第十二話 王都襲撃(下)
「この様子じゃ大丈夫そうだなあ」
王様は爆炎を見ながら呑気にそう呟いた。
「しかしシンが急に発生するとは。普通は前兆があるものなのだが……」
ホークさんが顎に手を当てて考え込んでいる。どうやら今回の魔物について思うところがあるらしい。
「シンってあの……」
「そそ、何もないところからいきなり湧いてくるんだ。まあ害虫みたいなもんだな」
そんなお手軽なわけないだろとも思うが、しかし王様は随分と楽観しているようだ。一方でホークさんの方はぶつぶつと何か呟いている。
「損害は百棟と少しか……門の修理を考えると警備のシフトをいじらなければ……」
事後処理のことで頭が一杯のようで、声をかけても返事がなさそうだ。
「ホーク様ぁ!」
そして当然、駆け寄る衛兵の声もホークさんには届かない。ぶつぶつと何かを呟いていたが、とうとう頭を抱えだした。大丈夫かな、やっぱり王様がああだと気苦労が絶えないんだろうか。
「そうするとあの報告書は後回しか。するとまたオリバーから小言が……」
「ホーク様、皇女が」
「何だと姫様がどうしたァ⁉」
おうじょ、という言葉に即座に反応すると、ホークさんは衛兵にいきなり顔を近づけた。迫力満点のホークさんに若干引き気味に敬礼する。
「はっ、先ほどシルヴィア様が武器を手にシンに突撃されまし」
「ななななな何だとォッ!?」
ホークさんは勢いよく衛兵の襟を引っ掴んだ。
「貴様なぜ止めなかった!?皇女に何かあったらどうするのだ!」
「大丈夫ですよ、だって皇女ですよ?」
首をがくがくと揺らされながら、衛兵は面倒そうに返した。流石に皆が皇女に過保護ってわけでもないらしい。
ところがホークさんはなおヒートアップする。
「だから困るっつー話だろうが!」
「何が困るってんです」
「姫様はお強いんだぞ、うっかりはっちゃけてお顔に傷でもできたらどうするんだ、首一つでも釣り合わんぞぉ……」
「ンな無茶苦茶な」
衛兵は困り果てた顔で王様を見る。王様は苦笑いして、
「まあこいつのコレは職業病みたいなもんだから……お前も、さっきあいつが飛び出してったの見たろ、そう責めるなよ」
しかしホークさんは最早誰の言葉も耳に入っていないようだった。
「姫様、今お側にぃぃ!」
叫ぶと同時に剣を抜く。あわてて衛兵が羽交い絞めにして、ホークさんを止めようとするが、中々の馬鹿力なのか、大暴れしている。
……何ていうか、本当にあれが王都警備隊の隊長なんだろうか。
「……もうじき終わるぞ」
「へ?」
そんな二人から視線を外した王様は、魔物に視線を戻す。訳も分からず、俺は王様の方を向いた。見ても、先ほどと戦況は変わっていないように見えるが……。
「あれは大雑把に言ってしまえば魔力の塊なんだ。故に、過剰な魔力はぶつければ――」
瞬間、魔物の右腕が爆発した。
「終いだ」
レナは落ち着いていた。シンの右腕が爆発し、周囲の道から煙が立っている。つまり終わりは近いのだ。
シンの討伐には主に二つの方法がある。一つ目は封印のための儀式を行うことだ。最も確実で、実際多くのシンはこうして処理される。
二つ目はこうしてシンの体に本人の限界を超える魔力を注ぎ込むことだ。だがこちらの方はあまり現実的ではない。膨大な魔力が必要になるこの方法では、それだけの魔力をどうやって確保するのかという問題があるのだ。
だが、レナにそんな問題は存在しない。彼女は皇国一の魔術師である。保有する魔力量は一般の魔術師の数十倍はあるだろう。加えて、鬼丸やシルヴィアの実力も折り紙つきである。事態の収束は時間の問題かと思われた。
「さて、言うは易し、ですが……」
それでも魔物は倒れない。まともなシンであるなら、先ほどの一撃で、右腕だけでなく、全身が粉々になっていたはずである。どうやら今回の敵は普通のシンではなさそうだ。認めがたいが、レナの手には余る、ということである。
「仕方ありませんね」
レナはため息をつくと、すっと地面を蹴った。ふわりと浮き上がると、そのままシルヴィアの元へと着地する。
「皇女殿下、ご相談があります」
「奇遇だな、私もだ」
言いつつシルヴィアは持っている槍を敵へと投げつけた。そのまま落ちている武器を引っ掴んで振り回す。みるみる武器が豪華なものへと変わっていった。
「思っていたよりも頑丈なシンだ。おそらく私だけでは倒しきれない。故に、同時に攻撃を打ち込むしかない」
つまりは一度に大量の魔力を流し込み、敵を爆殺しようという、物量作戦である。
「やはり考えることは一緒ですか……」
「できるか?」
「愚問です」
そう言うと、レナはシンを斬りつけていた鬼丸に向かって叫ぶ。
「いいですか鬼丸、どうせ話は聞いていたのでしょう、合わせなさい」
言うと同時に鬼丸がレナの横に着地した。その顔は若干ひきつっている。
「いや合わせるって、俺バリバリの近接なんですけど……まさかお嬢の攻撃が当たるまでアレに張り付いてないといけないんですか?」
「あなたのスピードなら避けられるでしょう」
「いやできるのとやりたくないのって両立すると思うんですけども」
「おい、行くぞ!」
シルヴィアが若干苛立った声で叫ぶ。その一言で覚悟を決めたのか、鬼丸は再び刀を構えた。
「ったく、仕方ねえなあ――この韋駄天、ちっとばかし気張りますかね」
「最大火力だ、二度目はないぞ」
「タイミングは合わせます」
「行くぞ」
言うと同時にシルヴィアが駆けた。鬼丸がそれに続く。それと同時にレナの手元に魔方陣が展開される。
「オラオラオラオラ!」
敵から落ちる魔力の雨をかいくぐり、鬼丸が魔物に迫り、シルヴィアは高く跳び上がり、槍を大きく振りかぶった。
「撃て!」
言うと同時にシルヴィアが槍を振り落とした。鬼丸も下から刀を斬りあげる。
「爆ぜよ」
言うと同時に多くの火球が魔物へと押し寄せる。火球たちは一瞬にして魔物に達し――
「往生しろや!」
魔物は大きく膨らんだのち、爆発した。辺りに魔力の雨が降り注ぐが、それも一瞬で収まった。
「やれやれ、噂通りの腕だな」
「王女ぉぉぉ!ご無事ですか王女ぉぉぉ!」
ホークは事態が収まると見るや、シルイアに駆け寄った。当のシルヴィアは特に動じることなく胸を張っている。
「うむ、ご苦労である」
「ホントに脳筋ですね」
「ノーキン、とは何だ?」
「レナ殿、世俗の言葉は御前では控えていただきたい」
「失礼しました」
皆がわいわいと盛り上がる中、ぽつんと残されているのが一人。
「……あれ勇者君、どしたん?」
王様がひょっこりと初めの方を見る。
「いえ別に」
始は精一杯皆から目をそらして答えた。
「ひょっとして出番が全然なくて落ち込んでるとか」
「ヒャハハハざまあねえな畜生が!」
「やめなさい鬼丸、下品ですよ」
シルヴィアの純粋で、それ故に残酷な答えに鬼丸が嬉々として反応した。
そんな始に、アルフレッドがぽんと肩を置いた。
「まっ、そう気にすんなよ」
「俺……要らないじゃん」
ぽつりと呟く始に、一同は苦笑いを浮かべることしかできなかった……。
お待たせしました。戦闘シーンで主人公が何にもしてないのって珍しい気が……。
ま、まあ次は始君にも出番がありますよ~




