう言った。ジーク。やはりこいつは俺が勇者だと知って襲ってきたんだ。
「……お前、俺に何の用だ」
「何度も言わせるな、その剣は貴様にふさわしいものではないと言ったんだ」
「彼は聖剣を抜いたんですよ?それをふさわしくないなど……」
「黙れ」
ジークはぴしゃりとレナさんを黙らせる。レナさんはむっとしたような表情を見せるが、それを気にもせずにジークは続ける。
「その剣を持つのにふさわしいのはただ一人だけ。貴様のような卑賎な身の上の者が触っていい代物ではないのだ」
卑賎な身。そのふさわしい一人とはつまり、
「先代の勇者か」
「先代、か。驚いたな、もう勇者気取りか。まだ満足に力も引き出せていないくせに」
それに関しては返す言葉もないんだけど。けど俺にだって意地くらいある。会って間もない奴に好き放題言われて黙ってられるほど、お人よしじゃないんだ。
「あんたが誰だろうと、これを渡す気はない。俺には聖剣が必要なんだ」
「だったら死ぬんだな」
え、と言う前に。
地面に走る光の線。それと同時に空が反転した。
「これは……」
まるで賢者の山の中のように。空は奇妙な虹色だ。
「下手に横やりを入れられても面倒だ。一対一の大一番こそ、勇者の華というものだろう。
そう言うとジークはつい、と大剣を俺の前に突き出した。
「構えろ、でなくば死ぬぞ」
地面に線が走ると同時に、始たちの姿がかききえた。
「これは……」
「神器じゃ。おそらくはヴリトラの能力じゃろう。周囲から自分と、望むものを異空間へと隔離したのじゃ」
つまりは始は今、あのジークという男と一対一で対峙しているというわけだ。始の実力ではあのジークの剣に対抗することは不可能だろう。早く介入しないと、手遅れになる。
「何とかなりませんか」
「神器の理はそう強固じゃ。介入するのは不可能」
「そんな……」
「じゃが覗くくらいならば何とか……ホラ、この通り」
そう言うと、賢者は腕をさっさと振る。すると、先ほどまでは何もなかったところに、穴が開いた。そこには始めとジークが対峙している。
「これは」
「結界をいじった。覗くだけならまあ何とかなるじゃろう」
シルヴィアとレナがそれをのぞき込む。
すると。
「あっ」
二人が見たのは、ジークの攻撃によって盛大に吹っ飛ばされた始の姿だった。
「ぐっ……」
地面を転がされながら、俺は何とか地面に手をつき、無理やり体を停止させた。何て馬鹿力だ。剣で斬ると言うよりも、こん棒で叩かれたような感覚。明らかにまともな人間じゃない。
「どうした、まさかこの程度で音をあげるわけではあるまい」
大剣を肩に担ぐと、ジークは俺を見下ろした。その距離は余裕の表れか。十分な距離を保ったまま立っているその姿はさながら大樹だ。崩せる気がしない。
「うるせ、えっ。まだまだこれからだっつーの」
喝を入れて立ち上がる。剣を構えて、そのまま敵を見据えた。
分かってはいたが、ジークは強い。剣の腕もそうだが何よりもその膂力。一撃一撃が尋常じゃなく重い。
「随分といい剣持ってるじゃねえか」
加えてジークの持っている剣。そこから放たれるのは素人でも分かるような、禍々しいオーラだった。
「そんな立派なモン持ってるなら、聖剣なんて要らないんじゃねえの」
「生憎と俺は聖剣を己のために欲しているわけでない――貴様に理解できるとは思えんがな」
言うが早いか、ジークはだんと地面を蹴った。一瞬にして眼前に剣が振り下ろされる。
「ぬおっ……」
何とか受け流すが、腕がしびれる。あんな質量のものを喰らえば、おそらくただでは済まないだろう。重い大剣を担いで、あんなスピードで走り回るとは、色々反則だ。パワータイプは機動力が低いってのは常識だろうが。何で目で追えないようなスピードで走ってくるんだ。
「これが地力の差だ。本来の聖剣の力を引き出せていたのなら、貴様も似たような挙動ができたことだろう。だが、貴様は今俺に苦戦している。その程度で勇者を名乗り、聖剣の担い手になろうという思い上がりが――」
「――っ⁉」
気づけば一瞬にしてジークは俺の背後に立っていた。目で追えないばかりか、気配すらも感じなかった。これがこいつの本気。振り向こうとするが、間に合わない。
「――俺にはどうにも我慢できん」
どん、という衝撃が走り、俺の体はくの字に折れ曲がって吹き飛んだ。
お久しぶりです、何やかんやで二週間ぶりでしたすみません。一応生きてます、風間です。そんなこんなでジークさんが登場しました。厨二要素多めの人ですが、どうか生暖かい目で見守って下さい。次回はもう少し早く更新したいですね。それでは。




