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第二十七話 墓前

王都の外れ。

ホーク・バーンズは静かに目の前の石碑を見下ろしていた。何も言わず、ただ目の前にある碑を見つめる。

そこは墓地だった。数多立つ石碑には散っていった英霊たちが眠っているが、周りには誰もいない。ただ石の割れ目から生える雑草がもの悲しさに一役買っていた。

そんな中、ホークの見つめる墓は真新しかった。白く、碑文もかすれていない。

そこに刻まれていたのは、

「何だよ、こんなところにいたのか」

後ろからかかった陽気な声に、ホークはうんざりとした表情になった。

「……何の用だ」

できるだけ事務的な返答になるように努めながら、ホークは後ろを振り向く。予想はしていたが、アルフレッドが手を上げてこちらに近づいて来ていた。うんざりとした表情でホークはアルフレッドを睨むが、例によってそれをアルフレッドは無視する。

「オムもやられてたとさ。相変わらず見事な仕事だ」

そう言ってアルフレッドは自らの首をとんとんと叩いた。教会の異端審問官の仕業だろう。彼らは決まって殺した相手の首を持っていく。これは教会の裁きであり、文句を言うことは許されない。暗にそういうメッセージが込められているのかもしれないが、そんなことはホークにはどうでも良かった。

アンドリューが王都を襲ってから三日。事件の背後にいると予想されたオムの遺体が発見された。首から下のみの姿であり、遺体以外の物証は皆無。オムの私財が残っているのみだった。つまり、王都警備隊は教会に先を越されたというわけだ。

「そう気を落とすなよ、王都は守れたんだから、良しとしようや」

「あいつが黒幕ならばそれでも良いさ――だがそうとは限らんだろ?」

「あいつが誰かの下にいるのを良しとするかね?」

「金さえあればあいつは立場など気にしないさ。だからこそ並の貴族よりも性質が悪いんだ」

ホークは苦々し気にそう言った。オムにとっては他人は自身の役に立つか否か、その一点のみだった。だからこそ、ホークは今まで生き残ってきたのだろう。

「そのオムが死に、貴族派も全滅か……世の中分からんねえ」

アルフレッドはそう言いつつ墓を見る。ホークもそれに倣った。

そこに刻まれていたのは、ごく短い文字列だった。

――レスター・バーンズ。

「一応首はあったようだ。おまけに下手人の遺体もな。部屋の中での大乱戦だったらしい

「首を持っていかれてないってのはつまり……」

「違う」

ホークは遮るようにして言った。アルフレッドの言おうとしたことは単純な結論だった。つまり、首を持っていかなかったということは、レスターを殺したのは教会以外の勢力なのではないかということだ。

「下手人の死体には十字のロザリオがあった。加えて体には教会に伝わる術式のいくつかが発見された。あの連中が教会の人間なのは明らかだ」

貴族が、反乱軍を終結させていたヤルーダ。そこに派遣された軍人たちが見たのは首のない貴族たちの遺体と、傷だらけになったレスターの姿だった。

傷のついたレスターが教会の刺客と戦ったことは明らかだろう。そして、その首が失われていないということが意味するのはたった一つだ。

「あの連中は取りそこなったのさ。暴風レスターは穴蔵に引きこもったところで牙は抜けちゃいなかったということだ」

つまりはレスターは刺客を撃退したのだ。必殺と斬首を王道とする敵に本懐を遂げさせなかったというのは、一つの勝利ではあるだろう。

「あのジジイ、ホントに化け物だな……」

「違いない」

二人はそう言って墓を見つめる。確かに晩年のレスターと二人は対立していたが、だからこそレスターという男がいかに大きな存在であるかということを肌で感じていた。ある意味で、最もレスターを認めていたとも言えるだろう。

「しっかしお前が墓参りに来るとはねえ。義理とはいえ、父親の死はやっぱり堪えるかい?」

アルフレッドは何気ないように尋ねた。バーンズ家のホーク。それの意味するところはたった一つしかない。義理の父親と対立するという状況を作り出したのは、紛れもなくアルフレッドだ。今まで二人の間でそのことが語られることはなかったが、多少の負い目はあったのだろう。鈍感なふりをしていても、根のところでこの男は甘いのだ。ホークはそんなことを思いつつ、墓を見据えたまま答える。

「義理だろうが何だろうがあの男は私の実の父を殺した。その死を喜びこそすれ、悲しむことなどありえない」

ただ、とホークは続ける。

「憎むには知りすぎた……ただそれだけの話だ」

それだけ言うとホークは踵を返して去っていく。

「相変わらず真面目だな」

アルフレッドはその背中を見て笑った。この男はこの男なりに気を遣ったのだろう。憎んでいるから心配するなと、そう言いたかったに違いない。

父親の仇にどんな気持ちで従っていたのか、そればかりはホーク本人にしか分からないし、その答えをアルフレッドが口にするべきではないのだ。だから、話はこれで終わり。そう悟ったアルフレッドは墓に向かってそっと呟く。

「お互い地獄でまた会おうや、爺さん」

風が吹き抜け、草花を静かに揺らした。

というわけでオッサン回でした。ホークとレスターの関係とかいつか書きたいですね。

次回は始に視点が戻ります。いよいよエピローグ、一区切りまであと少し。どうか最後までお付き合いください!

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