第十三話 戦いのあと
翌日。王都には多くの人でごった返していた。
「やはりシンの出所は分からずじまいか……」
「死体が残らないし、調べ様がないな――おいそこ!」
あちらこちらで木材や瓦礫を担いだ屈強な男たちが行き交い、ホークが定期的に檄を飛ばした。
「進んでるようだな」
そんな男たちをかいくぐり、二人に近づく者が一人。眼鏡をかけた痩せたローブの男。
「げっ、オリバー」
「ご挨拶だな」
オリバーと呼ばれた男は肩をすくめて、アルフレッドの横に立った。
「夕べも緊急会議とやらで執務が滞ってるんだ、できれば陛下には城で仕事をしていてほしいんだが」
「ははは……ソダネ」
アルフレッドは渇いた笑いを浮かべた。それを見てホークは深くため息をついた。オリバー・フルスタイン。リヒテンブルクの文官筆頭にして、アルフレッドに最も長く仕える男。そして、
「分かっていると思うが、この前お前が酒場に行ったお陰で緊急の決済が――」
国王を顎で使う『この国の陰の支配者』である。それ故、王に近いものにとって、真に恐ろしいのは王による粛清ではなくオリバーからの書類仕事だと言われていたりするが、それは余談だ。
「そういうことだ、お前も少しは反省して――」
「お前もだ、ホーク」
ぴくり、とホークが止まった。
「今回の訪問、国王と、王都警備の最高責任者が留守だったんだ。敵が知ればどのように利用されたか分かったもんじゃなかったんだぞ」
ホークは困った顔で虚空を見ながら、
「しかしことは急を要していて……」
「だったらせめてこちらに相談位はしてほしかったな……おかげでこちらは貴族連中を言いくるめるのに少々骨を折った」
「一応報告はしたはずだが……」
「相談が、と言ったはずだが?」
「……以後、気を付けよう」
あの武人ホークを圧倒しているのが文官だというのは見る人間によっては衝撃だろうが、これこそがオリバー・フルスタインという男である。あらゆる者に物怖じせず、容赦なく仕事を振る。アルフレッドが貴族相手に強気に出れるのも、この男が成果を出し続けているからなのだ。
そんなホークを見てアルフレッドはにやりと笑い、
「やーい、もっと言ってやれやオリバー!」
「「お前が言うな!」」
オリバーとホーク。二人の突っ込みが空に響いたのだった。
「しっかしお嬢、本当に良かったんですか?」
「何がです?」
鬼丸とレナは魔物の出現場所の調査を行っていた。湧いて出たシンの位置は未だ特定できていない。おそらく付近には何かしらの痕跡があるはずである。二人はそれを探していたのであるが……。
「何って……あの馬鹿のことですよ。放っておいて良かったんですか?」
始の姿はなかった。朝迎えに行ったときには既にどこかに出かけていたようで、仕方なくそとに出てきたのだが……。
「放っておくも何も、いなかったんだからどうしようもないでしょう」
「そりゃあそうなんですが……」
珍しく鬼丸の歯切れが悪い。やはり昨日の始には思うところが色々あるのだろう。確かに昨日の始はどこか落ち込んでいるように見えた。事態は解決したが、おそらく己の無力を悔いているのだろう。あまり気にする必要はないだろうとも思うのだが……。
「彼は務めを果たしました。もう表に立つ必要はありません」
敢えてレナは突き放すような答えを口にした。あるいはそれが本心かもしれないとも思う。
「確かに彼は聖剣を抜きました。しかしそれだけです。巻き込まれた一般人――これ以上彼を巻き込むわけにはいかないでしょう?」
一緒にいて分かったことがある。それは緋村始が物語で描かれるような無双の英雄ではないということだ。それは体だけでなく、心も同じ。だからこそ、これ以上関わるべきではないとレナは思う。
「我々とは違うのですから……」
「どうかな?」
しかし鬼丸はにやりと笑う。それを見てむっとした声で返した。
「何がですか?」
「あいつぁここで引き下がるようには見えませんな」
「……理由がないです」
「それに、お嬢もそう思ってるように見えますが?」
「˝なっ」
そう言ってレナは顔を真っ赤にした。
「わっ、私は別に……」
そう言ってわたわたとするレナを見て鬼丸はふっと笑う。レナがこんなに隙のある表情を見せたのは一体いつ以来だろう。
その時。
「やあ、進んでいるか?」
周囲のがれきをぴょんぴょんと跳ねて避けながら、シルヴィアが近づいてきた。
「姫様……」
「相変わらずフリーダムですなあ」
最早慣れた様子で鬼丸もシルヴィアを見る。この二日で、鬼丸も色々見すぎてしまったのだろう。
「大体何でここにいるんですか、死んでください」
「わ、私だって一応関係者だろ?」
シルヴィアはびしりとレナを指さした。
「何が癇に障るのか知らんが、八つ当たりはやめろ」
「は?誰がそんな三歳児みたいな真似しますか、目の前のゴリラじゃあるまいし」
「待て誰がゴリラだ」
「おや、気づきませんか」
「貴様あ……」
シルヴィアが頬をぴくつかせながら槍を引き抜く。それを見てレナの足元にも魔方陣が展開され始める。
「ちょっ、お嬢。いくら何でもそりゃあまずいんじゃないですか、相手王族ですよ」
「心配要りません、正当防衛です」
「いやどこにも頷ける要素ないんですけど?」
「面白い、つまり後に当てた方が正当防衛で勝ち、というわけか」
「ンな訳ないでしょうが!何正当防衛賭けて争ってるんですか!」
仮にも昨日共闘した二人とは思えぬ光景に、鬼丸も遠くを見やる。
「誰か……助けてくれ……」
やけっぱちに呟く声に反応するものは誰もいなかった。
十三話です。オリバーさんは多分しばらく出てきません。
レナとシルヴィアは基本的に仲が悪いからね仕方ないね
それでは




