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第三十一話 緋村始の過酷な労働環境

リヒテンブルク皇国。

かつてそこは小国の集まる戦争地帯だった。そんななか、一つの国が台頭し、周辺の国をまとめ上げていった。リヒテンブルク帝国。アルフレッドの祖父、つまり先々代の王の頃だ。戦において負け知らずだった彼の軍は周囲の国を取り込み、一大勢力となり、先代のころにはその地位を不動のものとした。この頃、国の名は皇国となったという。

そんなリヒテンブルクは周辺に三つの大国がある。

北に相対するアルス帝国。工業技術が発展しており、近年台頭している国だ。

南はギドラ帝国。傭兵団を多くを輩出し、また農耕技術も発展している。間違いなく大陸最大の国である。

そして西に神聖ゼニウス王国、通称聖王国がある。海を挟んでいるので直接対立することは少ないが、聖王国の国王は教会の教皇と同一人物であり、その影響力は果たしなく大きい。

そんな大国に挟まれているリヒテンブルクの国境には、当然備えがしてある。

国境警備隊、国王アルフレッドの側近たちが各方角に一人ずつ派遣されている。東西南北を囲む彼らと、王都警備隊を率いるホーク・バーンズは、合わせて五将軍と呼ばれている。彼らの力は折り紙付きで、周辺国に対してはかなりの牽制になっているのだ。

そんな国境警備隊の中でもかなり好戦的なのが北方国境警備隊である。元々傭兵団だった彼らは影の森と呼ばれている未開の地を拠点としており、攻め込んできた相手を森の中で撹乱しつつ撃退している。

影の森には人を惑わす術が施されており、何の知識もない人間が入れば遭難し、飢え死にするだろう。しかし警備隊にとってそこは庭も同然。一方的に敵を攻撃することが出来るのだ。

そして、そんな影の森をよく知る彼らでさえ近寄らない場所がある。

賢者の山。

全てを知る者の住まう、神話の山である。



「――というわけで、我々は賢者の山へと向かっているわけだ」

シルヴィアは振り返りながら言う。

「影の森……かつては影の国という傭兵団がいると聞きましたが……」

「今は国境警備隊だ。少なくともいきなり襲ってくることはないさ」

「しかし彼らの案内で賢者の山へたどり着けるのでしょうか?森は人々を惑わす術がかけられているとか」

「逆に言えば、彼らに無理だったら、誰にだって無理だ。あの森を影の国以上に知るものはいない」

「確かに、それしか手はなさそうですしね……」

レナさんとシルヴィアは今後の作戦会議を行っていた。成程、確かに重要だ。

だが、それよりもはっきりさせておかねばならないことがある。

「何で俺が荷物持ちなんだよ!」



「フム、順当だな」

「適材適所ってやつですね」

「荷物持ちに適材も適所もあるか!」

俺は吠えた。この扱いはおかしい。だって俺は勇者なのだ。普通に考えたらパーティーの戦闘を歩いているはず。なぜ馬車行きよりも酷い扱いなのか。

「シルヴィアの方が俺よりも怪力だろうが、適材適所だってんならそっちがやれよ」

「乙女に怪力とは失礼なやつだな、張り倒すぞ?」

「言い種が乙女のそれとは程遠いんですけど?」

お止めというかヴァルキリー、むしろアマゾネスというべきだろうか。この世界の女性はどうしてこう……逞しいのだろう。

どうも皆さん、緋村始です。一応勇者をやってるんですが、御覧の通り、目下荷物持ちに勤しんでおります。おかしいな、俺の想像してた勇者の旅と違う。

「全く、これだからゴリラは……」

「何だと?」

目の前では美女二人。片方はレナ・ストラウス。高等弁務官とかいう超エリート。そしてもう一方はシルヴィア。リヒテンブルク皇国の皇女だ。容姿、経歴いずれも一流。しかし中身は御覧の通り。毒舌とアマゾネス。天は二物を与えないというのはどうやら真実らしい。

加えて、俺の方にも問題がある。

勇者の証である聖剣。俺はそれを引き抜いたが、はっきりと言って錆びている。質屋にもっていても二束三文で買いたたかれるのがオチだろう。一度活躍したものの、それ以降はオンボロの剣のままだ。

「本当にコレ聖剣なのか?」

そう思ってしまうのも仕方がないだろう。はっきり言ってこの二人と旅をする資格があるとはとてもじゃないが思えない。一応ついこの前まで俺はどこにでもいる高校生だったのだ。

「にしてもこの荷物重すぎるだろ……」

「もう殆ど皇女殿下の荷物ですけどね……何入れてるんです?」

レナさんの問いにフム、とシルヴィアは頷き、

「武器だ」

荷物がずしりと重くなった気がした。

「私の能力は武器を作り替えるものだ。お前たちも見たことがあると思うが」

そう言えば以前王都ではっちゃけてたとき、衛兵から槍もぎ取ってましたね。

「魔力を流し込み、一時的に神器並の力を発揮するんだが……大抵長持ちはせん。数合打ち合えばすぐに壊れてしまう。故に、常にスペアを用意しているんだ」

「スペアってこれ一体どのくらい……」

「取りあえず十本だな」

オイオイ嘘だろ。俺そんなモン担いで歩いて他の。ギャグでなかったら死んでるよ、過労でぶっ倒れててもおかしくないよ。

「普段なら二十は持っていくんだが、人に持たせるなら多少は減らさないとな」

しかもお気遣い頂いてこれかよ。ありがとうございますじゃねえんだよこの野郎。

「やれやれ、脳味噌筋肉だとどんぶり勘定でいけませんね……原始人らしく現地調達したらどうです?」

「それも考えたが、やはり数合は打ち合わんとな……それなりのものでなくては」

考えたんかい。しかもこの十本でも数十合かち合わせたら壊れっちまうんだから、なんともブルジョワな戦い方だ。流石はお姫様。何とも豪勢なことで。

「まあこの十本はあくまで緊急用だ、流石に毎回神器クラスの武器を引っ張り出すわけにはいかんしな……どうした?」

「いや別に」

この人もしかして結構な天然なのかなあと思ってただけで。

「ていくか賢者の山って本当にこっちにあんの?」

俺は話を替えた。レナさんの話では北にあるっていう噂があるってレベルで、実在するかは分からないって感じだったけど……。

「北には影の森という地域があってな。古来より獣人が多く住んでいて、まだ人の目に触れていない神秘が存在すると言われているんだ」

「影の森には多くの伝説があります。髪を殺した戦士、勇者を殺した英雄、そして――」

「すべてを知る者の山。それが賢者の山だと私は考えている」

なるほど。確かにそこまで一致するとまずはそこを当たってみるのがよさそうだ。

「影の森には人を惑わす術がある。これは天然の要塞として国防の要だ。だが、味方が踏み込むうえでも当然それは足かせとなる。故に、道に迷わぬように森に入るときは現地の人間に案内を頼むことになってるんだ」

「現地の人々ね……」

「現在、北の国境を警備しているのはかつて影の森を拠点としていた傭兵部隊、影の国です。元々縄張り意識の強いところですし、彼らを無視して踏み込むのは得策ではないでしょう」

レナさんが補足した。つまりこれから俺たちがやることは二つ。

影の森へ行き、国境警備隊の協力をとりつける。

影の森で賢者の山を探し、賢者の話を聞く。

「中々難儀な話だな……」

「まあ勇者の旅ですから、困難はつきものです」

そうですね、目下の問題はおたくらの荷物なんですけど。

「でも国境警備隊の協力なんて取り付けられるの?」

「その点なら心配要らないさ、警備隊隊長とは知り合いだしな」

「知り合い?どういう関係なのさ」

シルヴィアは振り返り、にやりと笑う。

「私の師匠だ」

お久しぶりです。タイトルが出落ちって感じですが、まあそんな感じで。久しぶりのギャグでございます。このノリ久々だなあ。

そんなわけで次回は国境警備隊の偉い人が出てきます。新キャラです。お楽しみに!

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