第三十三話 門番
森を抜けると、そこにあるのは巨大な鳥居だった。
「……こりゃあ一体」
「賢者の山の入口だ。ここから入らないとペナルティが課されるんだと」
ガルルが応える。入るのにも儀式がいるとは、流石は賢者の住む山だ。うっかり森に迷い込んでもこんな鳥居をくぐる気も起きない。
「やばそうだなあ、慎重に行かないと……」
「頼もー」
「言ってるそばから何してくれてんだァッ!」
片手を挙げて鳥居をくぐろうとするシルヴィアを押さえる。おいふざけんな、何行きつけの店に入るみたいな気軽さで入ろうとしてんだ。
「警備システムとか働いたらどうすんだ、とんでもない魔物とかがいるかもしれないだろうが!」
「何、望むところだ」
とんでもなく逆効果でした。そうだね姫様戦い大好きだもんね、ごめんね変な事言って。
「神秘にむやみに触れるなってのがウチの戒律なんでね。悪いが案内できるのはここまでだ。あとはお三方で頑張ってくれ」
しかもガルル帰っちゃうのか。これもしかしたら結構まずいんじゃないの?
「何だ、まさか私の実力を疑っているのか?」
「いや、そういうわけじゃあ……」
「ならば問題あるまい、さあ行くぞ」
「えっ、ちょっ」
今度は俺が止めるよりも早く、シルヴィアが鳥居をくぐった。レナさんもそれに続く。
すると。
――聖なる祠に近づかんとするものよ……。
低い声が轟くように響いた。驚く間もなく地面が揺れる。
「何だよ、これ……」
「ふむ、始まったか」
「嬉しそうにすんな!」
シルヴィアは槍を引き抜き、その目を爛爛と輝かせている。駄目だこれ、完全にスイッチ入っちゃってるよ。
――汝の力を、示せ。
声が終わると同時に。
ぱりいんという音と共に、地面が抉れ、大きな穴が出来た。そしてそこに多くの粒子が集まり、巨大な何かを形作っていく。それはまるで、
「鎧……?」
「ああ、あれが噂に聞く賢者の山の守護精霊……」
ガルルの言葉とともに、形作られた影が二つに分裂した。石像のような無色な巨体
は、上から少しずつ色をまとっていく。
「風神と、雷神だ」
どすりと巨体が、着地した。
巨体は鎧をまとった武者のようだった。右にいるのが二本角の兜を被り、左は一本。
「我は風神」
左側の巨人が口を開いた。
「我は雷神」
右の二本角がそれに続く。
「汝ら、門を抜けることを望むか」
鎧にすっかり覆われていて、二体の素顔を見ることはできない。というよりも、どちらかというとロボットに近いのだろうか。二体の精霊はかなり無機質な印象だ。
「いかにも、我々は賢者に会いに来た、貴様らの主はそこか?」
シルヴィアが前に出る。それを見ても精霊たちはぴくりとも動かない。どうやらある距離まで近づかないなら敵対行動はとらないらしい。
「賢者に会わんと欲する者の、真価を見極める」
「それが我が主との契約」
「「汝ら、我らが主と見えることを望むか」」
「成程、まずは腕試しというわけか」
「いかにも冒険って感じですね」
言うが早いか、二人はそれぞれ各々武器を構える。シルヴィアは槍、そしてレナさんは拳に炎を宿した。
「楽しめそうか?」
ガルルの問いかけにシルヴィアはにやりと笑い、
「最高だ」
そう言って、勢いよく地面を蹴った。
「ツァーッ!」
シルヴィアは上空から槍を突き出す。落下により、その刺突の威力は何倍にも上昇していた。
「敵対行動を確認。契約に従い、試練を開始する」
雷神はそう言うと手にばちばちと光を纏った。
「雷切」
纏った光は剣の形となり、そのまま天に向かって構える。シルヴィアの槍と、雷神の剣がぶつかり、巨大な稲妻が周囲に走る。
「成程、やるな」
シルヴィアはにやりと笑う。シルヴィアの攻撃を受け止めることができる者など殆どいない。今までの武者修行では出会えなかった強敵。その出現に歓喜しつつ、
「ならばこれでどうだ――!」
瞬時に別の槍を展開する。片手で雷神の剣を受け止めつつ、もう一方の手で、槍を素早く掴むと、
「穿て!」
そのまま雷神の胴に叩き込んだ。
「あれは一体……」
「異空間に閉じ込めてあった槍を呼び出して、魔力を宿したんだろ。素早い動きだな、ありゃ腕を上げたねえ」
俺の疑問にガルルが面白がりながら答える。案内はここまでとか言ってたくせに、戦闘はちゃっかり観戦する気らしい。
「異空間?」
「おそらくは武器を魔力に分解して、そいつを記録に従い再現する術式だろうな。便利だな、俺も欲しいなあれ」
てか武器しまえるんだったらあんな荷物要らないじゃん。何のために俺に担がせてたんだよ。
「けど、ありゃ多分そんなに仕舞えないな、せいぜい五、六本ってとこか。シルヴィが持ち歩くなら、あの倍はいるだろ」
あれでも足りないのか。あの姫さん一体いくら槍を壊せば気が済むんだろう。
「しっかし噂に聞いていた通りだな。精霊ってなあ化け物みたいな強さしてやがる」
「精霊?」
よくファンタジー世界じゃ聞く言葉だけど、この世界じゃああんなストロングな奴らしかいないんだろうか。
「魔力によって体を作る高位な知的生命体なんだと。精霊を使役する術式はもう失われっちまってるから、見かけることは殆どないからな」
どうやら精霊というのはこの世界では相当珍しい存在のようだ。しかし鎧で顔らしいもの、というか体自体隠されていて全く見えないし、これじゃあまるでロボットだ。
「古代じゃあんなのが一杯いたのかねえ、それはそれで面白そうだが……」
ガルルは戦闘狂なことを言っていた。流石はシルヴィアの師匠。言動が師弟そろって野蛮で物騒だ。
「さて、そうは言いつつシルヴィはどうするのかねえ。直接叩きのめすのはちょいと骨が折れそうだが」
「え?」
俺がそう言った瞬間、シルヴィアが勢いよくこちらに吹き飛んできた。
本編更新です。西洋風ファンタジーに風神雷神はどうなんだという話ですが、鬼丸いるし今更ですね。賢者に会うまでもう少し。次回もどうかお楽しみに。




