第二十話 王都防衛戦1
「うおおおおおおおおっ!」
吠えながら魔物たちの攻撃を避ける。ホークさんのお陰で、何とか死なずに済んだ。あくまで俺の仕事は儀式の処理だ。それまで死ぬわけにはいかない。いかないのだが……。
「何で誰も周りにいねえんだチクショーッ!」
どいつもこいつもはっちゃけやがって!お陰で一人で死にかけてるんだけどお!
「とはいえ、ここを切り抜けなきゃ始まんねえか……」
目の前にいるのは魔物三匹。飛んでる頭蓋骨に、オーガ、それから鳥の頭をしている魔術師だ。
「倒す必要はない、ならっ」
前に出る。そのまま骨を剣でいなした。
「お前らの相手は」
オーガの頭をひっつかむと、そのまま飛び越える。
「俺じゃねえっ!」
鳥頭の体当たりを引きつけて躱した。いける。これなら何とかなる。
と、思った瞬間に、鳥頭が魔術を放つ。氷の刃が俺に迫ってきた。
「っ」
間一髪で躱すが、態勢を崩してしまう。当然、そこを逃すほど、あいつらも間抜けじゃない。骨が俺に向かって激しくタックルをかましてくる。
「がはっ――」
肺の空気が一気に抜ける。たまらず息を吸い込むが、腹が痛んで上手くいかない。見上げると、悪魔三匹がこちらに向かってゆっくりと歩いていた。まずい。このままだと――
「去ね」
どこからともなく現れた巨大な漆黒の剛腕が三匹を引っ掴み、地面に叩きつけた。
「馬鹿が、安易に手を出しおって。理を捻じ曲げる気か」
「アルシエル……」
現れたのはアルシエルだった。周りの地面はタールのようなもので満たされており、そこから、同質の巨大な腕が何本も生えている。先ほど魔物を倒したのもこれだろう。
「久しぶりだな、勇者。多少はマシな面になったようじゃないか」
「そりゃどうも」
ただホークさんに殺されかけてただけなんだが。やっぱあれ結構ハードだったんじゃね?
「まあいい、それよりもお前に言い忘れてたことが」
「キシェエエエエエ――ぶべらっ」
魔物が襲い掛かろうとするが、地面から生えた腕にあっさりと迎撃される。
「――それで、お前に言い忘れてたことがあったんだが」
そして何事もなかったかのように話を再開するアルシエル。やっぱこの人おかしいな。いや人じゃないけど。
「一体どうしたんです?」
「いや、お前に宝石を渡しただろう?あれの使い方を説明していなかったのを思い出してな」
そういえば貰ったな。やはりアイテムを使用するには特殊なコマンドとかがあるのか。いいぞ、これで俺も異世界主人公らしく――
「食え」
「……は?」
「魔力の塊だ。食わねば意味がないだろう。持っていても腐るだけだ」
いや。何言ってんのあんた。それ……石でしょうがよ。
「術はまだ完成していないようだな……まあ魔物が押し寄せている以上向こうも儀式の完遂を急ぐだろう」
アルシエルはこちらのことはお構いなしに周囲を見回した。あれ、ひょっとしてこの人結構天然なのかな?
「さて、勇者よ、お前の仕事は分かっているな?」
例のごとくこちらのリアクションを無視してアルシエルが問いかける。ま、まあこの人相手に細かいことを気にしていたら負けだ。取りあえずは適当に合わせとかないと。
「ああ、要は儀式のあとに出てくる大ボスみたいなやつを倒せばいいんだろ?」
「大ボス、とは要は頭領か。まあそんなところだ。それまでに死ぬことはあり得んだろうが、一つ気を付けろ」
「一つ?」
俺としてはそれまでに死ぬことはないってところにも突っ込みたいところだけど、まあそれよりも先にアルシエルの話を聞くべきだろう。
「私の宝石は単純に魔力を体内に仕込むだけだ。それだけとも言えないのだが、聖剣を真に覚醒させることはできないだろう」
アルシエルの言葉は俺を驚かせるには十分だった。聖剣を覚醒させられないなら、一体どうやって化け物を倒せばいいというのか。
「必要なのは聖剣との縁。端的に言えばかつて勇者と旅をした者たちのもっていた証だ。詳しいことはあとでそちらの賢者にでも聞けばいいが――要は勇者の仲間が必要なのだ」
そんなのホイホイ近くにいるわきゃない。それってつまり事実上不可能ってことじゃ……。
「それであの女が必要なのだが……あの女はどこだ?」
「あの女?」
俺とアルシエルの共通の知り合いの女というと、二人ぐらいしか思い浮かばないが。
「あれだ、魔術師の方の女だ」
「レナさんだったら姿を見てないけど……」
てかレナさん、先代と一緒に旅をしてたのかよ?皆の口ぶりから結構昔の話だと思ったんだけど……。
「もしかしてレナさんは合法ロリなのか……?」
「お前の言いたいことはまあ想像がつくが、多分違うと思うぞ」
アルシエルはそのまま続ける。
「要は証さえあれば良いのだ。つまりあの女は先代から旅をしていた者から証を受け継いでいた、そう考える方が自然だろう」
「でもレナさんがその証を持っているって保証はどこにあるんだよ?」
それで持ってなかったら全部おじゃんだ。もしかしなくても割と詰みなんじゃなかろうか。
「お前が初めて城に来た時があったろ」
「は、はあ」
「壁を壊したな?」
「いや、あれは俺じゃなくて」
「壊したな?」
「はい壊しました」
何だ今になって損害賠償請求かよ、あのときは特に何も言われなかったぞ。
「あれは炎属性の中でも相当高度なものだ。常人ならば三段階の詠唱が必要だろうが、あの女が詠唱するのを見たか?」
「いや、確かちょいとか何とか……」
それを聞くとアルシエルは頷いた。
「やはりな、あの女は先代の魔法使いから証を受け継いでいる。天性の才能だけでは詠唱の省略は不可能だ」
つまりレナさんがいないと作戦は成功しないということだ。となるとレナさんを探さないと。
「先ほどから魔力を辿っているのだが、どうもあの女の気配がない。暴れていれば流石に分かると思ったが……」
魔力を感じられない。それはつまりレナさんがこの事態で魔術を使っていないということ。おかしい。レナさんがこの状況で何もしないなんて……。
「お嬢ぉぉぉっ!どこですかお嬢ぉぉぉっ!」
鬼丸が大声をあげてこちらへと突っ込んできた。鬼丸がまだ見つけてられないとなると、これはいよいよおかしい。
「おっと手が滑って刀がうっかりィッ!」
「お前はいつも通りおかしいなオイ!」
修行の成果により、飛んでくる刀に見事に白刃取りを決める。シリアスをブチ壊すとはやってくれるじゃねえか、この野郎!
「やってくれたじゃねえか、三日前の俺だったら死んでたぞこの野郎」
「うるせえ、こっちはお嬢探してんだ、邪魔者は全て排除すんのが常識だろうが」」
「ンだとこのハゲ」
「スキンヘッドだ!」
「それで鬼丸とやら」
アルシエルさんが遮るようにして口を挟む。若干の怒気を孕んでいたので、俺たちはすぐに姿勢を正した。
「魔術師の女は見つかったのか?」
「それが奇妙なことにどこに行っても暴れてんのは王様だとか姫さんとかでして……」
あの親子は何やってんだ、という言葉が出そうになるが、すんでのところでこらえる。ひとまずは鬼丸の話を聞かないことには始まらない。
「ここまで来ると考えにくいことですが、お嬢の身に何かあったとしか……」
「ふむ、それは厄介だな」
アルシエルは苦虫をかみつぶしたような顔をする。確かにそうだ。万が一レナさんが魔物相手に後れを取っていたのだとしたら、もう事態は収拾がつかない。
それに、
「レナさんが苦戦するような相手がいるかもしれない……」
「お嬢が負けるなんてあり得ねえとは思うが……」
「いずれにしても魔物を狩っていくしかないな、遺物はいずれ必ず姿を現す。そこを叩けなければ終わりだ」
アルシエルの言葉で俺たちは顔を引き締める。見ればまた魔物がこちらへと押し寄せている。先ほどのアルシエルの攻撃で減ったと思ったのに。
「……どのみちここを抜けなきゃ詰みだしな、気張っていくしかない」
「おうよ、分かってるじゃねえか」
俺たちがそう言って頷きあった、そのとき。
ごごご、と地面が揺れた。
遅くなってすみません!二十話です!結構な話数になったなあ(最近文字数少ないんですけどね……)。
先日、累計pvが500を超えました!ありがとうございます!物語も盛り上がってきましたが、どうか最後までお付き合いくださいませ。
それでは。




