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第二十四話 王都防衛線5

「馬鹿野郎!」



大声と共に、鬼丸が俺を抱きかかえて、勢いよく跳んだ。ついさっきまで俺がいたところに、アンドリューの拳が叩き込まれた。

「おい、生きてるか?」

「いや。死にそう」

「なら大丈夫だな」

何一つ大丈夫じゃないんだが、相変わらずこっちの世界の人たちは俺の話を聞かないな。

「ちょいとばかし、やりたいことができた。手伝え」

だから、俺もそれに倣おう。元々俺一人でどうにかなることじゃないんだ。甘い考えは捨てろ。俺だけじゃ、こいつは倒せない。

「……何をする気だ」

「レナさんを助ける。レナさんの協力がないと多分聖剣を覚醒させるのは無理だ」

アルシエルの宝石は確かに俺の体に力を与えていた。さっきのダメージだって、もしも俺がただの人間だったらこうして生きているのも不可能だろう。何とか立ち上がり、手を開いたり、閉じたりする。少しぎしぎしと軋むが、何とかなりそうだ。

「やってみてできませんでしたじゃあ今度こそ終わるぜ、当てはあんのか?」

「ある」

俺は鬼丸を見た。鬼丸は深くため息をつく。

「仕方ねえ、乗るって言っちまったしな、毒喰らわばってやつだ、オラ言ってみ」

「あいつを足止めしてくれ、俺がその間にレナさんを助け出す」

「どうやって……なんて聞くのも野暮か。どのみちこのままじゃ詰みだしな」

鬼丸はそう言って刀を両手で構えた。

「悪いが長くは保たねえぞ、やるならさっさと終わらせて来い」

「ああ……死ぬなよ」

「誰に言ってやがる」

鬼丸はにやりと笑い駆けだした。俺はそれを背にするようにして走り出した。目指すのは、透明の繭に閉じ込められているレナさんだ。

レナさんの包まれている繭には外に繋がる管がある。どういう理屈かは知らないが、レナさんの力をその管を使ってアンドリューに送っているのだろう。アルシエルの宝石で見えるようになったお陰で、斬るべき場所ははっきりと分かっている。

アンドリューが吠えた。ずしりという足音が聞こえた。こちらに近づいているのだろうか。

「どこ見てやがる!」

鬼丸の叫び声が響いた。振り返れば鬼丸がアンドリューの顎を蹴り上げていた。

「てきぱき走りやがれ、蹴り殺すぞ!」

鬼丸が俺に吠えた。相変わらず口が悪い。だけど、不思議といつも通りな鬼丸の声が頼もしかった。

レナさんのところまであと五メートル。だが、そこまで近づく必要はない。魔力による光の管。これさえ斬れば、きっと。

「頼む……」

聖剣に語り掛ける。さっきとは違う、確かな熱を聖剣から感じた。いける。そう思いながら俺は聖剣を振り上げた。

俺は、この人を、

「助けたいんだ――!」



繭の中で、レナはぼんやりと考えていた。

自分の中から何かが溢れ出ているのを感じる。それがどこに行っているのか見当はついていた。

自分が何故負けたのか。レナはそれを考えていた。魔術戦で自分が負けるなんて、あり得ない。あの場でなぜアンドリューの不意打ちになぜ反応できなかったのだろうか。

ここ最近の自分は変だ。そもそもあの場で敵襲も考えずに出歩いていたことからしておかしい。普段の自分ならきっと一人で出歩くなら、もっと用心していたはずだ。

きっと一人ではないことに慣れ過ぎてしまったんですね。

最近、自分は他人と行動しすぎた。そのせいで弱くなってしまったのだろうか。

違う。レナ。ストラウスは負けた。だが、それは弱さではないと、胸を張って言える。

シンと戦った時、あの強さはアンドリューとは比べ物にならなかった。それでもあのとき負けるなんて考えもしなかったのは、認めがたいことだが。

一人じゃないことが、こんなにも心強いとは。

故にレナは願う。自身の力を使うことを。この繭から脱することを。

「私は――」

皆を、

「――助けたい!」

ぱりいんという音が響き、レナの体が宙に放り出された。



「っと」

剣を振り下ろすと同時に、繭が割れた。倒れ込むレナさんを慌てて抱きかかえる。

「……あ」

「どうも、お目覚めですか」

とぼけた口調でそう返す。ひとまず目立った怪我はなさそうで……・。

「何つー恰好してるんだ、全く……」

白い装束は、ぶっちゃけ服としての役割を果たしていない。なんていうか、見ようと思えば見え――

「おふぅっ⁉」

いきなり腹に衝撃が走り、俺は腰を折った。さっき思いっきりアンドリューに殴られていたところが、またずきずきと痛みだす。

「何です、その不埒な目は」

「いや別に」

俺は痛みをなるべく気にしないようにして返す。一応助けた人間に開幕殴るのは人としてどうなんだろう。

「それよりも、聞きたいことがあるんですけど」

「証のことでしょう?やはり考えることは一緒のようですね」

レナさんは自分で立ち上がると、腕を見せる。そこには赤い紋様が浮かび上がっていた。

「それは……」

「本当はこの力を使いたくはありませんでした」

レナさんは口を開いた。その口調は真剣で、茶化すことは許されないように思えた。

「この世の理を大きく乱すもので、先代からも使うなと言われていたのですが……」

レナさんは息を吸う。そして、こちらを見ていった。

「出来ることがあるなら、私は全力を尽くします。加減をする気はありませんから」

そう言うと、彼女は剣を握る俺の手に、両手を重ねた。

「オズの継承者、レナ・ストラウスがここに誓う」

それと同時にレナさんの腕の聖痕が、紅く光り輝いた。それが聖剣へと伝播して、紅い線が剣に走る。

「我は緋村始を聖剣の担い手として認め、ここに第一の枷を解く」

それと同時に剣が、光り輝く。

「これで聖剣はひとまずその役割を果たせるはずです――」

そう言うと同時にレナさんはふらついた。手を回そうとすると、すぐに踏みとどまる。

「さっさと行きなさい。私を気にしているような余裕があるんですか?」

「……ごめん」

俺は駆けだした。鬼丸だっていつまでも持ちこたえていられるはずもない。この戦いを終わらせられるのは、俺だけなんだから。

「おい、生きてるか⁉」

走りながら叫ぶと、視界の隅で鬼丸が息を荒くしているのが見えた。

「死にかけてるが一応無事だ、テメエお嬢に妙な真似してねえだろうな?」

「いつも通りだな、ならいい」

それだけ言うと俺はすれ違うようにして、鬼丸を抜いた。そのまま一気にアンドリューへと駆ける。

「行くぞぉぉぉぉッ!」

アンドリューが拳を振り下ろす。だが、それよりも早く、俺の剣がアンドリューの体に触れる。

「ぐっ、おっ」

確かな手ごたえ。そのまま剣を振りぬこうとするが、動かない。

「何て硬さしてやがる……」

流石は魔王の力。聖剣とはいえ、そう簡単にはやられないというわけだろうか。

だが。

「俺だって」

引けない。ここで諦めたら一体何のために、戦ってきたというのだ。

「さっさとぶった斬れ!」

「勇者様!」

二人の声が聞こえる。二人は俺を信じて任せてくれたんだ。だったらここで応えないと。

「行けええええっ」

剣の輝きが増した。そのまま少しずつ剣は食い込んでいき、

「オラァッ!」

振りぬいた。

同時に、アンドリューの体から黒いタールのようなものが滴り落ちていった。そのまま、アンドリューが人間としての姿を取り戻していく。

それと同時に、空の暗雲がみるみると晴れていった。光が差し込み、街の瓦礫がその色を取り戻していく。

「……やった、のか?」

ぼうっと立ち尽くす俺に、鬼丸とレナさんが駆け寄ってくる。間違いない。倒した。これで俺も、守れたんだ。

「良かった……」

そういうと同時に、くらりと視界が揺れる。まずい。どうやら想像以上に体力を使っていたようだ。

消えていく視界の中で、二人が慌ててこちらへ来るのが見えた。だが、俺はそれに返事をすることができなかった。

「やべ……」

自分が倒れ込んだと思う間もなく、俺は意識を失った。

お待たせしました。ひとまずボスを倒したー、やったー!

書いてて思ったんですけどこれヒロイン完全に鬼丸ですよね。おかしいなあ。レナさん姫様っぽく捕まってたのになあ。

ボスは倒しましたが、物語はもう少しだけ続きます。

それでは。

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