第十一話 王都襲撃(上)
「逃げろぉっ!殺されるぞ!!」
周囲からは大勢の人々の悲鳴が響き、皆が一斉に城へと向かっていた。
「はい落ち着いて!慌てると怪我をしますよ!」
衛兵たちが群衆をなだめながら城へと導く。それにしてもすぐに城を開けるとは、あの王様もなかなか大胆だ。警護のこととか大丈夫なんだろうか。
「まあ庭の周りまでしか入れないさ。教会だって開いてるだろうし、いい具合にばらけるんじゃないのかね」
ぬうと隣に立ったのは王様だ。相変わらずみすぼらしい恰好のままだが、よくバレねえな、いいのかよ。
しかしそんな俺の視線は意に介さず、王様は続ける。
「元々だだっ広いだけの屋敷だしな、入りすぎて困るってことは無え。機密情報のあるところに入るようなら殺すだろうがな」
まあ、王様は視線を横へやった。
「ホークは反対したけどね」
「当たり前だ」
ホークさんは睨み付けるようにして王様に応える。王様は慣れたようにして受け流しているが、下手な人間がこんな風ににらまれたら、まず動けないだろう。只者でないことは間違いないのだが、どうしてこう緊張感がないのか。
「大体警護隊はただでさえ人手不足なんだぞ。事態の収束でさえ、厳しいと言うに、この上城の警備をややこしくしたら……」
「別にいいだろ、城の中に入るくらい……」
「人災に乗じて敵地に入り込むのは、敵の十八番だろうが!」
ホークさんもいよいよ我慢の限界なのか、最早やけっぱちに叫び散らしていた。
「大体貴様はいつも危機感が足りんのだ!この前だってまた城下の酒場に行っただろう!一体いくつオリバーの胃に穴を空ければ気が済むのだ!」
オリバー、という単語を聞くと同時に、王様の肩がびくりと震えた。
「あ、あの日はちゃんと仕事が終わってから外に出たし……」
「王が外へホイホイ出るなと言っておるのだ!」
「何だよ、王様は外に出て遊んじゃいけないのかよ!?」
「少しは立場を考えろ!」
「お前は俺のお袋か!」
やいのやいのと二人が言い合っている間にも、巨大な影は城門に殴りかかっている。強い揺れと共にレンガがばらばらと落ちる。
「しっかしこりゃあいよいよマズいなあ」
王様は仰ぎながら空を見る。衛兵たちが何とか踏ん張ってはいるが、そう長くは保たないだろう。それに、これを追い払わなければ、事態は解決しないのだ。
「……一応言っておくが、王都警備隊からはこれ以上出せんぞ」
ホークさんは渋面のまま返した。
「なあに、この国の有為な人材ってなあ、何もお前のとこにだけ居る訳じゃないさ」
なあ、と王様は後ろを振り返る。
「そうだろ、手前ら」
後ろから三つの影が、王様を飛び越えた。
まず前に出たのは、鬼丸だった。
「オラオラ退きやがれ!運び屋鬼丸様のお通りじゃあっ!」
そう叫びつつ、鬼丸は腰の刀を引き抜いた。それを見て魔物が乱雑に腕を振る。すると、魔物の腕から何かが飛び散った。それは地面につくたびにしゅううと音を建て、道を溶かしている。まるで雨のように降り注ぐそれは、まともな人間なら躱すのはまず不可能だろう。
しかし――
「ヒャッハァァ!!」
運び屋鬼丸にとっては止まっているも同然。まるで水たまりを避ける子供のように、跳ねながら敵の攻撃をかわす。腰を低くし、獣のように駆ける。そして鬼丸の右目には、黒い瞳が宿っていた。そのさまはまさに修羅。しまいには降り注ぐ敵の雨をはたき落とし、敵前に迫る。
そして鬼丸は両足を揃え、跳び上がった。その高さは目測にして五メートルほど。背面にしてそのまま魔物を飛び越えると、すれ違いに様に刀を構える。
「月牙の型――三日月!」
くりぬくようにして刀をはわせ、敵の体を抉り取った。敵の体から先ほどのような魔力が飛び散り、いくつかが体にはねるが意に介さない。そのまま魔物に飛び乗ると、魔物の体を切り刻む。
「オラオラオラオラァァッ!」
体を溶かす音にも頓着せず、鬼丸は敵を刻み続ける。元々普段から荒っぽい言動が多いが、今日はいつにもまして暴力的だ。まるで戦いによって普段の性格が強調されているような――。
しかしそれでも体はごまかせない。魔物が鬼丸を振り落とそうという動きに流石に追いつけなくなり、とうとう鬼丸の体が宙に放り出された。すとんと着地すると同時に鬼丸は右手を抑える。
「……ンだよ、性格悪ィなァ……」
見ると、顔には割れ目のような紋様が浮かび上がっていた。痛みに耐えるように体に力を入れる鬼丸。だが、当然その隙を魔物が見逃すはずもない。
「――」
巨大な手を叩きつけてくる。しかし鬼丸は動けない。舌打ちして、敵を見据えると
「下がりなさい、鬼丸!」
凛とした声と共に、レナが素早く鬼丸の横を通り過ぎた。術式による身体強化だろう。そのまま敵に突進し、矢をつがえるようなポーズをとる。すると、彼女の手に炎が集まり、矢を形作った。
「――吹き飛びなさい!」
レナが叫ぶと同時に勢いよく放たれた火矢は、魔物の顎を直撃した。大きく体をのけぞらせた魔物の上空。そこには――。
「貰ったァーーッ!」
巨大な槍を持ったシルヴィアが勢いよくそれを顔面に叩き落とした。
激しい爆音とともにシルヴィアが着地し、胸を張ってレナをみる。
「どうだ、なかなか見事なモンだろう」
「槍、どうしたんです?」
「ん?ああ、どうせもう壊れてるさ、何せ安物だしな」
「安物って……」
王族が使うものが安物なわけがない。明らかに本人の使い方の問題だろうと思うが……。
「おいそこのお前」
「へ、へい」
シイルヴィアは何でもないように城の衛兵を呼びつけると、
「借りるぞ」
「へ?」
手からひょいと槍をひったくり、何度か上で振り回した。すると槍の形がみるみる変わり、
「なっ……」
衛士の使っていたものとは全く豪華な装飾のあるものへと変わった。さらに、槍にはかなりの魔力が含まれているのか、青白く光っている。
「やはり安物か、二合はもたんか……」
「槍を、作り替えた……?」
驚くレナをよそに、シルヴィアは槍を二、三度ついて見せた。そしてふむ、と満足気に頷くと、
「行くぞおおっ!」
そう言って駆けだした。
「全く、元気で結構なことですね」
「お嬢……」
「少しは落ち着きましたか」
そう言ってレナは鬼丸の方に寄った。言いつつ敵から視線は外さない。それを確認すると鬼丸も敵を見据えたまま答えた。
「すいません――ヘマこきました」
「分かっていればいいんです」
レナは目を閉じる。すると彼女の足元に魔方陣が発生した。魔方陣はその輝きを増していく。既に臨戦態勢だ。
「行けますか」
それに、鬼丸はにやりと笑い、
「承知ィッ!」
言うと同時に駆ける。二人の気配を察知したのか、魔物の体がゆっくりと近づいてくる。
だが、
「来いやウスノロ!」
鬼丸が刀を引き抜く。そのまま相手へと斬りかかった。今度は相手の懐へと踏み込み、そのまま勢いよく振りぬく。
「三日月ィィィッ!」
すれ違いざまに振り向くと、今度は勢いよく相手に向かって月を放つ。
「破月!」
刀が魔物に刺さると同時に激しい爆発を起こす。そのまま刀を引き抜くと、鬼丸は後方へと勢いよく跳んだ。魔物もそれを追うようにして一歩を踏み出そうとするが、
「あら、よそ見ですか。随分と余裕があるようですね」
レナが静かに呟くと同時に、多量の火矢が押し寄せる。その数は百を超えていた。
「これを避けるのは少々骨でしょう?」
炎と煙が、二人の視界を覆った。
どうも、ようやくの戦闘シーンですがどうでしょう。感想を頂けると嬉しいです。
それにしても敵さんが喋らないと中々難しいですね。
次回も戦闘が続く予定です。それでは。




